1994年ピクサー入社。『トイ・ストーリー』でプロダクション・コーディネーターをつとめて以来、ジョン・ラセター、ピート・ドクター(『モンスターズ・インク』ほか)、ブラッド・バード(『Mr.インクレディブル』ほか)など名だたる監督やスティーブ・ジョブズとも仕事をしてきた。
1995年に公開された『トイ・ストーリー』に始まり、『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』『カーズ』など、オモチャの世界から怪物、魚、ヒーロー、クルマと、ユニークな視点をもった題材選びでアニメ映画の新時代を築き上げてきたピクサー・アニメーション・スタジオ。そんなピクサーが、初の女性主人公、初のおとぎ話、初の中世時代の物語と、初めてづくしでチャレンジした作品が『メリダとおそろしの森』だ。
同作は、王家の伝統を重んじる厳格な母と対立ばかりしている主人公の王女メリダが、自由を求めて森の魔女に「運命を変えてほしい」と頼んだことから巻き起こる王国の危機と、それに立ち向かう勇気を描いたファンタジーアドベンチャー。女性が主人公でおとぎ話がベースの作品といえば、『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』といった古き良き時代のディズニーアニメのお家芸。
今なぜ女性が主人公のおとぎ話だったのか? その狙いから、ピクサーの創設者で、昨年10月5日に惜しまれながらこの世を去ったスティーブ・ジョブスとの思い出などを、来日した本作の女性プロデューサー、キャサリン・サラフィアンに語ってもらった。
──ピクサーといえば奇想天外なストーリーも魅力ですが、今回は女性が主人公でおとぎ話がベースになっているなど、往年のディズニーアニメのような設定です。そのことに関して、社内で何か議論はあったのでしょうか?
サラフィアン:仰るとおり、この設定を聞いて、『白雪姫』のようなディズニーのクラシックなお姫様を主人公にした映画を思い浮かべる人もいると思いますが、逆に私はすごくピクサーらしいと思うんですね。
なぜかと言うと、お姫様が主人公のおとぎ話ではありますが、決してよくあるおとぎ話ではないからです。ストーリーもお姫様がチャーミングな王子様に出会って結ばれるというものではなく、1人の独立心旺盛な少女が自分自身を探す旅に出て、その過程で家族との葛藤を乗り越えて絆が深まるという内容で、これをおとぎ話という枠のなかで描くのは、とてもユニークな試みだと思います。
サラフィアン:確かに、お魚(『ファインディング・ニモ』)とかクルマ(『カーズ』)とかネズミ(『レミーのおいしいレストラン』)とかロボット(『ウォーリー』)ではありませんよね。でも、今回、主人公が人間のお姫様になったからといって、自分たちのキャラクター作りのポリシーが変わったわけではないのです。ピクサーにとって、キャラクターとストーリー展開が全てですから。
サラフィアン:私は1994年にピクサーに入社して以来、スタジオの初期段階から今日に至るまでの経緯をずっと見てきました。その間、スタジオは拡大し、新しいアイデアや人材もどんどん入ってきたのです。
そのなかで大きかったのが、ジョン・ラセターが監督から、人を育てる立場へと回ったこと。おかげで、どんどん次世代の監督も育って来ましたし、技術の進化により新しいソフトもどんどん開発して来ました。けれど、ピクサーがユニークな点は、そうした変化ではなく、むしろ変わっていないことの方なんです。『トイ・ストーリー』を作っていた初期の頃から全く変わっていないのがストーリーへのこだわり。最高のストーリーを最高の形で伝えるために全員が情熱を注ぐという姿勢は全く変わっていません。
サラフィアン:これは彼が関わったピクサーの最後の作品、遺作でもあるのです。なのでピクサー首脳陣や、私も含めた映画関係者全員で追悼文を入れようと決めました。
私たちは彼が病気と戦っている姿を、悲しく辛い思いをしながら見てきました。その彼が創設者の1人としてピクサーに多大な貢献をしてきたことを讃える意味と、私たちフィルムメーカーを育ててくれた生みの親であるという敬意を込めて追悼文を入れたのです。
(text&photo=編集部)
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