1973年生まれ。98年に短編映画『Herbert C. Berline』で女優デビュー。『マルタ…、』(01年)でバレンシア地中海映画祭最優秀女優賞を受賞。10年に長編『彼女は愛を我慢できない』で監督デビュー。『わたしたちの宣戦布告』(11年)は2作目となる監督作。
『わたしたちの宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ監督&ジェレミー・エルカイム インタビュー
幼い息子の難病に立ち向かった実体験を映画化
出会った瞬間に恋に落ちた2人。ロメオとジュリエットという悲恋の物語の主人公の名を持つ彼らは幸せな生活をスタートさせるが、思いもよらない試練に見舞われる。2人の愛の結晶である幼い息子が、回復する可能性10%という難病に冒されてしまったのだ──。
ジュリエット役も兼務したヴァレリー・ドンゼッリ監督とロメオを演じた俳優ジェレミー・エルカイム。プライベートでもカップルだった2人の経験した苦難を基にした『わたしたちの宣戦布告』は、息子の病魔に立ち向かう夫婦の姿を描いた作品だ。苦難を前に絆を強め、乗り越えようともがく姿が見る者に勇気を与え、感動をもたらす。
フランスで大ヒットし、2012年アカデミー賞外国語映画賞のフランス出品作にも選ばれた本作を手がけたドンゼッリ監督と主演のエルカイムに話を聞いた。
監督:実は最初はアクション映画、戦争映画のようなものを作ろうと思っていたのでこのタイトルにしたんです。
思うに、人生は乗り越えるべき試練の連続です。その試練はヘビーで、多少の幸福感を伴います。(難病に冒される18ヵ月の息子)アダムは、ロメオとジュリエットの愛の果実です。「なぜ僕らの子が」というロメオにジュリエットが「私たちなら乗り越えられるから」と答えます。そのときの彼らの状況は、もはや不運だとか不公平だとかいう次元の話ではないんです。
エルカイム:僕たちが息子の病気と闘っている間、ヴァレリーは日記をつけていました。シナリオの段階では、日記という荒削りの素材に骨格を与えようとしました。それには、事実から距離を置いて、“物語”を作ることが重要でした。
監督:恋愛関係というのは、ある種、脳天気なもので、自分たちの愛を破壊するものなんて何もないという確信の上に成り立っています。ですが、子どもの病気を機に、ロメオとジュリエットは日常生活に埋没してしまいます。彼らの子どもが生き延びるためには“何か”が死ななければならない。“何か”とは、つまり恋愛関係です。それと同時にこの試練は2人の絆を再構築し、強化します。
私は、現代の、まさに今風のカップルを描きたいと思いました。ジュリエットが働きに行っている間、ロメオが家でアダムの世話をしているシーンを描くのはとても楽しかった。彼らは人生設計の途上にいて理想や夢がありますが、生活費を稼がなければならないんです。
ジェレミーと私の子どもも重病にかかり、劇中で描かれているのは私たちの体験にとても近いのですが、かといって、これが私たちの物語とイコールというわけではありません。
エルカイム:最後、2人は別れます。でも唯一無二の経験を共有した結果、これ以上ないほど成長し深く結びついているのです。彼らは普通のカップルのような関係には二度と戻れないでしょう。でも、さらにレベルの高い結びつきに到達します。自分たちが乗り越えてきたものがどんなものなのか、2人は暗黙のうちに了解しているのです。
エルカイム:恐怖はありませんでした。そこには撮影スタッフもいるし、エンディングもわかっている。むしろ癒やしでした。僕たちはポジティブなものだけをキープすべくネガティブなものを追い払うことを目標にしていたし、献身的ですばらしい病院スタッフの方々に再会できるのは感動でもありました。
監督:そう、そんな時間もないしね。彼らは常にアクションのただ中にいます。降ってわいたような大きな不幸に直面する人間には、もはや取るに足らない些細な問題は存在しなんです。彼らが倒すべき敵はたったひとつ。しかも、狙いは定まっています。
大きな試練を前にすると、人は自分の最大の力を発揮します。それはロメオとジュリエットに限ったことではないんです。
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