1974年10月28日生まれ、宗教団体「神の子どもたち」の宣教師だった両親の下に生まれる。兄は若くして亡くなった俳優のリバー・フェニックス。『スペースキャンプ』(86年)で映画デビュー。ニコール・キッドマンの相手役を演じた『誘う女』(95年)で高い評価を得る。また『グラディエーター』(00年)、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05年)、本作『ザ・マスター』(12年)でアカデミー賞にノミネートされている。08年に俳優を引退し歌手に転向することを突然発表し世間を驚かせる。2年後の10年に義弟ケイシー・アフレック監督のフェイクドキュメンタリー『容疑者、フォアキン・フェニックス』で俳優復帰。歌手転向は演技だったことを明らかにした。
ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞、主演男優賞W受賞、国際批評家連盟賞の4冠を成し遂げた『ザ・マスター』は、アルコール中毒の帰還兵が、ある新興宗教団体の指導者と出会い、強烈に惹きつけられる一方で、心がむしばまれていく様子を力強く描いた作品だ。
人間の本質に迫る重厚な作風で知られる天才ポール・トーマス・アンダーソン監督が、トム・クルーズやジョン・トラヴォルタも信仰していると言われる宗教集団サイエントロジーにインスパイアされて完成させたとされる作品で、互いに危険だと分かっていながらも磁石のように惹かれ合う2人の男を、スリリングに描き出している。
主人公の帰還兵を演じたのはホアキン・フェニックス。故リバー・フェニックスの弟でもある彼は、本作も含め3度、アカデミー賞にノミネートされた演技派だ。本作で人間の深層心理を深くえぐり出すような熱演を見せた彼に話を聞いた。
──あなたは一度、俳優引退を宣言し、2年後に復活しました。そしてその過程を撮ったフェイクドキュメンタリー『容疑者、フォアキン・フェニックス』(10年)を発表し世間を騒がせましたね。そして今回も様々な問題を提起するような本作に出演しています。俳優としてリスクを冒すことに惹かれるのですか?
フェニックス:統べてがコントロールされた映画では、自分の演技も無意識的にコントロールされていくような気がしてしまい、異なるやり方を試したくなるんだ。でも正直なところ、(主人公の)フレディをどんな風に演じたらいいか最初はわからなくて、とてもナーバスになった。あるシーンでは、ひとつのアイディアに固執するあまりうまくいかなくて……。それで自分の愚かな脳みそを停止させてその場の空気に身を任せたら、うまくいったんだ。そういうことが学べて、ベストな体験ができたと思っているよ。
フェニックス:監督からは(舞台となる)50年代の音楽や、当時のアル中の人々の様子を写したドキュメンタリー映像などの資料をたくさんもらったよ。でも僕はすごくスローランナーだから、彼が求めているものをちゃんと理解するまでにしばらくかかったんだ(笑)。でもあるとき、ぱっと閃くようにこの役を理解できた。たしかに脚本を読み込めば、フレディがこれまでどんなことを戦争で経験してきたのか、そしてそれが彼の精神や肉体的な面へ大きな影響を及ぼしていることがわかる。人間誰しも完璧ではないけれど、フレディと(マスターである)ランカスターはお互いに欠けたところがあって、まるで陰と陽のような存在だ。
フェニックス:いや、何も知らなかったよ。特に興味を持つこともなかった。たぶんそういう人々は、ある信条に賛同し、本当に信じているんだろう。でもだいたいある時点で、権力に魅せられ堕落する者が出てくる。そういう人がグループを先導し、神と言われるものを作り出していく。それが僕の新興宗教に対する考えだよ。
フェニックス:最初から監督を完璧に信頼していたよ。そしてできる限り自分をオープンな状態に保って、どんな方向にも行けるように心掛けたんだ。ポールは限りなくイマジネーションに溢れた監督で、それはエキサイティングだけど、フラストレーションが溜まることもあった。なぜって、ときどき自分がまぬけに思えたから(笑)。
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