1961年3月29日生まれ 、イギリス、ランカシャー州ブラックバーン出身。オックスフォード大学で英文学を学んだ後、ブリストル大学で映画制作を学ぶ。テレビでミステリー・シリーズやドキュメンタリーを数多く手がけ、テレビ用に製作された『GO NOW』(95年)が各地の映画祭で評判となり劇場公開されたことをきっかけに映画界への足掛かりをつかみ、同年『バタフライ・キス』(95年) で映画監督デビュー。『バタフライ・キス』は、ベルリン国際映画祭のコンペティションに正式出品された。 翌年、文豪トマス・ハーディの原作を映画化した『日蔭のふたり』(96年)が、カンヌ国際映画祭監督週間・マイケル・パウエル賞を受賞。また、ボスニア紛争を描いた 『ウェルカム・トゥ・サラエボ』(97年)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、『アイ ウォント ユー』(98年)がベルリン国際映画祭コンペティション部門に正式出品されるなど国際的に評価を高める。その後も、『ひかりのまち』(99年)、『めぐり逢う大地』(00年)、音楽映画 『24アワー・パーティ・ピープル』(02年)、SF映画 『CODE46』(03年)などジャンルにとらわれない幅広い作品を発表、亡命のためイギリスを目指すパキスタン難民の少年をドキュメンタリー・タッチで描いた『イン・ディス・ワールド』(02年)でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。その後『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06年)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞している。
『イン・ディス・ワールド』(02年)でベルリン国際映画祭金熊賞を『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06年)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞するなど、世界各国でその才能を高く評価されているイギリスの名匠マイケル・ウィンターボトム監督。『いとしきエブリデイ』は、そんなウィンターボトム監督が5年の歳月をかけて完成させた珠玉作だ。
8歳、6歳、4歳、3歳の子どもたちを、母親が仕事をかけもちしながら育てている家庭──父親が収監中のある家族の5年間を追い、何気ない日常こそが尊い時間であることを訴える。
実の4兄妹とプロの俳優とが醸し出す物語を、繊細に描いたウィンターボトム監督に、本作に込めた思いなどを聞いた。
監督:元々、5年間の間に7本の映画を作るという企画を提案したんだけど、5年の間に1本撮るならいいということになった。つまり、劇映画のなかで年月の経過を描くというものだ。そういう形で情熱のこもった物語を語るには、必要最小限のクルーで撮影せざるを得ない。特に子どもを撮影するにはね。子どもを年代別にキャスティングして撮影するだけでは、子どもがある年月をかけて成長していく様子を本質的に捉えることはできないと思った。それがアイデアの出発点になったんだ。
監督:このアイデアの1番中心にあるのは、ある関係、もしくはある一連の関係が、長い不在の時間をどう生き残れるかということだ。『いとしきエブリデイ』で言えば、父親は刑務所に収監されている。いま現在、多くの家族が何らかの理由から離れて暮らすことを余儀なくされている。その理由は離婚かもしれないし、軍隊かもしれないし、刑務所かもしれない。離別というのは、特に父親と子どもたちの関係において、家族の関係がどんなものであるかを考えなければならない。妻への愛、子どもたちへの愛が長い不在に耐え、生き残ることができるかどうか。僕なりの展望としては、生き残るのが可能だということを描くいい機会だと考えたんだ。
監督:運がよかったとしか言えないね。まずノーフォークというイギリスの田舎、イギリスの地方で撮りたいと漠然と考えていた。だから、プロデューサーやキャスティング・ディレクターたちと地元の学校を訪ねたりして絞り込んでいったんだ。メインとなる幼い少年をどう選ぶかで、長く離れている父親との対比をもたらす関係がかかってくる。家族の幼い子ども、ショーン(ショーン・カーク)と出会ったことはとても素晴らしかった。それからショーンの兄妹に会って、彼らもとてもいいと思った。それで家に行ったら、その家も映画にぴったりだった。そして学校に行ったら、学校もとても協力的で、学校も撮影に使うことにした。なので、ショーンのキャスティングが決まったところから他の要素も徐々に決まっていった。
状況によっては、1人の少年をひとつの家族から見つけても、他の子たちは他の家族から探さなければいけない可能性もあったし、その後に、撮影できる家を探さなければいけなかったかもしれない。ショーンと3人の兄妹を見つけたことでよかったのは、互いに自然な関係性をすでに持っていたことだ。
監督:(笑)。撮影開始当時、彼らはとても幼かったからね。まだオムツとかしている状態だったし、カトリーナなんてショーンより幼かったから。そんな年齢だったのもあって、その当時、彼らがどれだけディテールを理解していたか知るのは難しい。それでも最初の段階から、彼らはとても自然で反応がよかったよ。
演技をしているという意識はあったと思うよ。状況も違えば、年齢も各々が違うから一口には言えないけどね。母親役の俳優シャーリー(・ヘンダーソン)と父親役のジョン(・シム)の“状態”にそれぞれに敏感に反応していた。彼らは本当の兄妹だから、家族の優しさもあるし、同時に家族だからこその乱暴さも持っていた。もし違う子役を使っていたら、全く違うプロセスになっていたと思うよ。
監督:出演者、スタッフに、長い期間関わってもらわなければならないから難しい作業だった。シャーリーもジョンも仕事上で知り合いながら、長く友人としてつき合ってきたから、彼ら2人はフレキシブルにずっと関わってくれることを約束してくれた。
漠然と、いくつかのブロックに分けて作業しようと思った。毎年、彼らの家に数週間のかたまりで訪ねるということを決めていた。そこにできるだけ定期的な間隔を持たせながら、さらに季節など、違う要素も入れていくようにした。やっていくうちに少しずつパターンのようなものが出来上がってきて、1年の間にクリスマスの時期に1度、夏の間に1度という感じになっていった。
監督:そうだよ。でもこの5年間は、毎日『いとしきエブリデイ』の一部を作っているという実感があった。そのうち、他の仕事からこのプロジェクトに戻ってくるのが新鮮に感じられるようになった。子どもたちの成長を見るのも楽しみだったよ。そして、成長し変わっていく子どもたちと、映画の設定(不在の父親と、1人で子どもたちの面倒を見なければいけない母親)との関係性を探りながら、彼らの実際の変化をどのように反映させていくのか考える必要があった。それはとても素晴らしい体験だったよ。
監督:1台だけだよ。それで何テイクも撮影するんだ。ロングテイクをしながら、そのテイクの間にどんなことをするかを練っていく。それはどんなフィクション映画とも方法論としては同じで、何度も何度も試みる。もちろん毎回同じことを繰り返すわけではないけど、台詞を言うシーンでも、彼らが泣くシーンでも、彼らは十分に理解していた。前回は泣かなかったから今回は泣くべきだとか。前のテイクは笑わなかったから、今回は笑ってみようとか。前回はこう言ったけど、今回はこういう風に言ってみようとか。だから彼らは確かに演技をしていたわけだ。フィクションの映画としての自覚はあったんだ。同時に、自然にその場で反応する即興性にも対応してくれたんだ。
監督:僕はマイケル・ナイマンの音楽が好きなんだ。初めてマイケルと仕事したのは、『ひかりのまち』(99年)だったけど、彼のスコアは素晴らしかった。ある意味、『いとしきエブリデイ』は『ひかりのまち』と対を成す作品でもある。両方とも家族の物語だ。『ひかりのまち』は、3人姉妹、両親、父に会わない弟が、一緒に住まなくても、それでも家族でいられるのかという、1週間の限定された時間軸のなかで大きな家族を描いたものだ。そして10年以上経って今回の『いとしきエブリデイ』では、小さなひとつの家族で、真逆のアプローチをしてみようと思った。
脚本のローレンス・コリアットも、両親役のシャーリー・ヘンダーソンとジョン・シムも『ひかりのまち』に参加している。そんな共通点もあって、マイケル・ナイマンに『いとしきエブリデイ』のスコアを頼みたいと思った。このような作品をつくる場合、つまり、観察的であり、困難な人生を送る人たちを扱ったもので、ただ時間を持て余して自分の感情についてしゃべり合うような人たちではない人々を描くとき、セリフの代わりに表現する方法のひとつとして音楽があると思うんだ。
監督:フィクションと現実の世界の間で遊ぶ場合には、様々な効果が得られると思うけど、それは全て興味深いものだと思う。僕はたくさんのコメディを撮っているけれど、ドラマのなかに身を置いていることを意識しながら、構造があることを意識させたり、登場人物に突然カメラに話しかけるようにしたり、映画のなかで映画を作ることに言及させたりもしている。それはフィクションのなかにいながら、その構成を認知して、外にある現実の世界が面白く、あるコメディという可笑しみがあるという、そんな精神が見え隠れするんだと思う。
ある同じシーン、同じ映画のなかでも、人は2つの異なる関係を見てとることができる。それがどれだけフィクションの要素があるのか、どれだけコントロールされているのか、どれだけ考察的なのか、どれだけ創作されているのか、どれだけのものが元からあったのかという性質が見えてくる。僕は、人にその両極を行き来しながら考えてもらうことが好きなんだ。
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