イリノイ州シカゴ出身。ラナとアンディの姉弟で、30年にわたり共に仕事をしている。キアヌ・リーブス主演で大ヒットし『マトリックス』三部作(99、03、03年)や『スピードレーサー』(08年)などの作品で知られる。
『クラウドアトラス』ウォシャウスキー姉弟&トム・ティクヴァ監督インタビュー
“魂の成長”について3人の監督が熱く語る!
19世紀半ばから未来まで、数百年にわたる6つの時代に転生した魂の成長を描いた『クラウド アトラス』。ある人生での学びを次の生にいかして成長する魂もあれば、物欲や支配欲にかられて停滞したままの魂もある、そんな時を超えた魂の歩みをトム・ハンクスやハル・ベリー、ヒュー・グラント、ペ・ドゥナといった大スターが1人につき6役を演じることで表現しているのが面白い。
輪廻転生の思想をベースにした哲学的な物語を、パズルのような巧みな構成とスタイリッシュな映像でエンターテイメント作品に仕上げたのは、『マトリックス』シリーズ(99年〜03年)のラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟監督と、『ラン・ローラ・ラン』(98年)のトム・ティクヴァ監督だ。
意気投合して脚本と監督を共同で務めたという3人の監督に、本作について話を聞いた。
──『クラウド アトラス』には、魂の本質は変わらなくても成長することができる、ということが表現されていました。それは、みなさんがこれまでに作り出した映画にもいえることだと思います。映画あるいは魂が成長するために、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?
ティクヴァ:まさにそれが主題です。私たちの人生、世界、芸術における主題は成長であり、私たちの過去のすべての映画にもおそらくこの主題が出ていると思います。新しい存在として別の段階に進化していくプロセスには、大きな勇気を要します。つまり、人間として自分を定義できるところを見つけたらそれにしがみつくかもしれませんが、柔軟性を失ってしまうと、そこから何も学べなくなってしまうかもしれません。そこから成長するには、他の人に会ったり、誰かが手を貸してくれたりするといったことを経て、個人が成長していけるのだと思います。それがまさに魂あるいは人間の進化だといえます。
これはひとりでできることではなく、ほかの人と一緒になってできることですよね。この作品に関しても、自分ひとりではそこまで到達できませんが、3人が集まってやればよりよいものができるという意図がありました。私たちはさまざまなことを共有しながら、これまでの4年間、この作品にかかわってきました。
ラナ:このテーマは一日中でも話せるわ。常に意識の中心にあるのは「変化」ということ。物事は変わるのか、私たちは変われるのか、自分がいまどこにいるのか、世界はどういう状態なのか、そういうことを考えるとほかの状況や可能性を考えることができます。マトリックスの3部作もまさにこの題材でした。
また、人間はパラドックスのなかで生活していると感じていて、その刺激的なアイディアがもっと進化した形で本作にも登場しています。たとえば、(ペ・ドゥナが演じている)ソンミは、あの場所にずっといれば頭に釘を打たれますが、もし彼女があの場所から出ていき、複製種(クローン)のリーダーとしてスピリチュアルな案内人あるいは革命の戦士になるという自分の使命を生きたとしたら、それでもやはり頭に釘を打たれてしまう。どちらにしても運命は同じですが、単なる数字として残るのか、事を成すのか、というのは大きな違いです。
アンディ:私たちの魂の成長をどうやって測るかというと、人をどれくらい愛せるか、ということだと思います。私が妻と会う前は、私の魂はまったく違ったものでした。ほかの人に愛されることによって、自分以外の人を愛する能力が大きく伸びると思います。「愛」は映画でも重要なメッセージです。
アンディ:製作にかかわった4年間のなかで、撮影期間は60日間、それ以外は3人が常に一緒に脚本を書き、デザインして、編集しました。撮影は2つのユニットに分かれましたが、常にコンタクトをとりあい、準備の段階ですべて決めていました。撮影現場では、私たちが考え話し合ったことを俳優が演じてくれるのを撮るだけでしたから、分けたという感覚は一切なく、映画1本を3人で撮ったという感覚です。
ラナ:これは監督組合が押し付けたことで、クレジットは現実とはかけ離れてしまったのよ。組合としては、3人の監督が一緒にひとつの作品を撮るということはありえない、オムニバスのような作品ならありえるけれど、という思い込みがあるんです。
ラナ:6つの時代のうちひとつのストーリーはネオソウル(韓国)が舞台なので、韓国人の女優さんを探しました。美的な選択でもありますが、アジアの未来には日本、韓国、中国、ベトナム、タイなどの要素がブレンドした文化ができるだろうというイメージがあるので、その雰囲気を反映するような顔が必要だと思ったのです。SF的な美的なセンスとしては、西洋人の俳優をアジア的にしたり、ハイブリッドな見た目にこだわりました。日本語や中国語も入れたいと思っていたけれど、それは結局、入れられませんでした。
ティクヴァ:みなさんお気づきだと思いますが、1人の俳優がいろいろな種族や性別を演じています。たとえば、ハル・ベリーが演じた役は、70年代にはラテンアメリカの女性であり、過去にさかのぼって30年代にはドイツ系ユダヤ人女性、もっと昔は黒人男性、未来には男性だったり、最後のパートでは進化したコミュニティーの女性使者メロニムとなり、ある意味ではもっとも進化したキャラクターになっていますよね。興味深いのは、昔は白人男性が優位でしたが、未来で成功しているのはメロニム(有色人種の女性)なので、人種と性別が逆転しているんです。
ラナ:トム・ハンクスが演じる白人男性は教育がなく、ハル・ベリーが演じるメロニムは教育のある進化した階級になっています。俳優を使って哲学的な探求をすることによって、今までとは違うアプローチをしながら、伝統的なものをはずしていきました。
たとえば、あなたは私と同じではないでしょ、日本人は韓国人じゃないのよ、西洋と東洋は違うのよ、女性と男性は違うのよ、という昔からの考え方があります。その差というのは、どこがいちばん優勢で、どこが抑圧していて、どこの者が奴隷なのか、という私たちの認識が生むもの。俳優を使ってそれを示しましたが、それぞれの人間性はその下に必ずあるんです。
(text&photo=秋山恵子)
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