1975年1月5日生まれ、アメリカのペンシルバニア州出身。ジョージタウン大学卒業後、ニューヨークのニュー・スクール大学アクターズ・スタジオ・ドラマスクールで芸術修士号を取得。全世界で大ヒットを記録した映画『ハングオーバー』シリーズ(09年、11年、13年)で主演をつとめ人気を博す。12年、デヴィッド・O・ラッセル監督作『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた後、『アメリカン・ハッスル』(13年)、『アメリカン・スナイパー』(14年)と3年連続でアカデミー賞にノミネートされる。
妻の浮気を知って心のバランスを崩し、仕事も家庭も失った挙げ句、両親の家で社会復帰を目指すパット。交通事故で夫を亡くして以来、荒れた生活を送るティファニー。
愛する人を失った男女が、病んだ心をぶつけ合いながら、ダンスコンテスト出場という目標に向かって進み出す型破りなロマンティックコメディ『世界でひとつのプレイブック』は世界中で大きな共感を呼び、第85回アカデミー賞では8部門でノミネート、俳優は全4部門で候補という31年ぶりの快挙を成し遂げた。
作品の中心となるパットを演じたブラッドリー・クーパーが1月下旬に来日、話を聞いた。
クーパー:最高の気分だよ。これほど演技を評価してもらえる作品に関われたのはうれしいし、何と言っても、デヴィッド・O・ラッセル監督のおかげだと思う。彼の前作『ザ・ファイター』(10年)もオスカーで3部門(主演男優、助演男優、助演女優)で候補になり2部門(助演の各賞)で受賞している。アカデミーが彼と役者の関係性を評価していることは素晴らしい。
クーパー:実を言うと、それよりもまずデヴィッド・O・ラッセルと一緒に仕事をしたいという気持ちが先にあった。彼の大ファンだったんだ。彼はコメディとドラマというジャンルのギャップに橋を架けることの出来る人。ジョン・カサヴェテスにハル・アシュビー、マイク・ニコルズを合わせたみたいで、しかも独自のカラーを持っている。
パットというキャラクターは、心の持ちようというか根本の部分は変わらないけど、様々な経験を通して変わっていく。その変化の過程に惹かれたね。僕にちゃんと演じられるだろうかと不安もあったけれど、ぜひやりたいと思った。
クーパー:パットの心というものを把握し、同時に彼の思考プロセスを理解しなければいけなかったね。外面的な部分には結構アドバンテージがあったんだ。僕は舞台となるフィリー(フィラデルフィア州)育ちだし、パット同じように両親はイタリア系とアイルランド系だし、(NFLチーム)イーグルスの大ファン。家族もパットの家族と何となく似ているし、周囲の人々も映画に登場するような感じだ。服装や歩き方、言葉のアクセントとか、すべて身についているから、その感覚と、僕なりに理解したパットの心を合わせる形で演じたよ。
クーパー:ああ。演じてないみたいに見えたらしい。一瞬、「え?」っと思ったよ。だって、パットはものすごくトラブルを抱えてる人間なわけだから(笑)。
クーパー:監督との信頼関係が大切だと思う。監督の感受性を信じなければならない。どの瞬間もちゃんとパットとしてそこにいることに徹し、監督に身を委ねることを心がけたんだ。この作品はコメディである一方、ダークな部分もあるという点にも留意した。これは僕だけじゃなく、参加しているみんなに共通する意識だった。それが監督の設定したトーンだからね。ギザギザした起伏の多いストーリーを表現するために、役者もスタッフも素早い反応を要求された。360度どこからでも撮れるようなセッティングで、カメラワークが瞬時に変わることもしょっちゅうあった。
クーパー:リハーサル中に何回か肘をぶつけられたかな(笑)。楽しかったよ。撮影前の数週間の練習、リハーサル、そして撮影、とレッスンを通してジェニファーとの絆がどんどん強くなっていった。パットとティファニーになりきれたのは、ダンスレッスンの賜物かもしれないね。ジェニファーとはその後に『Serena(原題)』でも共演したんだ。
クーパー:彼と仕事をした俳優は皆、最高の演技を引き出してもらっている。誰もが芝居なんてしてないみたいに見えるんだ。今回一緒に仕事してみて、その理由がわかったよ。要求されるんだ。カメラの前で自分を捨て去り、すべてさらけ出すことを。それに応えられない者には居場所はない。セットにいて、共演者たちが恐怖や不安をかなぐり捨てて、脆さをむき出しにして役になっていくプロセスを目の当たりにできたのは、とてもいい経験になった。だから、次作もまた彼と組むんだ。
クーパー:まさか! 逆だよ(笑)。彼の存在が出演を決めた理由の1つなんだから。『リミットレス』で共演して、彼とはいい友だちになれたんだ。ボブ(デ・ニーロの愛称)のことを「父さん」と呼べる。ここで描かれる父と息子の関係は激しいもので、大変なシーンも多い。彼とならできる、という気がしたんだ。ボブはそれこそ、演技してないように存在してくれる。だから僕としてはやりやすい。演じるうえで毎回必要なことではないけど、元々のお互いの関係性があることが相乗効果を生むことはある。今回はまさにそのパターンだから、彼との共演は素晴らしいボーナスだった。
クーパー:そうかもね。『ハングオーバー』も全員同じメンバーで3作目があるし(笑)。ラッキーだと思うよ。
(text=冨永由紀 photo=居木陽子)
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