『バイロケーション』水川あさみインタビュー

2つの人格を演じ分けた、女優として“チャレンジ”の作品

#水川あさみ

ふたつの人格の演じ分けは難しかった

第17回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した法条遥のデビュー作「バイロケーション」が、角川ホラー文庫20周年記念作品として映画化された。メガホンを執るのは『リアル鬼ごっこ』シリーズで注目を集める若手女流監督の安里麻里。

世界中で実在報告されている怪奇現象“バイロケーション”を題材に、自分と全く同じ姿形・個性を持った“もうひとりの自分”(バイロケーション)が自分の人生に侵食してくる恐怖を描き出している。また、まったく印象の異なる別エンディングバージョンを「表バージョン」「裏バージョン」として同時期に公開させることも話題となっている。

突如現れる“もうひとりの自分”(バイロケーション)に遭遇し、命を狙われるという困難な役どころに挑戦した水川あさみに、女優としての思い、2つの人格を演じ分けた苦労について聞いた。

──この映画では2つの人格を演じることになるわけですが、その演じ分けはどうでしたか?

水川:演じ分けると言っても、まったく異なる人物を演じるというわけではないんです。バイロケーションという現象は、相反する感情によってもうひとりの自分が発生することなので、両者の演じ方にそれほど差異はないんです。ですから、その辺の微妙な演じ分けは難しかったです。両方の役を同時進行で撮影していたので、スタッフも監督もみんな混乱していましたね。「次は何だっけ?」みたいな感じでみんなで確認しあいながらやっていました。

──本作では、仕事に生きる人生と結婚して幸せになる人生、ふたつの生き方が描かれていますが、水川さんならどちらの生き方を選択すると思いますか?

水川:どうなんですかね。はっきりとは分からないですが、仕事をやめてもいいと思うくらい一緒にいたいなと思う人がいれば、その人を選ぶかもしれないですけど。それはそのときの状況次第ですね。

水川あさみ

──この映画は、クライマックスが別内容となっている「表バージョン」と「裏バージョン」が両方公開されますが、こういう気分の人はこちらのバージョンがいいよとか、水川さんのおすすめはありますか?

水川:この映画は前半こそホラーっぽい物語となっていますが、後半は主人公の女性がどういう選択をし、どういう気持ちで生きたかという違いを2つのバージョンに分けて見せているんです。女の人は「表バージョン」が好きだと言いますし、男の人は「裏バージョン」が好きだという意見を聞きます。わたしもどちらかというと「表バージョン」が好きです。とはいえ「表バージョン」は、なんとなくもやもやした感じで終わるというか、そういう余韻を楽しんでもらいたい気持ちがあります。でもしっかりした形を求めるのであれば「裏バージョン」を見た方がいいのかなとは思います。ぜひ2つのバージョンをを見比べていただきたいですね。

──水川さん自身は心霊現象に遭遇したことはあるんですか?

水川:それはよく聞かれるんですが、まったくないんですよね。今まで一度もないです。

──それでは信じない?

水川:いえ、信じないことはないですよ。信じているんですけど、わたしの身には何も起きなくて。そんな怖くないことなら経験してみたいなと思います。

画面に映る自分がブスでした(笑)
水川あさみ

──オープニングがゴシック調であったりと、安里監督は女性らしい独特の感性を持った人だなと思いましたが、一緒に組んでみていかがでしたか?

水川: 確かに重要なポイントの捉え方が女性っぽいのかなと思います。何がどう違うと説明するのは難しいですけど(笑)。

──感情だったり、心の動きを分かりやすく説明してくれたりということなんでしょうか?

水川:そうですね。どれだけ間をとってもいいからと言ってくださったり、画的なことよりも役者の気持ちを優先してくれました。

──もうひとりの自分ということにちなみ、本作をスクリーンで見たときに知らない自分を発見したといったことはありましたか?

水川:ブスでした(笑)。女優というお仕事をしていると、きれいに映りたいと思うことはお芝居をするうえで時にすごく邪魔な感情だと思うんですけど、一方で何かしらきれいに映らないといけないという思いもあります。でも今回はそういう気持ちを持たずにやれたところがあったので、良かったなと思います。
 すごくげっそりしていたし、くまもたくさんあったし、自分でもなんかすごい顔しているなと思いました。不健康というか、そういう風に映りたいと思って挑んだので、大げさかもしれませんが新たな自分が発見できたのかなと思います。

水川あさみ

──今までは抵抗があった?

水川:抵抗はないんですが、今まではきれいに映ることが求められたりしていたわけですから。そういうのは全部捨ててやれたというのがありますね。

──Kis-My-Ft2の千賀健永と、ジャニーズJr.の高田翔というジャニーズの2人が映画初出演となったわけですが、彼らとの共演はどうでしたか?

水川: アクションシーンで、殺陣の動きを覚えるのがすごく早くて、すぐ身につけていたのがすごいなと思って見ていました。役に対して一生懸命で素晴らしかったです。

女優としてよくないな、と思い悩むことはしょっちゅう
水川あさみ

──2013年を振り返ってどうでした?

水川:わたしは2013年で30歳になったんですが、自分が主演としてドラマをやらせていただいたり、舞台もやらせてもらいましたし、新しいチャレンジができた1年でしたね。

──水川さんはいつも前向きのようにも見えますが、挫折することはあるんですか?

水川:ありますよ。このままじゃお芝居が嫌いになるかもしれないな、女優としてよくないな、と思い悩むことはしょっちゅうあります。

──そういうときはどう乗り越えるんですか?

水川:自分に悩んでいたり、具体的に何をどうすればいいか分からないですけど、違うことをしたいとか、そういうことを思っているときにちょうど、この仕事をやってみたいなと思うような、わたしに手を差し伸べてくれるような、救いとなるような作品が来るような気がします。それになんとなく救われて、自分に自信を持ったりとか、考え方が変わったりすることがあるような気がします。

──チャレンジという意味では、この作品もチャレンジなんじゃないですか?

水川:今までにもなかった作品ですからね。画面に2人が対峙して映っているということが想像できなかったんです。もうひとりの自分がいると想像しながら芝居をしないといけないし、CGを使うことで動きに制限が出てきます。ここから動かないでとか、手を上げないでと言われたりしますから。どれだけ想像力を働かせられるかが勝負でした。やったことがないことをするという意味ではチャレンジでしたね。

(text&photo=壬生智裕)

水川あさみ
水川あさみ
みずかわ・あさみ

1983年生まれ、大阪府出身。『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(97年)で女優デビュー。映画、テレビ、舞台、インターネット配信コンテンツなどの各媒体で、シリアスからコメディまで幅広い役柄を演じて活躍。近年の映画出演作は『明日の記憶』(06年)、『今度は愛妻家』(09年)、『大木家のたのしい旅行 新婚時獄篇』(11年)、『バイロケーション』(14年)、『太陽の坐る場所』(14年)、『福福荘の福ちゃん』(14年)、『後妻業の女』(16年)、『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』(20年)など。今年は『ミッドナイトスワン』(9月25日公開)、主演映画『滑走路』(11月20日公開)に出演。

水川あさみ
バイロケーション
2014年1月18日より角川シネマ新宿ほかにて全国公開
[監督・脚本]安里麻里
[原作]法条遥
[出演]水川あさみ、千賀健永、高田翔
[DATA]角川書店

(C) 2014「バイロケーション」製作委員会