1986年5月23日カリフォルニア州生まれ。南カリフォルニア大学で映画&テレビ製作の修士号を取得。11年に、娘の安全のために闘う若い娼婦を追った短編の学生映画『FIG』(未)が、ディレクターズ・ギルド・オブ・アメリカの学生映像作家賞とアメリカン・ブラック映画祭のHBO短編映像作家賞を受賞。12年『フルートベール駅で』の脚本がサンダンス・インスティテュート・スクリーンライターズ・ラボに選出された。
偶然、乱闘の場に出くわしてし、無抵抗のまま射殺された22歳の黒人青年オスカー・グラント。『フルートベール駅で』は、3歳の愛娘を残し、言われ亡き罪で亡くなった彼の“最後の1日”を描いた作品だ。
バラク・オバマが黒人初の大統領に選ばれたのと同時期に起き、全米に大きな波紋を巻き起こした事件を映画化したのは、27歳の新人、ライアン・クーグラー監督だ。
2013年サンダンス映画祭で作品賞と観客賞をW受賞、カンヌ国際映画祭ある視点部門フューチャーアワード賞を受賞。全米で大ヒットし、多くの観客を涙させた本作について、クーグラー監督に聞いた。
監督:僕を駆り立てさせたのは事件そのものとその余波だった。(事件の)ニュース映像を見てすごく心動かされた。オスカーは僕であってもおかしくなかったと思ったんだ。年も同じぐらいだったし、彼の友人たちは僕の友人たちと似ていたし、こんなことが(地元でもある)サンフランシスコのベイエリアで起こったことに大きなショックを受けた。
そして、裁判の間、状況が政治化するのを目の当たりにした。その人の政治的な立ち位置によって、オスカーは彼の生涯のなかで何ひとつ悪いことをしていない聖人か、又は受けるべき報いをあの晩受けた悪党かのどちらかに分かれた。その過程で、オスカーの人間性が失われてしまったように感じたんだ。亡くなったのが誰であろうと、悲劇の真髄は、その人ともっとも近しかった人々にとってその人がどういう人だったのかというところにあるのに。
映像、裁判、そしてその余波は僕をとてつもない無力感に陥らせた。ベイエリアコミュニティの人の多くが抗議活動に、そしてその他の人々も集会やデモに参加した。また、自暴自棄からの暴動もたくさん起きた。僕も状況を変えるために何かしたいと思って、映画を通してこの話に命を吹き込み、オスカーのような人物と観客とが一緒に時間を過ごす機会を作れれば、このような出来事が再び起こるのを減らせるかもしれないと思ったんだ。
監督:まず(オスカー俳優でもあり)プロデューサーのフォレスト・ウィテカーに作品を売り込んだのと同時期に、映画のアウトラインを作りつつ、事件の公式記録を取り寄せ始めた。それから製作にゴーサインを出た後、遺族に会いに行って、オスカーの物語の権利を保有させてくれるよう頼んだ。遺族側の信頼を勝ち取るのが本当に大変で、いかなる場合でもこの話を扇状的に扱うことはしないと保証しなければならなかった。僕がやりたかったのは、オスカーと同年代で、人口統計的にも同じところに属する人間の視点とベイエリアからこの物語を語ること。これには時間がかかったね。遺族に僕が製作した短編を見せて、僕自身のことも話し、なぜ独立系映画の視点からこの物語が語られるべきだと思うか説明した。こうして最終的に遺族が承諾してくれた。
もうひとつ困難だったのは、低予算で作りながらも、ある一定の芸術性を保つことだった。それから撮影期間は20日間で、12年7月に撮影して、6ヵ月後にはサンダンスで上映していたよ。このスケジュールは本当に大変で、関わったすべての人々にとってストレスの種となった。
もっとも困難だったことのひとつは、(事件の現場にもなった)フルートベール駅でのロケだった。地域にとって痛みを伴う出来事だっただけに、ロケを嫌がる人が多かったんだ。彼らに会って、プロジェクトの内容を説明し、なぜここで撮影したいのかを説明した。僕らの売り込みを聞き、人々は製作に協力することを承諾してくれたんだ。
監督:オスカーの写真はたくさんあったけれど、1人で写ってるのはほとんどなかった。必ず家族や友だちなど誰かといたんだ。一番有名な写真も赤ん坊の頭部が写ってる。姪を抱いてたんだ。それで、彼は人といるのが好きだと分かった。1人でいるのが嫌いだったんだ。聞く人によって彼のイメージは様々だった。例えば母親の前では自分が巻き込まれてる問題を正直に話さなかったり、汚い言葉は使わなかったりした。自分のその側面を見せたくなかったから。彼はその時々で一緒いる人を幸せにするために何でもする人物だったんだ。
監督:この作品をドラマにしようと思ったのにはいくつか理由がある。まず1つは、このような出来事は繰り返し起こるから、時間を空けずに作りたかった。フィクション映画製作の利点のひとつに、早く完成できるということがある。僕の好きなドキュメンタリーはみんな完成までに数年かかっていたからね。もう1つの理由は、キャラクター先導のフィクション映画とドキュメンタリー映画の視点の違い。僕が個人的に思っていることだけど、うまく作りさえすれば、ドラマの方がドキュメンタリーよりも登場人物に深く感情移入させられる。この作品では、観客にオスカーをできるだけ身近に感じてもらいたいと思っていたから、自分が撮影されることを意識することから来る違和感をできるだけ避けたかった。ドキュメンタリー映画では得てしてそれが障壁となるんだ。タイトなスケジュールでは特にね。
監督:オスカー・グラントが確かにこの世に存在していたことを観客に伝えたいね。あがいていたり、個人的な葛藤を抱えていたけれど、希望や夢や目標を持った人だった。そして、彼がもっとも愛していた人たちにとって、彼の命がとても大切だったことも。この作品を通じて、新聞の見出しを読むだけでは得られない、オスカーのような人物に近しさを感じてもらえたらいいなと思っている。
NEWS
PICKUP
MOVIE
PRESENT
-
【舞台挨拶あり】齊藤工が企画・プロデュース『大きな家』公開直前舞台挨拶付試写会に15組30名様をご招待!
応募締め切り: 2024.11.22 -
『型破りな教室』一般試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2024.11.29