1980年7月18日生まれ。高知県出身。1994年にCMコンテストでグランプリを獲得し、同CMの出演でデビューを果たす。その後は、数々のドラマや映画に出演し、第一線で活躍。主な出演作は、ドラマ『聖女』(14年)、『ナオミとカナコ』(16年)、映画『おくりびと』(08年)、『鍵泥棒のメソッド』 (12年) など。『秘密』(99年)でシッチェス・カタルーニャ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞したのをはじめ、これまでにいくつもの賞に輝く。公開待機作は、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20年)、『ステップ』(20年)など。
新津きよみのサスペンスホラー「ふたたびの加奈子」を、長編デビュー作『飯と乙女』(10年)がモスクワ国際映画祭で、最優秀アジア賞であるNETPA賞を受賞した新進気鋭の栗村実監督で映画化した『桜、ふたたびの加奈子』。
「いのちの循環」という観念的なテーマの本作で、最愛の娘を不慮の事故で失い、深い悲しみに心を支配されてしまう母・容子を演じたのが、近年様々な役柄で映画に出演し、その演技力を高く評価されている広末涼子だ。「撮影に入る前には覚悟が必要だと思った」と心情を吐露した彼女が、本作に込めた思いや、女優という仕事へのやりがいを語った。
「一番大切なものを失ってしまうというところから物語が始まるので、撮影期間は、精神的にも辛い日が続きました。お芝居といっても、1日24時間のなかで、自分でいるよりも役でいる時間の方が長いこともありました……」と当時を振り返った広末。それでも「こうした役をやる以上、死というものにきちんと向き合わなければいけないと思いましたし、その先にある母親、そして一人の女性としての成長も表現しなくてはいけない。だから、感情移入をして役から抜け出せなくて辛いのは仕方のないことですが、この役をやらせていただくことに責任を感じながら演じました」と強い意思で容子という役柄に臨んだことを明かした。
深く役柄に入り込むことを「私の癖かもしれません」と話す広末。「常に色々なことを自分に置き換えてしまうのです。例えば街で会った人とか、ニュースに出てくる事柄とか、その人の人生を自分とリンクさせて感情移入して泣いてしまったり……。それが役だったらなおさらなんです。いままで、お芝居で泣くときや怒るときに、顔をあまり崩し過ないように、自分のなかでストッパーをかけていたのですが、でき上がった作品を見て『あんな顔で泣いていたんだ』というぐらいすごい顔して泣いていました」。それゆえ、本作では精神的に辛い時間を過ごすことになってしまったのだが、一方で、多くのことを得られたという。「いま生きていることのありがたさだったり、毎日をもっと大切にしなくてはいけないということや、近くの人にもっと優しくしよう、小さな後悔がないように時間を過ごさなければいけないなど。そういうことを再認識できたことは、大きかったですね」。
辛い撮影のなか、一服の清涼剤となったのが3人の子役たち。「子どもはみんな動物的なお芝居をするので、それがすごく魅力的でした。まっすぐに見つめる目や、たどたどしいセリフに胸がキュンとしてしまって『これは大人は勝てないな』って。すごく純粋な気持ちを一心に受けながらの撮影でした。見守る目線での『頑張れ』という気持ちと、お仕事として『しっかり一緒にお芝居をしなければ』という気持ちの葛藤もありましたね」。
さらに夫役の稲垣吾郎にもいい影響を受けたという。「稲垣さん演じる夫は、本当に素敵な旦那さんだなと思いました。共に娘を亡くした辛さは同じなのに、前に進もうという姿勢を見せてくれて、子どもに対する執着が強すぎて、旦那さんへの思いやりを持てない容子に対しても、それが彼女の痛みなんだと受け止めてくれる。稲垣さん自身『家族を持ったことがないので、夫婦の雰囲気とかがわからないんだよね』って素直に話されていたのですが、とても研究熱心で、色々なことを細かく考えて演じていらっしゃいました。今まで見たことのないような稲垣さんが映し出されているような気がします」。
「いのちの循環」というテーマが内在されている本作。劇中では、不思議な体験や出来事が数多く起こるが、広末自身は「一見するとファンタジーの要素が強い作品なのかなと思うのですが、決して非現実的なことではなく、実際にあるのだという気持ちで演じました。私自身、そういう体験はないのですが、永劫回帰(えいごうかいき)みたいなものは漠然とあるのかなと思いますし、フィクション、ノンフィクションどちらにも解釈できるのも映画の素晴らしさだと思うんです」と位置づける。そんな広末は「自分自身はいま生きている世界のことを考えるだけで精一杯ですが、もし生まれ変わるなら、色々な経験をしてみたいので、男性になって男の人の気持ちを理解してみたいです」と「生まれ変わり」への興味をのぞかせた。
映画『鍵泥棒のメソッド』(12年)でブルーリボン賞・助演女優賞を受賞するなど、30歳を過ぎ、多くの映画人から出演を熱望される女優へとステップアップしている印象を受けるが「年齢によって、お芝居に対する意識が変わったということはないのですが、30代になって役柄の幅は広がったなぁという実感はあります」と冷静に自己分析をする。それだけに「経験として表現しなくてはいけないことが増えてきていると思うし、大きなメッセージを伝える立場にいられることへの感謝とともに、責任を感じています」と、真摯に女優という仕事に向き合うことが今の自分にできることだと語った広末。「15年以上お芝居をさせていただいていますが、最近になって『初めて』という経験がたくさんあるんです。緊張したり、悩んだり、模索したり……女優という仕事を続けていく限り、ずっとこの感覚が続くんだなって。すごくワクワクします。改めて女優という仕事が好きなんだと感じています」。その好奇心で広末涼子はさらなる高みを目指す。
(text&photo=磯部正和)
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