『ナイトピープル』佐藤江梨子&門井肇監督インタビュー

傑作クライムサスペンスに挑む演技派女優と新鋭監督!

#佐藤江梨子#門井肇

佐藤さんと北村(一輝)さんであれば、面白い人物像が描けると感じた(監督)

直木賞作家・逢坂剛の傑作ミステリー短編「都会の野獣」を、『休暇』(08年)の門井肇監督が映画化した『ナイトピープル』。

原作にはないスリリングな展開を盛り込み、ラストに向けて登場人物のさまざまな感情や思惑が交差していく騙し合いは、見ているものの目を釘付けにする。そんな迫力のクライムサスペンスで、物語の鍵を握るミステリアスな女性を演じた女優・佐藤江梨子、そしてメガホンを取った門井肇監督が作品の見どころについて語った。

門井肇監督

──過去の『棚の隅』(07年)、『休暇』とは趣の違う作風に感じましたが。

門井監督(以下監督):これまでは大人しいというか、地味な人間の内面を描くような作品を撮っていたんですが、基本的には本作でもそのラインは僕のなかでは変わっていないんです。ただ(小池和洋)プロデューサーから「今回は娯楽にふった作品、逢坂さんの原作で、佐藤さん主役でやろう」という提案があり、これは面白いなって思ったんです。

──一筋縄ではいかない登場人物ですが、キャスティングへの感想は?

監督:登場人物が、それぞれ悪い人だけど憎めない魅力のある人……そんな物語を描ければいいなと思っていたので、佐藤さんと北村(一輝)さんであれば、様々な役柄を演じてこられた方たちなので、きっと面白い人物像が描けるのではないかなと感じました。

──佐藤さんが台本を読んだときに持った作品の印象はいかがでしたか?

佐藤:最初にいただいた台本から二転、三転と変わっていったのですが、初めて読んだときの面白さはそのままで、登場人物すべてが騙しあうような話がとても興味深く、原作もとても面白かったので、素直に作品に参加したいと感じました。

発砲シーンはちょっと快感でしたね(佐藤)
佐藤江梨子

──非常に個性的な北村一輝さんや杉本哲太さんと共演してみて?

佐藤:杉本さんとは何本か作品でご一緒させていただいたり、行っている美容院が一緒だったりしてお友だちだったので、すんなり入れました。北村さんとは初めての共演でしたがレディーファーストで、女性にも男性にもとても優しく、気さくで、面白い方。そして、一緒に芝居をしていてとても勉強になりました。北村さんのセリフのなかで「悪いことすると上がるんだよね」っていうのがあるのですが、こんなにもそのセリフが違和感なく言える人はいないなと思って(笑)。いつか私もそんなセリフをいただいたら、自然に言えるようになりたいなって思いました。

──劇中、銃を撃つシーンなど、佐藤さん演じる萌子は強くカッコいい女性でした。

佐藤:発砲シーンはちょっと快感でしたね(笑)。もちろんいろんな仕掛けがあるのですけれど、自分の撃った弾によって相手が倒れたりするのは素直に「カッコいい」って思っちゃいました。ガンアクションはあまりやったことがなかったのですが、きちんと指導していただいたのでやりやすかったですし、とても楽しかったです。

──市街での銃撃戦など派手なガンアクションも作品の魅力のひとつだと思いますが。

監督:アクション監督だけでなく、ガンアクション専門の方にも現場に入ってもらったので、非常に心強かったですね。せっかく彼らが入ってくれたので、CGとかではなく、なるべく派手な銃撃戦をやりたいという思いが強く、可能な限り火薬を使いました。見ている方も気持ちがいいと思ったので……。ただ発砲の数が多かったので、佐藤さんの顔の辺りで何度もバンバン鳴るのは心配でしたけど。

──雪山での激しい銃撃戦、撮影は大変ではなかったですか?

佐藤:冬場は営業していないようなペンションでの撮影でした。水道が使えないので、片道15分とか歩いて違うホテルのトイレに行くんです。その道すがら、みんな1回は滑るので「キャッ!」とか声が聞こえて、大変でしたけど面白かったですね。

監督:マイナス15度ぐらいという本当に寒いところでの撮影で、水も使えず、暖房もつけられない。キャスト・スタッフには大変な思いをさせてしまいました。道が凍って坂が上れずロケバスが到着できなかったりというハプニングもありました。でも、苦労しましたが、雪山でのアクションという珍しい撮影もできたので、面白いものが撮れたかなって思います。

この年になると背が高くて良かったなって思えるようになってきました(佐藤)
(C) 「ナイトピープル」製作委員会

──全編で無国籍な雰囲気が漂い、フィルムノワール的な世界観を醸し出していました。

監督:ライターやカメラマン、プロデューサーにはノワールにこだわって撮りたいという思いがあったようですね。僕としては基本的には人間ドラマを撮るのが好きなので、そこに力を入れたいと思っていたのですが、ノワールという部分では、原作になかった登場人物として、三元雅芸さん演じる葛西というやくざ役を入れました。彼の心情を表現するのに火のシーンを入れることによって、しゃべらなくても気持ちを語らせようという演出を意識しました。

──佐藤さん演じる萌子は相手を騙す役ですが、今回の役を通じて挑戦しようと思ったことはありますか?

佐藤:騙す役よりは騙される役を演じる方が楽だと思いますね(笑)。これまで個性の強い役が多かったのですが、今回は割と普通の人と距離感が近い役だったので、ナチュラルにやろうと心がけました。いつも「最先端の、来年くるから!」とかスタイリストさんが「気合入れて、作って!」みたいな役が多かったですからね。

佐藤江梨子

──今後、女優として演じてみたい役は?

佐藤:具体的に「この役」というよりも、いまの年齢(31歳)じゃないと演じられないような役をやってみたいですね。30歳にならないと演じられない役ってあると思うので……。若い頃は、学生の役とかやっていても、背が高くて、席順も変更になったりと色々大変でしたけれど、この年になると背が高くて良かったなって思えるようになってきましたし、これからどんな役にめぐり合えるのか楽しみです。

──監督は今後撮ってみたい作品のイメージはありますか?

監督:何でもやってみたい気持ちはありますが、本筋は人間ドラマを描くのが好きなので、どんなジャンルの作品でもその部分は大事にしていきたいです。まだ具体的にはありませんが、自分で書いたオリジナル脚本で撮ってみたいですね。

──最後に作品の見どころを教えてください。

佐藤:出てくる人が全員怪しいので、誰が1番悪い奴なのか、人それぞれ感じ方は違うと思うので、それを見ていただければと思います。

監督:街中でのアクションシーンなどはもちろんですが、佐藤さん演じる萌子さんが、北村さん演じる信冶さんに対して、だんだんと気持ちが変わっていくところなども見ていただけると嬉しいです。

(text&photo=磯部正和)

佐藤江梨子
佐藤江梨子
さとう・えりこ

1981年12月19日生まれ。東京都出身。98年にフジテレビ系で放送された深夜ドラマ「美少女H」で女優デビュー。その後、数々のテレビドラマ、映画、舞台で活躍し、梶間俊一監督の『プレイガール』(03年)で映画初主演を果たすと、『キューティーハニー』(04年)、『口裂け女』(07年)など話題作で主演をつとめ、吉田大八監督の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07年)ではヨコハマ映画祭・主演女優賞を受賞した。

門井肇
門井肇
かどい・はじめ

1973年生まれ。茨城県出身。97年に自主制作映画『ささやかなこころみ』で、第2回水戸短編映画祭グランプリを獲得。06年に直木賞作家、連城三紀彦原作の短篇を映画化した『棚の隅』で監督デビュー。モントリオール世界映画祭に正式招待される。その後、吉村昭の短編小説を原作にした『休暇』(07年)を発表すると、第33回トロント国際映画祭に招待出品され、第5回ドバイ国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞。国内外で高い評価を受ける新鋭監督である。

門井肇
ナイトピープル
2013年1月26日よりシネマート新宿ほかにて公開
[監督]門井肇
[脚本]港岳彦
[原作]逢坂剛
[出演]佐藤江梨子、北村一輝、若村麻由美、三元雅芸、杉本哲太
[DATA]2012年/日本/太秦/90分
(C) 「ナイトピープル」製作委員会