1969年11月13日生まれ。スコットランド出身。グラスゴー大学を優秀な成績で卒業後、弁護士事務所に就職したものの、俳優の道へ転身。96年に舞台版「トレインスポッティング」で主役を獲得し、主人公ファントムを演じた映画『オペラ座の怪人』(04年)で注目を集める。大ヒット作『300/スリーハンドレッド』『P.S.アイラヴユー』(共に07年)や、『男と女の不都合な真実』(09年)など多数の映画に出演し、アクションヒーローから色男まで演じられる俳優として高い人気を誇る。08年には製作会社Evil Twinsを設立し、『完全なる報復』(09年)などを世に送り出している。
ホワイトハウスを占拠する非道なテロリストから大統領を救出するため、ひとり危険な任務に立ち向かう元SPの死闘を描いたアクション映画『エンド・オブ・ホワイトハウス』。その日本公開に先立ち、主演・製作のジェラルド・バトラーが来日した。
合同インタビューでは、アクションシーンの話題になると独り芝居さながらの激しい身振り手振りを交えて熱く語り続け、通訳に「君が訳してくれている間にジムに行ってくるよ」とジョークを飛ばすなど、終始、ご機嫌な様子。そんな彼に、役者として、プロデューサーとして、この作品にかける思いを聞いた。
バトラー:この映画の役だよ(笑)。アクションやアドベンチャーのヒーローといった男性的な役は、自己犠牲、復讐、名誉といった要素があるから演じがいがあります。ドラマであれば真実を観客に伝えられること、コメディであれば観客がウケてくれることも嬉しいですね。今回のマイク・バニング役がなぜ演じがいがあったかというと、映画のなかには時々すべてがうまくいく作品というものがあって、この作品がまさにそうだから。この映画を観客と一緒に見ていると、みんながエキサイティングな気持ちやユーモアを味わってくれているのを感じます。
バトラー:プロデューサーとしては、ファミリー映画のようにどの年齢も見ることのできるくらいに表現を柔らかくしてしまうのは違うと思います。今回、私たちの意図のひとつは、テロリストの攻撃というのはこういうものなのだというのをなるべくリアルに描きたいということでした。ただ、撃たれた様子などを詳細に撮ることにこだわりすぎてNC-17(17歳以下入場禁止。アメリカ映画協会による基準)に指定されると(興行的に)苦労も多いので、そこまでは見せずに、というさじ加減は必要でした。私たちが求めていたのは、信ぴょう性があって、観客が自分もその場にいるように感じてくれることでした。そのために、たくさんの話し合いを重ねながら製作しました。
バトラー:あれは僕が書いたシーンだから、取り上げてくれて嬉しいよ! あれだけのことが起きているなかで、自分の状況を説明せずに、愛情をはっきりと言葉に出さずに伝えようとしているのがロマンティックで気に入っています。実はあのシーンは時間がなくて撮影できないといわれたんだけれど、自分でお金を出して撮影できるように頑張ったんだよ(笑)。
バトラー:ノー! 嘘だけど(笑)。そういう状況になったら、できればいいとは思うよ。マイクはモーガン・フリーマン演じるトランブル下院議長に対して、本来なら上司にあたる人なのに、「いや、ダメです。このやり方にしなければ」と言えてしまう強さがあります。その後に妻に電話をして何があっても愛しているよ、ということを伝えてから、すべてをかけて戦うというところがかっこいいですよね。
バトラー:シークレットサービスに、実際にこういうことが起こったときにはどういう行動をしなければならないのか、テロリスト側だった場合にはどうすればホワイトハウスを占拠できるのか、その手順を教えてもらいました。
例えば、空調も止めないといけないんですね、そうしないとガスでやられる可能性がありますから。ひとつひとつのことを知る過程にとてもワクワクしましたね。屋上のミサイルも相当な数があったり、技術的な部分もしっかりリサーチして見せるようにしました。そうすることで、その場にいるような感覚でみなさんにこの映画を楽しんでもらえると思うので。
バトラー:うーん、たくさんあったからね。(殴ったり殴られたりする身振りをしながら)特に大変だったのは、最後のファイトですね。マイクはそれまでに50人のテロリストと戦い、爆破され、いろいろな破片が体に刺さったりしていて、しかも相手は最強のテロリストであるカン(リック・ユーン)なんだから。最後のバトルシーンは2日間かけて撮影して、テイクは300回。その段階でマイク自身がボロボロの体という設定だから、テイクのたびにそのボロボロの状態に自分を持っていかなければならなかった(その場で走ったり、空中をパンチする身振りを交えながら)。そこで1テイク撮って、それをあと299回も! 爪が剥がれたり、腕が青黒く腫れたり、そのうえルイジアナで撮影していたから蒸し暑くて大変だったけれど、それでも楽しいんですよ。
バトラー:その2日間で、首の小さな骨を2本折ったんだ。(再びパンチしたり、されたり、の身振りを繰り返しながら)役に入りすぎてしまっているから、自分で調整はできないんだよ。それで、テイクの間にマッサージを入れたり(笑)。
バトラー:この話はね、けっこう面白いんだよ。10年前、彼が『キング・アーサー』(04年)を撮ったときに、キャスティングのオーディションに参加しているんです。僕はわざわざイギリスへ行って台詞を読んで帰ってきたというのに、その後なんの音沙汰もなく、もちろん役はもらえなかった。その時から、アントワーン・フークアのことは大嫌いだったんだ(笑)。
その後、偶然どこかで再会したときに、彼にその話をして「そういうわけで怒ってるんだ」と言ったら、彼は「そんなのまったく知らなかったよ」って。それ以来、大親友だよ。この作品の前に3本くらい一緒に温めている作品もあったけれど、今回の作品は自分のほうに先に話が来て、僕も『トレーニング デイ』は大好きだし、アントンは映画づくりの天才だから、監督は彼しかいないと思った。僕はタフなヒーローを演じているけれど、アントンの方がもっとタフで、金のグローブをしたボクサー(チャンピオンのように強い)のようなものなのに、同時に謙虚で思いやりもある。真の男性性とは、自分の女性性も受け入れることができることだと思うのだけれど、彼は真の男なんです。僕とは考え方も似ているし、互いにアイディアを出し合いながらストーリーを練っていける、そんな関係の人は彼のほかにはいません。
バトラー:状況しだいでいろいろな方法がありますよね。自分はこれまでに多くの失敗を重ねてきたと思います。もっとやれたのにと思うこともたくさんあるし。自分は自分に厳しいタイプなので。ただ、今は、たとえうまくいかなかったとしても自分はベストを尽くしたんだ、と考えることが大切だと思うし、失敗から何かを学ぶことも大事だと思っています。学んだことで、同じような状況に置かれた人に手を差し伸べられるかもしれないからね。
バトラー:答えにくいなあ、わからないよ(笑)。うーん、それは、どう思う?
バトラー:イエス! それだね(笑)。ただひとついえることは、自分の仕事をとても愛しているということです。笑えるもの、怖いもの、英雄的なもの、バカバカしいもの……、僕はストーリーテリングが大好きなんです。自分はそれなりに繊細でよい心を持っていると自負していて、自分の心に響いたものはきっと他人の心にも響くのではないかなと思うから。映画では、心を乱すもの、悲しみや寂しさを呼び起こすもの、向上心を維持するためのヒントになるもの、歴史上の物語を新しく解釈できるもの、どんな内容でもいいけれど、何かメッセージがあるものが好きです。そして、自分にとって出演したい映画がプロデュースしたい作品でもあります。
実は今、いろいろな作品を準備中です。未来を舞台にしたアクションスリラー、アメリカ大統領が登場する歴史もの、ジョージ王の狂気を題材にしたもの、フランスのスリラーのリメイク、強盗ものなどたくさんあって、同時に製作会社のほうでも小さな作品もたくさん温めています。自分のキャリアのなかでこれまでにないほどエキサイティングな時期ですね。
(text&photo=秋山恵子)
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