1968年1月23日生まれ、京都府出身。十五代片岡仁左衛門の長男として生まれる。屋号は松嶋屋。73年7月、歌舞伎座「夏祭」の市松で片岡孝太郎を名乗り、初舞台。女方として、江戸・上方の枠を越えて活躍する。87年、スティーヴン・スピルバーグ監督『太陽の帝国』に特攻隊員の少年役で出演、08年には『Beauty うつくしいもの』で、戦争に巻き込まれていく大鹿歌舞伎の役者を演じた。NHK大河ドラマ「太平記」、「白い巨塔」などテレビドラマにも出演。14年公開の山田洋次監督『小さいおうち』にも出演している。
1945年8月、第二次世界大戦終結後の日本にマッカーサー元帥率いるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が進駐。1ヵ月後、昭和天皇がマッカーサーを訪問した。そこに至るまでの期間、マッカーサーは部下のフェラーズ准将にある極秘調査を命じていた。
『終戦のエンペラー』は、昭和天皇に仕えた関屋貞三郎宮内次官を祖父に持つ奈良橋陽子がプロデューサーをつとめる。『太陽の帝国』(87年)、『ラスト サムライ』(03年)などのキャスティング・ディレクターとして知られる彼女の想いが込められた本作で、昭和天皇を演じるのは歌舞伎俳優の片岡孝太郎。『太陽の帝国』でクリスチャン・ベイル扮する主人公と心を通わせる少年兵を演じて以来、久々のアメリカ映画出演だ。
歌舞伎の舞台では女方としてたおやかな魅力を放つ彼が、何度も口にした「負けたくない」という言葉が印象深い。柔らかな物腰のなかにしっかりと存在する気骨。この凛とした魂こそが、昭和天皇という大役に何より必要とされたものだ。
片岡:奈良橋さんから直接お話をいただきまして。終戦時の陛下の年齢が、その時の私の年齢(44歳)と同じだったという不思議な偶然もありました。ただ、撮影と同じ時期に「平成中村座」公演が決まっていたんです。そこで中村勘三郎のお兄さんに、「実はこういうお話をいただいて」と打ち明けたら、「歌舞伎も大事だけれども、行ってこい」と温かく送り出してくださった。松竹の演劇部の方たちも「頑張ってきてください」と。そして、奈良橋さんの事務所で、インターネット経由でオーディションを受けました。パソコンに向かって演技したんです。『太陽の帝国』のときはスピルバーグさんが来日なさって、六本木のスタジオで直接演技を見ていただいたんですけど。時代がここまで変わったんだ、とびっくりしました(笑)。
片岡:第二次世界大戦前から戦争後にかけてのあらゆる映像を集めて、ひたすらそれを見て仕草を研究しました。ただ、物まねではいけないと思うわけです。マッカーサーを演じたトミー・リー・ジョーンズさんもそうですけれども、自分のなかで消化して、それを出さないと役にはならないと思うので。やっぱり気持ちが一番大切なんです。陛下はどういう思いでずっといらっしゃったのか。最後の最後で短歌を詠んだ、そのときの思いに至るまでを作りたくて、それこそ食事は何を召し上がっていらっしゃったとか、そこまで調べました。
片岡:そうですね。衣裳にも助けられました。『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』でアカデミー賞を受賞したナイラ・ディクソンさんが担当です。一体、何回仮縫いをしたか、という(笑)。資料や映像を見ながら、「もうちょっと丈を出す」とか。ニュージーランドのスタッフが日本人の服装も全部担当していました。着物も。僕、特に着物の人間じゃないですか。その僕が見ても違和感ないんですよ。1つひとつにこだわり抜くスタッフが本当に素晴らしかった。
片岡:ニュージーランドに1ヵ月ちょっとくらい滞在しました。実は前回の撮影現場では、“日本人は欧米人より劣る”みたいな見方をされることもあったんです。だから、今回はとにかく日本人の俳優として「負けないように」というのがありました。フェラーズ(マシュー・フォックス)の通訳を演じる羽田昌義くんはアメリカで活動しているので、そこですごく意気投合しましたね。
ちなみに、今回の現場のスタッフは皆さん、とても優しくて、アットホームな雰囲気でした。役者としては、僕らが歌舞伎のなかで大先輩たちと並ぶ時もそうですが、スクリーン上ではマシュー・フォックスさんともトミーさんとも対等だと思うので、「そこでは絶対に負けたくない」というのはありました。
片岡:あの場にいたのはやっぱり、トミーさんじゃなかったんです。マッカーサーだった。彼も同じことを僕に言ってくれたんですけど、本当に宝ですね。
片岡:マッカーサーと写真を撮る場面があって、普通に並んでそのまま撮るはずだったんですけども、お互いに近寄った時、目と目が合ったんですよ。そのとき、ここで先に写真のカメラのほうに向いたら、日本は負けるような気がしたんですよね。自分はここに交渉をしに来ているのだから、と思って、目を外さなかったんです。そうしたら、彼もそれを受け入れてくれて。彼が先にカメラの方を向くんですが、あれは演出にはなかった。あの場で、2人でやった即興の芝居だったんです。
片岡:本当にお互い初めましての状態で一緒に芝居して。あのシーンで本当に分かり合えた。心と心で会話ができたと思うんです。おかげさまで、トミーさんがほかの仕事でいらっしゃったときに、一緒に食事させてもらったりしてます。日本に来ると必ず歌舞伎をご覧になっていて、この間も「歌舞伎のチケットが取れない」と連絡が来たりして(笑)。いい友だち同士になれましたね。
片岡:特別考えたことはないんです。ただ、普通の男性役の時、手をどこに持っていったらきれいに見えるかがわからない。洋服なので(笑)。着物だと、どうすれば様になるかはわかるんですけど。
片岡:4月に山田洋次監督の『小さいおうち』(14年公開)に出演させていただいたとき、こんな話になったんです。この人は普段どんな生活をしているのか、何を食べているか、恋人がいるのか、でも何でも。「そういうところから作っていかないと駄目だよね」というお話をされて。歌舞伎役者としても、うちの父に教わったのは、形(かた)だけでは何をアピールしているのか分からないということです。そこに人物がいるわけだから、掘り下げていかないと。
片岡:根本的には一緒。ただ、僕から見ると映像のほうが難しいです。カット毎に何回も同じことをしなければいけなかったり、ちょっとした場所の嘘があったり。長回しじゃなく細かく切られると、気持ちのつながりや、僕は声も作ったりするので、「あれ、どういう声出してたっけな?」と思ったり(笑)。
片岡:僕はプロダクションに所属していないので、売り込むことはないんです。ただ役者として、歌舞伎役者というよりも一役者として、やはり求められる所で仕事をしたい。自分が納得できるいい作品であれば、ぜひ参加したいという思いがあります。
片岡:「こんな立派な作品に出来上がっている!」と。撮影中は、自分たちの現場しか知らないし、断片的にしか見えていないですから。全体を通して、当時の日本を掘り下げて見ることができて、全てと言ってはいけないと思いますが、様々なことが丁寧に再現されている。また、私たちがあまり知らずにいた事実も出てきます。本当に、この作品に参加できて良かったなと思いましたね。
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