1998年、23歳のときに『Brother Tied(原題)』で監督デビュー。同作は様々な映画祭で賞を獲得し、「天才的な映像表現」と賞賛される。総合格闘技のファイターたちを追った『Cagefighter(原題)』(12年)、ベトナム戦争退役兵たちで構成されたバイククラブを追った『Ride For Freedom(原題)』などのドキュメンタリーも手がけるほか、HondaやAppleなどのCMも手がける。長編2作目の『ブルーバレンタイン』(10年)はアカデミー主演女優賞、ゴールデングローブ賞最優秀主演男優賞などにノミネートされ注目を浴びる。
幼い息子のために銀行強盗を犯した天才ライダーと、正義感に燃え、彼を追い詰める新米警官。2人の対決は子にも引き継がれ、成長した息子たちは親から受け継いだ罪と向き合う……。
『きみに読む物語』(04年)のライアン・ゴズリングと、『世界にひとつのプレイブック』(13年)のブラッドリー・クーパー。2人の実力派スターが競演する『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は、親子2代に渡る血の因果を描いた犯罪ドラマだ。
複雑に張り巡らされた物語が1つの結末に向かう様を、圧倒的な映像美で描いたのはデレク・シアンフランス監督。本作が劇場映画3作目となる若手注目株のシアンフランス監督に映画について語ってもらった。
監督:最初に3部作というアイデアを思いついたのは映画学校にいた頃だ。それからずっとアイデアを温め続けていたんだけど、2007年に2番目の息子コーディが生まれる数ヵ月前、父親になるということやそれに伴う責任について考えている時期だった。自分はどんな父親で、子どもにどんなことを伝えることができるか考えていた。そうやって考えるにつれ、自分のなかにあった情熱を感じるようになった。でもそれは同時に、破壊や痛みを伴う力でもあったし、こういう思いはどれくらい前の世代から続いてきたものなのだろうと思うようになった。そして、これから生まれる自分の子どもには、こんな思いなしにまっさらなままで生まれてきて欲しいと思うようになったんだ。彼には僕の痛みや過ちを受け渡したくない。彼には自分の道を歩んで欲しいと思ったんだ。
ちょうど(『野性の呼び声』などで知られる作家)ジャック・ロンドンの作品を手当り次第に読んでいた頃だったから、それで血のつながり、過去の回収の物語を思いついた。
それからは行動が早かったよ。脚本を一緒に書いてくれる人を探し始めたんだ、僕は1人だとなかなか書けないからね。僕はいろんな人と協力して働くのが好きだから映画監督になったんだ。1人が好きだったら、僕は画家になってたかもしれない。そして脚本家兼監督のベン・コッチオを紹介され、僕らはすぐに意気投合したんだ。
監督:2人とも“演じる”という域を超えていたね。彼らのおかげでこの映画ができたと言ってもいい。人物、物語、会話を深く理解していて、より繊細なものを描き出すために果敢に挑んでくれた。彼らは労をいとわない役者で、よく掘り下げてきてくれた。
ライアンはスクリーンで凄まじい存在感とカリスマ性を見せているが、実際の生活でもそれは同じ。彼は元来奥ゆかしくて映画好き、それでいて周りの人の気分も良くしてしまうような素晴らしい人物なんだ。まるで魔法のようだよ。僕は彼からたくさんのことを学んだし、彼と仕事ができることをいつも幸せなことだと思っている。
ブラッドリーに会ったとき、彼もライアンと同じようなカリスマ性を持っていることがわかった。だけど僕が一番感心したのは、彼がとても勤勉であることだった。彼と何度か会った後、彼の役を全部書き直したんだ。彼ならもっと遠くまで行けると思った。彼なら、僕が思っていたよりもさらに深く役を掘り下げることができると思ったんだ。
この映画を作ることができたのは、彼らが素晴らしい役者だというだけでなく、人間としてもとても優れていて、それぞれが違った角度から映画への思い入れを持っていたからなんだ。そのことで映画には対立が生まれ、バランスを保つことができた。
監督:僕は彼女の演技が好きで、スクリーンでの彼女の存在感は圧倒的なんだけど、“性の対象”のような役をやることが多くてもったいないと思っていた。今回の映画のためにたくさんの女優と会ったけど、エヴァのことはずっと頭にあった。彼女ならこの役を素晴らしいものにしてくれるという予感があったんだ。
彼女はオーディションにノーメークで来た。それでもきれいなんだけど、きれいに見えないように最大限の努力をしてきた。その心意気だけで僕には十分だった。だからオーディションをする代わりに、彼女が育ったL.A.を車で案内してくれと頼んだんだ。助手席に座った僕は、エヴァが、思いやりがあり、温かく、寛大で深い人間性を備えていること、そして未知な部分も持ち合わせていることを知った。彼女は、彼女の人生、彼女の過去、彼女自身をさらけ出してくれた。それで彼女に出演を依頼した。
監督:スケネクタディは、インディアンの部族モハーク族の言葉で“松の木々の向こう側”という意味なんだ。スケネクタディは僕の妻シャノンが育った土地でもあって、この9年ほど、彼女の家を訪ねるために何度もこの街に来ていた。豊かな歴史を持ちながら、経済の荒波に飲まれている街だ。脚本を一緒に担当したベン・コッチオもこの街で育っていて、スケネクタディを、デトロイトを小さくしたような街だと言っていた。タイトルの『THE PLACE BEYOND THE PINES(原題)』はベンの案で、僕もとても気に入った。文字通りの意味もあるし、同時に象徴的な意味も併せ持つからね。
そして、去年の夏にスケネクタディで撮影をした。47日間撮影をしたんだけど、これは予算からすれば異例の長さだね。税金の問題で、ロケ地をルイジアナかノースカロライナに移すべきだという難しい選択に迫られることもあった。でも、こうした撮影をスケネクタディでやってこそこの映画ができると僕は確信していたんだ。
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