1960年10月12日生まれ。東京都出身。子役を経て、78年に深作欣二監督の『柳生一族の陰謀』で本格的映画デビュー。アクションからシリアス、コメディまで幅広い作品に出演、舞台でも活躍する。02年の主演作『たそがれ清兵衛』はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。『ラストサムライ』(03年)以降、『PROMISE プロミス』(05年)、『サンシャイン2057』(07年)、テレビシリーズ「LOST」、「リベンジ」などTVシリーズも含め、海外に活躍の場を広げている。今後の出演作に大石内蔵助を演じる『47 RONIN』が控えている。
今は亡き作家の評伝を執筆するため、1人の青年が遺族が暮らす南米・ウルグアイを訪れる。『眺めのいい部屋』(86年)、『日の名残り』(93年)といった文芸映画の名作を手がけてきた名匠、ジェームズ・アイヴォリー監督の最新作『最終目的地』は、複雑な関係を織りなす遺された人々と青年の交流を通して、愛すること、自身を見つめ直すこと、人生の豊穣さをじっくりと描く。
アンソニー・ホプキンス扮する作家の兄・アダムのパートナーとして、一歩引いた視点で彼らを見守るピートを演じた真田広之に話を聞いた。
真田:僕がやるとなった時点で、監督がもう変えるつもりでいらしたみたいです。脚本家が選んだ出身地が徳之島で、脚本を読みながら、なぜなんだろう? と、ちょっとクスッと笑いました。小さな島で貧しく育った少年が、ある人に見いだされて、という設定なので、徳之島のことも少し自分で調べながら、自分の経緯は練っていきましたが、その生い立ち以外は原作と一緒ですね、ほとんど同じです。
真田:『上海の伯爵夫人』では、一切アクション的なものもなくやっていたのですが、監督も僕のことを知り、ほかの出演作もより深く観察していただいて活かそうとしてくださった気がします。アクションやミュージカルもやっていた経歴とか、雑談で話していたことはありましたから。それで、馬に乗って駆け寄る演技などは、現場の演出で出てきたりしましたね。
馬のシーンは、準備が始まった後から増えたような気がしました。確かアルゼンチンでの撮影初日だったと思います。ちっちゃな女の子を前に乗せて走らなきゃいけないので、馬のオーディションは全部僕がやって(笑)。2人乗りが可能で、ちゃんと走れて安全という馬ですね。怪我があってはいけないので。馬は調教されていても、いつ野生に帰ってもおかしくないんです。現場ではいろんなことが起こるじゃないですか。ライトもあるし、物音もするし、スモークも焚くし、今回の現場だと蜂もいる(笑)。そういう危険なところで子どもを乗せるので、結構ナーバスになりました。でも、優秀な馬がいっぱいいたので、そのなかでベストをチョイスして、無事に終わりました。
真田:最初に本を読んだ時には「若きゲイ・パートナー」とありました。若きと言っても、彼(アダム)にとって若いだけで、まあまあいい年はいっているんですけど(笑)。そういう関係にある知り合いもいるので、取材をして、あれこれアイディアも作ってはいったんですけど、現場でいきなり監督に「余計なことをしなくていいから。とにかく自然にやってくれればいい」と。いきなりカウンターパンチのように言われたので、準備して行ったものを全部1回忘れることにしました。劇中で描かれない25年間を空気感だけで出さなきゃいけない。ホットだった時期も過ぎ、倦怠期すら過ぎ、家族愛に近いんだけども、やはりいまだにほのかに燃えているものがあってという、微妙な距離感じゃないですか。かたやアダムは愛情の裏返しで、ピートの将来のために突き放そうとする。その緊張感もあるし。やっぱりそれはもう、言葉・仕草ではなく、空気ににじませるしかない。ゲイのパートナーだからということよりも、自然に人間同士というところになっていくしかない。
真田:それこそ25年連れ添ったということであれば、僕はそれに等しいぐらいの年数、彼の映画を見て、尊敬してきたので、それをそのまま移行しちゃえ、と。そして、やっぱり現場でご一緒できる喜びも、彼への眼差しにそのまま投影しちゃおう、と。極力、自分の自然な感情で彼を見る目、距離感に、自然な愛情とリスペクトがすり替えられればいいなというのがありました。
真田:「さすが」だらけだったですね、どこを取っても。もう大ベテランですし、テクニックもありながら、毎回新鮮にアプローチを変えてくる。二度と同じことはなぞらないし、テイクを重ねても、毎テイク新鮮なんですよ。逆に言えば、タイミングもニュアンスも変わって出てきますから、こっちも常に聞いて感じて、それに対応していくという、基本中の基本に戻るしかなくて。小手先の技は通用しない相手です。監督もそうだし。そういう意味では、もうスッポンポンで胸を借りますっていう感じでした。とにかく、緊張をほぐしてくれようとしていただいて、無言で導かれるというか。彼の居方を見ていると、自分がどうあるべきかが、自然と見えてくる。見えない糸に操られているような感じがありましたね。
真田:そうですね。この撮影が予定よりちょっと遅れて、向こうが早まる、とか、いろいろな都合でちょっと重なっちゃったんですね。
真田:スケジュールが収まるまでは、ちょっと大変でしたが、体ひとつなので、行く先々で集中すればいいことなんです。逆に、近い役だと混乱するんでしょうけど、これだけ違うと切り替えはすごく楽だったんです。パキーンと(笑)。距離もありますから、ブエノスアイレスから経由してロサンゼルスに戻る間の飛行機でスーッと切り替えて。着いたらすぐジャッキーと1週間ぐらい戦って、またひとっ飛びしてピートに戻るという。結構そのギャップを楽しんでいましたね。
真田:もともと子役から出て、その後エンターテインメントから文芸、コメディー、と何でもやってきたので、自分としては、このぐらい極端に振り切ったほうが面白いと考えています。こういう作品があるから、安心してエンターテインメントにも行ける。またエンターテインメントで開拓したお客さんが、こういう作品も見に来てくれるようになって、相互作用が働いていくといいな、とは昔から考えていましたね。
真田:やはり超大作か超低予算しか、今は作れなくなってきているんですよね。その中間が作れなくなってしまったという悲しい部分もある。やる側としては、どちらもできるのはありがたいことです。同時に、アメリカではテレビドラマが世界マーケットを視野に入れてクオリティを上げてきているので、ますます中級クラスの映画が作りにくくなる。
映画を作る側、参加する側としては、選ぶ幅が狭まってしまうので非常に難しいところでもあるんですけど。そういう意味では、先日撮り終えた『Railway man(原題)』は、共演したコリン・ファースとも話していたんですけど、「今1番作りにくいものができたというのは奇跡に近いよね」と。それはテーマであったり、コリンとかニコール(・キッドマン)という名前があるからできたことでもあり、だからこそ「ちゃんと成功させないとね」という。厳しい時代だからこそ、これを成功させて、また復活させようという思いが強いんです。僕もそれに大賛成です。インディペンデントのアート系作品の劇場公開が難しい時代になってしまったのは世界的な現象ですが、特に日本はその傾向が強いと思うんですよね。どうしても大作か低年齢化したターゲットを相手にしたものしか作られない。大人の鑑賞に堪えるものが作りにくい。作っても公開されにくい時代だからこそ、『最終目的地』はちゃんと劇場で公開したいという思いが強くなった。厳しい時代だからこそ劇場にかけたいという思いがすごく強いんです。
真田:世界一有名なインディペンデント監督と言われて、各地で映画を撮ってこられた方です。いろいろな人種の方との交流のなかで、人種・宗教を超えたところでの理解とか協調性といったものを非常に大事にされています。これからますます多種多様化していく世界に、今からちゃんと備えておけよというようなメッセージかな。自分の主張はちゃんと持ちながらも、人とどう協調し、自分の人生の落とし所をどこに見いだしていくのか。「こうしろ」ではなくて、「あなたはどうなの?」「ちょっと考えておいたら?」というような感じですよね。
『最終目的地』といっても、実は場所にこだわるのではなくて、どう生きるか、誰と生きるか。それがたまたま此処だった、ということでもいいんじゃないの? と感じるんですよね。要は、国境とか人種とかではなくて。それは、すごく共鳴するところでした。作った人間がいればいるほど、夢は強まるものですから。
(text=冨永由紀 photo=編集部)
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