『遠くでずっとそばにいる』倉科カナ インタビュー

10年間の記憶を失った女性の葛藤をナチュラルに好演!

#倉科カナ

共演者のセリフで、自分がどんどん作られていくような感じでした

恋愛小説家・狗飼恭子の同名小説を、映画『ココニイルコト』(01年)や『天国はまだ遠く』(08年)など切ない男女の機微を瑞々しく描くことに定評のある長澤雅彦監督で映画化した『遠くでずっとそばにいる』。本作で、交通事故により10年分の記憶を失ってしまった主人公・朔美を演じたのが、映画やドラマ、舞台で活躍中の女優・倉科カナだ。

09年のNHK連続テレビ小説「ウェルかめ」で主演を果たして以来、順調に女優としてのキャリアを積み上げている倉科に、本作の見どころや、女優という仕事へのやりがい、苦労話などを聞いた。

──27歳の時の事故で、身体はそのままなのに、17歳までの記憶しかなくなってしまうという難しい役柄を演じましたが、どのように作品に入っていったのでしょうか?

倉科:自分は17歳のつもりなのですが、周囲が27歳の自分として接してくるんですね。それによって、初めて自分が知らない間に10年の歳月が過ぎてしまっていたんだということに気づかされるのです。その時のリアクションは、監督とも「繊細に扱いたいね」と話していました。次々に判明する事実に、戸惑いや怖さを前面に出すこともあれば、表面上は少し抑えて装ったりする部分もあったり。相手のリアクションをダイレクトに受けて演じようと心掛けていたので、共演者の方々のセリフで、自分がどんどん作られていくような感じでした。

──長澤監督とは現場で綿密に話し合いをされていたのですか?

倉科:監督は、現場ではあまり細かい指示を出される方ではなかったですね。クランクイン前にリハーサルをして、その時に役柄に対することは話し合いましたが、私の場合は、感覚で演じるタイプなので、現場では大まかなイメージをおっしゃるだけでした。なので演じている最中は、ちゃんとできているのかなってすごく不安でしたが、完成した作品を見て、少し安心しました。

相手との思い出を忘れてしまうことはとても悲しいこと
倉科カナ

──オール秋田ロケということでしたが、撮影はいかがでしたか?

倉科:約3週間の撮影でしたが、とても良いところでした。食べ物が美味しいんですよ。撮影中はオフがないので、食べ物が心のよりどころで(笑)。岩牡蠣とお酒、それとラーメンが美味しかったです。ぜひラーメンめぐりしてください! っていうぐらい美味しいんですよ。

──記憶がテーマの作品ですが、倉科さんが覚えている一番古い記憶は?

倉科:3〜4歳ぐらいかな、家族でおじいちゃんの家に行ったときに、山で野イチゴを食べた記憶があります。「これは蛇イチゴなのかな? それとも野イチゴなのかな?」って迷って食べちゃったんです。

──記憶を失うことによって、大好きな人との楽しい記憶もなくしてしまいます。同時に恋愛の辛い記憶も失ってしまうわけですが、劇中ではそれを「運がいいこと」と捉える場面もあります。倉科さんの恋愛観に当てはめると、そのことは運がいいことでしょうか?それとも運が悪いことでしょうか?
倉科カナ

倉科:「運がいい」と解釈してしまう気持ちは分かります。相手との思い出を忘れてしまうことは、とても悲しいことだし、あってはならないことだと思うのです。でも、私は好きな人ができると、寝ても覚めてもずっとその人のことを考えてしまうので、失恋してしまったときって、辛くて、その気持ちが癒えるのに、すごく時間がかかってしまいます。だから、苦しさを忘れられるということは、ある意味うらやましくも思いますね。

──劇中「忘れたいことを忘れられないから苦しいんだ」というセリフがありますが、女優として活躍をされている倉科さんが仕事でこれまで大変だったなと感じたことはありますか?

倉科:デビューするまではメイクの知識とかまったくなくて、お洒落とかも興味なかったんです。上京したときも、本当に芸能界のことを何も知らず、演技のことも監督さんのこともあまり詳しくなかったので、とにかく苦労しました。それでも「目の前にある役柄に一つひとつ一生懸命向き合っていこう」ってやっていたのですが、でもやっぱり最初は自分に自信が持てませんでしたね。

色々な人生を経験できるのが女優という仕事の醍醐味
倉科カナ

──意識が変わった出来事というのはあったのですか?

倉科:オーディションに落ちたとき「私なんてダメだ」っていう気持ちが強かったのですが、「ウェルかめ」のオーディションのときに「自分の意識を変えなきゃ」って決心したんです。「『ウェルかめ』のヒロインをやるのは倉科カナなんだ!」って自分に言い聞かせて、とにかく、自分に自信を持つように努力したんです。

──見事に大役を得て、それからは順調にキャリアを重ねていますが、女優という仕事のやりがいは?

倉科:難しいですね。やっぱり今でも大変なことが多いですから(笑)。でも作品を見て「良かったよ」って言ってもらえたり、監督さんから褒めてもらったりすると嬉しいです。あとは物語のなかで、色々な人生を経験できるというのは女優という仕事の醍醐味なのかもしれませんね。

──この作品に出会って女優として得たことはありましたか?

倉科:今まで現場に入ると「よし、やるぞ!」みたいに自分でスイッチを切り替えて、肩に力が入ることが多かったのですが、この作品では、ナチュラルに気負わず、スッと入っていけました。演じることがすごく楽になりましたね。

──それは何か要因があったのですか?

倉科:私が演じた朔美ちゃんという役柄に自然と入れたこともありますが、監督とクランクイン前にリハーサルをしていたという安心感があったのかもしれません。ドラマだとリハーサルなしで、「はい本番」ということが多かったので。

倉科カナ

──今後やってみたい役柄や、プライベートでチャレンジしたいことは?

倉科:私は21歳で朝ドラを経験して、いま25歳。まだそれほど色々な役柄の経験がないので、やってみたい役はたくさんあります。貪欲に取り組んでいきたいですね。プライベートでは、茶道をやってみたいです。私は日本舞踊をやっているのですが、茶道も一緒に学べば、所作がきれいになるんじゃないかなって。内面を磨くことは大切ですからね。

──最後に作品の見どころを教えてください。

倉科:長澤監督が映像をとてもきれいに切り取ってくださっています。また、音楽は岩井俊二さんが担当しているのですが、朔美ちゃんの気持ちを繊細に表現してくれていて、とても素敵です。ストーリー的にも、自分の失われた過去を知っていくたびに苦しんだり葛藤したりする女性の感情に共感できると思います。

(text&photo=磯部正和)

倉科カナ
倉科カナ
くらしな・かな

1987年12月23日生まれ。熊本県出身。高校3年生のときに「SMAティーンズオーディション2005」でグランプリを獲得する。一方で女優業にも力を入れていく。09年にNHK連続テレビ小説『ウェルかめ』のヒロインに抜擢。以降、テレビ、映画と活躍を続けている。主な出演作にドラマ『名前をなくした女神』(11年)、『私が恋愛できない理由』(11年)、『ファーストクラス』(14年)、『刑事7人』(15-17年)、映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08年)、『夢売るふたり』(12年)、『3月のライオン』前後編(共に17年)など。

倉科カナ
遠くでずっとそばにいる
2013年6月15日よりユーロスペースほかにて全国順次公開
[監督]長澤雅彦
[原作・脚本]狗飼恭子
[音楽]岩井俊二
[出演]倉科カナ、中野裕太、伽奈、清水くるみ、徳井義実、六角精児、岡田奈々
[DATA]2013年/日本/ソニーPCL

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