ロック、歌謡曲、ソウルなどの要素を取り入れたクレイジーケンバンドのボーカルであり、作詞・作曲を手掛ける。同バンドは1997年に横浜にて結成。翌年デビュー。以降、横浜を拠点にライブ活動を行い、02年の「GT」で大きな注目を集める。「タイガー&ドラゴン」は同名ドラマの主題歌に起用され、スマッシュヒットを記録した。
『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』行定勲監督&横山剣(クレイジーケンバンド)インタビュー
行定勲監督×横山剣、独占対談! 「これが本当の意味の主題歌(行定)」
直木賞作家の井上荒野による同名小説を映画化した『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』。艶という女と大島に駆け落ちした主人公の松生を、阿部寛が壮絶な役作りで演じていることや、小泉今日子などをはじめとした豪華な女優陣の出演でも話題の本作。
本インタビューでは、大人の愛の映画を生み出した行定勲監督と、監督からの熱烈ラブコールにより主題歌を担当したクレイジーケンバンドの横山剣を直撃。単独インタビューで、主題歌「ま、いいや」の誕生秘話や本作の魅力などを存分に語ってもらった。
監督:『つやのよる』の脚本を書いているときにね、ずっと聞いていたのがCKBの「ガールフレンド」だったんですよ。なんかね、そんな気分が自分のなかにあって。それで本作に主題歌を入れるのならば、CKB以外に考えられないということをプロデューサーに言ってたんです。キャスティングより前にね。
イメージ的にも伝わりやすいんですよ。CKBの曲は色っぽくて、男と女のごちゃごちゃしているところを、ある種のダンディズムもありつつ、独自の世界観で迫ってくる。だからCKBがこの映画の主題歌だと言えば、なるほど映画自体が大人な作品になるだろうと、プロデューサーにも説明がしやすかった。で、ダメ元でオファーしてみましょうとなった。
横山:いわゆるコンペとかじゃなくて、CKBにやって欲しいと。嬉しいのと物凄いプレッシャーの両方でしたね。脚本を読ませてもらって、パイロット版も見て、自分がこの作品に太刀打ちできるのだろうかと。ハードルは高いぞ、これは長い旅になるぞと。でもうまくいったらすごいだろうなとも感じました。だから、一か八かでやらせてもらった感じです(笑)。
横山:今回が初めてです。僕は映画に縁があるなどとは思っていなかったし。子どもの頃から曲を作ることに思いがあったので、映画を見ると主題歌とか映画音楽に関心が行ってました。だから、こんな嬉しい話はないんだけど、いざ、本当に来ちゃうとね(笑)。結構なプレッシャーでしたよ。
横山:今回はフルオーダーですからね。「ガールフレンド」を使うということだったら楽だったんですけど(笑)。映画を壊しちゃいけないけれど、でもこの映画の場合、さりげない曲では弱い。相当タフな曲じゃないと。だから主人公の松生って人のなかに入っちゃおうみたいな感じで向き合いました。
横山:今おっしゃられた松生の顔、これですよね。最後に子どもからある言葉を言われて、松生がすごくいいほのかな笑顔をする。そしてラストのショット。あの感じがトリガーになって、楽曲が一気に押し出されました。
横山:メロディと一緒にパッと出てきた歌詞というのは、言霊的にはとても強いんです。ただその間を埋めたりするのがもともと苦手で。これまでにも結構メンバーに頼ったりしてるんです(笑)。ただ、今回はそうもいかないなと。自分以上のボキャブラリーで作品全体を表してくれるプロフェッショナルが必要だぞと。そこで、もう監督しかいないなとなりました。
監督:まずこんな経験はないわけですよ。CKBの楽曲の歌詞の、ある部分だけでも書く。これは音楽好きとしては、特にCKB好きとしてはたまらないわけじゃないですか。「大丈夫か、俺!?(笑)」っていう気持ちもありましたけど、でも断ったことによって、剣さんがもうこれ以上書けませんといって、話自体がなくなってしまうのが1番怖かったわけ。だから僕も必死でした。でも本当にいい経験でしたね。映画の主題歌で、なんでこの主題歌なんだろうと思うことも、正直ありますよね。でも僕は幸運なことに、これまでにも井上陽水さんとか矢井田瞳さんとかCoccoさんだとか、指名したアーティストの方々とやれている。今回も叶ったわけだけど、今までにも増して、今回の楽曲は映画を補ってるんですよ。
本作が結果的にどこに帰結するかというと、これは松生の話だったんだなと、それがはっきり分かる楽曲になってます。剣さんがラストシーンの松生の顔を見て、これだ!と思って書き始めたというのは、ものすごく上質な観客だということです。初号試写が終わったときに、「いや〜、なんでだかわかんないけど、最後にこの話が爽やかというか、爽快なものになったよね」って。最後の最後で意表をついた形に変わるんですよね。これは剣さんが作った曲が、そして一緒に作らせていただいた歌詞がそうさせるんだと。これが本当の意味の主題歌だと思いますね。
監督:そうですね。この作品では特にそうなっています。そしていい意味ですごくストンと落ちてくれた。主題歌でこの曲が来ることが分かっていたので、その逆算のもとに、直前のシーンには音楽をつけませんでした。この主題歌はキャラクターの延長上にあるんですよね。まるで松生役の阿部さんが歌っているかのような。大抵の映画は、主題歌がかかり始めてエンドロールが流れますが、作品と曲をあえて切り離すこともあるんです。でも『つやのよる』の場合は、完全に繋がっている。そこはね、やっぱり「ま、いいや」っていう言葉ですよ。ソウルから出てきた言葉だから敵わない。
横山:松生という男が、マックスまで限界までやっている。そのときに過(よぎ)った言葉がコレだったんです。最後の表情が全てを語っているので、言語化するのは難しいんですけど、僕はそう感じましたね。それから、「ま、いいや」という言葉のほかに、この映画には「ざまあみろ」っていうもうひとつのキーワードがあると感じました。松生はただ単に艶に振り回されただけじゃなくて、実はあのなかで1番ワイルドでタフな男なんだと。最初は情けないなって思うんですけど、後半では1番頼もしい。松生はワイルドだと。その瞬間に、価値観が全部ひっくり返るんですよね。
横山:松生以外で、ということなら、岸谷五朗さんの演じた太田かな(笑)。不動産屋さんの前で座っている佇まいだけでもってっちゃうのは凄いですよね。
横山:太田と松生の両方に共感する自分がいますね。
監督:イメージとしては、太田は剣さんもピッタリだなと思ってました(笑)。
横山:いや、とても無理ですよ! あんなラブシーンとか、絶対できません。
監督:でも剣さんは着物とか着流しとかよく着ますよね。サングラスして着流しとか。だから太田にも結構合うと思いますよ(笑)。
監督:羨望です。狂ったように人を愛する、なかなかそうはなれないですよ。しかも相手からのレスポンスがないわけだから。でもそれを期待するわけでもなく、とにかく無我夢中で愛する。ただ、松生が(大竹しのぶ扮する)元奥さんと(忽那汐里扮する)娘と対峙するシーンで逃げるでしょ。あの逃げるときの松生は、1番人間くさくてかわいいですね。
男はダメなやつらなんだけど可愛らしい。たぶん男は愛についていつまでも未完成なんですよ、女性はより成熟している。この作品にはいろんな愛の形が描かれていて、「なんで?」って疑問が沸くこともあるかもしれないけれど、それはそのまま見て欲しいですね。
監督:松生という狂ったように見える男の情熱がひとつ真ん中に通っていて、いろんな人間の状況が折り重なってできている作品です。なかなか演じにくい役ばかりだったと思います。だからいい役者たちが揃わないと面白く成り得ない作品なんです。松生役の阿部寛さんはもちろんのこと、キャスティングにはものすごくこだわりました。この映画に賛同してくれた役者たちがやってくれて、本当によかったと思っています。
横山:ネタがバレても、2度、3度見ても、鮮度が落ちない、そんな強度のある映画ですし、実際に見るとまた印象が全然違うと思います。あいまいなところも含めて、とてもリアルな作品だと思うので、ぜひ映画館の大画面で見て欲しいですね。
監督:男女の恋愛のあれやこれやを描いている作品です。今の大人の人たちはこういう題材に餓えていると思う。どうキャッチしていただくかは、見る方次第です。さまざまな愛の形が繰り広げられるので、ぜひとも期待して見てもらえると嬉しいですね。それから、最初に言ったように、脚本ができて、次にCKBが主題歌をやると決まったときに、みんなが腑に落ちた。そんな映画です(笑)。楽しんで見てください。
(text&photo=望月ふみ)
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