ジュディ・デンチ
Judi Dench
1934年12月9日生まれ、イギリス・ヨーク州出身。1957年に『ハムレット』のオフィーリア役で舞台デビュー以来、イギリスでもっとも権威ある賞のひとつローレンス・オリヴィエ賞を史上最多の8度受賞する。映画では、007シリーズの“M”役で世界的に知られており、『007スカイフォール』(12)まで17年間演じた。主な出演作は、第71回アカデミー賞で助演女優賞を受賞した『恋におちたシェイクスピア』(98)をはじめ、『ヘンダーソン夫人の贈り物』(05)、『あるスキャンダルの覚え書き』(06)、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(12)、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(17)など。数多くの舞台や映画で活躍を続けている。
趣のある“高級リゾートホテル”に長期滞在するためにインドを訪れた7人の熟年男女。ある者は夫に先立たれ、ある者は病気治療のため、ある者は退職後の骨休みとして……人生の再スタートを切るために、それぞれの思いを抱えながらたどり着いたホテルは、“高級”どころかほこりだらけのオンボロホテルだった。
落胆しながらもインドにとどまらざるを得なくなった彼らの人生模様を描いたのが『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』だ。混沌としたインドで人生を見つめる7人の変化と、オンボロホテルを高級リゾートに変えようとする若きオーナーの奮闘が笑いと感動をもたらす。
本作で、夫を亡くし、初めて1人暮らしすることとなった未亡人を演じているのはジュディ・デンチ。『007』シリーズのMとしても知られ、『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞助演女優賞を受賞するなど確かな演技力で知られるイギリスの名女優だ。悲しみを抱えながらも、前向きに一歩を踏み出していく女性・イヴリンを伸びやかに演じた彼女に話を聞いた。
デンチ:私は彼の崇拝者なの。チャーミングで才能豊かな監督よ。ジョンに必要とされれば喜んで駆け付けるわ。
俳優をセットに迎えるとき、彼はあらゆる準備を済ませて静かに待ってるの。彼との仕事はとにかく楽しいのひと言に尽きる。彼は、自分で準備してきたことを出演者に悟らせないまま、ひたすら安心して自分らしい演技ができるように導いてくれる。そうできるように彼が振舞ってくれるの。監督自身、自分のしていることをよく分かっているのよ。
デンチ:まず、監督がジョンだと聞いて「彼と一緒なら、ぜひ!」そう思って二つ返事で引き受けたの。映画のストーリーもすごく気に入ったわ。インドで撮影するというのも聞いたんだけれど、インドって一度も行ったことがなくて、それに正直に言うと、行きたいとも思わない場所だった。だけど、すっかり虜になってしまったわ。本当に人生が変わってしまうような体験だったし、本当に変わってしまったのよ。一言で言うなら、インドへ行く前の私の視野は(左右の手を数センチだけ開けながら)これくらいだったんだけれど、インドへ行った後は(両手を思いきり広げて)これくらいになってたの。こんなふうにひとつの国にこれほど影響受けたことは今までなかったわ。
デンチ:劇中に「インドはまさに感覚を攻撃してくる国だ」っていうイヴリンの台詞があるんだけれど、まさにそのとおりよ。見たことのないような色にあふれているの。道を歩いていると、ありとあらゆる色のサリーを着た女性たちに出会えるし、男性はみな真っ白なシャツを着ていて、どこを見ても動物や子どもたちがいる。食べ物も本当においしくて、あちこちに鳥がいるから、町の音も独特なのよ。ああ、本当に、またいつかインドへ行きたいわ。そのときには家族を連れて行きたいの。
みんな、私がインドのことばかり話しているからほとほと退屈してるのよ。私がインドの話を始めると、本当に止まらないから。「ああ、またインドの話がはじまった」ってね。でも、本当に忘れられない国だったわ。
デンチ:彼女は夫を亡くしたばかりなんだけど、夫に借金があったことを知らず、自分がほとんど無一文だということを突然知らされてどうしたらいいか分からなくなる。どこに行けばいいのか? 高齢者用の施設は高すぎて入れない。で、少ない出費で長く暮せそうな可愛らしい小さなホテル目指して、インド行きを決意するわけ。ところがいざそこに到着した途端、そんな期待は完全に裏切られるの。でも、目の前の状況を受け入れて挑戦しなければいけないときもある。それをやってのけるのがイヴリンの凄いところなの。諦めようとしないのよ。自分にできることを一生懸命やっているうちに、すっかりインドに魅せられてしまう。イヴリンの人生はまだまだこれからだし、彼女はそれを自分でよくわかってるの。
デンチ:いいえ。何かやれそうなことがあるうちは引退なんてしないでしょうね。一度辞めてしまったらそれっきりだもの。実は、すでに結構しんどくなってはいるんだけど(笑)、自分に向かって退場のカードを突きつけるのがいいことだとは思えないの。それに私は、やりたいことをやれてる恵まれた人生を送っていると自覚している。自分の好きなことを仕事にできている人が、一体どれぐらいいると思う? こうして仕事があることは、運がいいって思うもの。あり得ないほどの幸運よ。というわけで、やっぱり引退なんて考えられない。私のプランは仕事を続けていくことなの。
デンチ:誰にとってもそれは心配の種だし、実際に何人も体調を崩したわ。インドでは細心の注意をしなくてはだめよ。ボトルに入ってる水以外は飲まないこと。飲み物は氷なしで飲むこと、サラダのような料理には用心すること。私は最後の最後に風邪を引いたの。ジョンは本当に体調を崩していたわ。
デンチ:目を悪くしてしまったので、もう読むことができないの。そのかわり口頭で伝えてもらうんだけど、私はそれが好きなの。娘かエージェントか友人の誰かが脚本を読み上げてくれるのを聞いてると、心の眼を通じてシーンが見えるから、この方法は大いに気に入ってるの。まだこの目で見たり読んだり出来てた頃から、私はそうするのが好きだったのよ。読んで聞かせてもらう良さってね、心のなかに瞬間的に素晴らしい絵が浮かんでくることなの。登場人物のこともよくわかるし、ストーリーを聞いているだけで、自分のなかにひとつの世界が作り上げられていくの。
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