『ノア 約束の舟』ダーレン・アロノフスキー監督インタビュー

聖書の物語を映画化し全米で物議を醸した問題作について鬼才監督が語った

#ダーレン・アロノフスキー

創世記のたった4段落分の物語をどうやって長編映画にするかが大きな問題だった

堕落した人間を滅ぼすための大洪水のなか、唯一、生き残ったノアの家族と動物たち──旧約聖書に書かれた「ノアの箱舟」の物語をもとにしたスペクタクル巨編が『ノア 約束の舟』だ。

ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優を受賞した『ブラック・スワン』(10年)のダーレン・アロノフスキーが監督をつとめ、オスカー俳優のラッセル・クロウが主演している。

全米公開時の興行成績は良かったものの、大胆な脚色をしていることから宗教関係者による物議が醸されていた本作について、アロノフスキー監督に語ってもらった。

──「ノアの箱舟」を映画化しようと思ったきっかけは何ですか?

監督:もとはと言えば僕が13歳のときに書いた詩から始まったんだ。英語の先生がとても素晴らしい女性で、彼女がある日、「みんな、紙とペンを出して。平和について詩を書いてください」と言ったんだ。そのとき僕が書いたのが、「ノアの箱舟」についての詩だった。なぜそんな詩を書いたのか自分でもわからないけどね。その詩をつい最近見つけたんだ。7歳の息子に見せようと思って、地下室で昔のベースボールカードを探していたときに見つけて、「おお、これはおそらく、貴重なものだぞ」って思った(笑) 。

──この映画でテーマにしたことは?

監督:僕は、聖書に書かれていることを完全な真実の物語として読み、それに命を吹き込もうと思った。小説を映画化しようとする人間が、「これはどういう物語だろう。どうすればこれを尊重できるか」と考えるのと同じようにね。物語を理解し、21世紀の観客が共感できるように描く努力をした。「ノア」の物語には、今の世の中で起きていることと深いところで繋がっているテーマがたくさんあると思う。既に作品を見た友人たちから、「これほど古い物語なのに、テーマが現代的だと感じた」と言われたのが何よりの褒め言葉だった。

来日時のダーレン・アロノフスキー監督

──宗教的な側面で論争が起こっていましたが、製作前にそういう心配はしていましたか?

監督:いや。していないと思う。この映画は完全に聖書の文章を尊重している。僕らが作り直しているわけじゃない。もちろん僕らなりの解釈をしているところはある。創世記のたった4段落分の物語だし、ノアもまったく言葉を発していないからね。ラッセル・クロウに演じさせるなら、彼に話させないと。そんな小さな物語を、どうやって長編映画にするかというのは大きな問題だった。でも信者たちは、求めているテーマすべてをこの映画から得ることができると思う。これは、僕らが実際に存在する証拠を見て作った映画だ。僕らの理解を超えた世界なんだ。「中つ国」が作られたときと同じように、僕らは聖書を手掛かりにして一つの世界を作ることにした。空想的ではあるけれど、物語にとても忠実なものを作ることができた。信者と非信者をつなぐため、両者の間の会話を生み出すためにはうってつけの映画だと思う。

エマ・ワトソンは純粋にオーディションでの演技で役を射止めた
来日時のダーレン・アロノフスキー監督

──映画に対する様々な意見に注意を払うほうですか?

監督:気にしないほうだよ。『レスラー』(08年)を作っているときには、「なぜ、ミッキー・ロークをレスリングの映画に出すんだ。頭がおかしいんじゃないか」と言われたし、バレエの映画(『ブラック・スワン』)を作ったときには、「一体、なんだってバレエの映画なんて作ってるんだ」と言われた。そして今回の聖書の映画では、「なぜ聖書の話なんてやるんだ。彼も魂を売ったな」という声ばかりだ。僕は昔から、自分が作りたいと思うものをやってきた。この作品もそうだ。実際に見てもらえば、僕がこれを作りたいと思った理由も理解してもらえると思う。

──主人公ノア役をラッセル・クロウにした理由は?

監督:ノアはキャスティングが極めて難しい役だ。長い歴史を通して彼の人物像に対する認識がいろいろとある上に、彼の外見に関してもたくさんの芸術的見解が存在する。とてつもない高潔さと強さと信憑性、そして人々の心を動かす力を持った役者が必要だった。聖書には、公正さに対する大きな概念がある。ノアは、彼が生きていた時代において公正な人間だったとね。公正さは正義と慈悲の融合したものだ、という興味深い神学上の論議がある。子を持つ親なら皆、納得いくんじゃないかな。正義感があり過ぎると、厳しくなり過ぎて子どもをダメにしてしまうし、慈悲の気持ちがあり過ぎても甘い親になって子どもをダメにしてしまう。公正な人間を演じられる役者が必要だった。

『ノア 約束の舟』
(C) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
──では、若手についてはどうですか? エマ・ワトソン、ローガン・ラーマンらも出演していますね。

監督:エマについては、『ハリー・ポッター』シリーズは見ていないんだ。あの作品を見るには僕は年をとりすぎているし、うちの子どもは幼すぎるから。彼女を見て、「ほお! これは面白い!」と思った。びっくりしたよ。正直なところ予想外だった。僕のリストには彼女の名前すら載っていなかったんだ。彼女は純粋にオーディションでの演技で役を射止めた。彼女の実績とは一切無関係だった。
 ローガンのことも、実はまったく知らなかったんだ。彼がオーディションに来たとき、「すごい、こいつは素晴らしい!」と思った。その後彼の出演作を見て、「そうか。他の人たちも彼の素晴らしさに気づいていたんだ」と思った。とにかく彼には感動したよ。彼は、僕がもともとあの役に考えていたタイプとは違っていたんだけど、彼の演技があまりにも見事なので気に入ったんだ。ダグラス・ブースも僕の部屋に来たとき、すごい役者だと思った。彼も僕にとっては新たな発見だった。彼はすごくうまいよ。彼の問題は、あまりにハンサムだってこと。その点を克服する必要があるね(笑)。演技はうまいのだから。

ダーレン・アロノフスキー
ダーレン・アロノフスキー
Darren Aronofsky

1969年2月12日生まれ。ニューヨークのブルックリンに生まれる。ハーバード大学で社会人類学、映画製作を学んだ後、低予算映画『π』(97年)でサンダンス映画祭最優秀監督賞を受賞。その後、普通の人々が麻薬により崩壊していく衝撃作『レクイエム・フォー・ドリーム』(00年)、ヒュー・ジャックマンとレイチェル・ワイズ共演の『ファウンテン 永遠につづく愛』(06年)などを監督。『レスラー』(08年)がヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、『ブラック・スワン』(10年)ではナタリー・ポートマンにアカデミー賞主演女優賞をもたらした。『ザ・ファイター』(10年)では製作総指揮もつとめている。

ダーレン・アロノフスキー
ノア 約束の舟
2014年6月13日より全国公開
[監督・製作]ダーレン・アロノフスキー
[脚本]ダーレン・アロノフスキー、アリ・ハンデル
[出演]ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、アンソニー・ホプキンス、ローガン・ラーマン、ダグラス・ブース
[原題]NOAH
[DATA]2013年/パラマウント

(C) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.