作家・桜庭一樹の直木賞受賞作を、映画『海炭市叙景』の熊切和嘉監督で映画化した『私の男』。津波により孤児となった少女と、彼女を引き取った遠縁の男との禁断の関係を描いた本作で、複雑な思いを胸に秘めつつも健気に生きる少女・花を演じたのが、若手実力派女優の二階堂ふみだ。
近年、話題作への出演が続き、その演技力が高く評価されている二階堂に「運命を感じた」という本作への熱い思いや、4月からスタートした大学生活について聞いた。
──「運命的なものを感じた作品」という発言をされていましたが、ご自身はなぜこの作品に惹かれたのでしょうか？
二階堂：桜庭先生の作品は以前から好きで、この作品もすぐ購入して読んでいました。しかもずっとご一緒したいと思っていた熊切監督が映画化されるということ。監督とは『私の男』のお話が来る前にお会いしていたのですが、そのときからずっと熊切組でお仕事したいと思っていたんです。だから映画化の話を聞いたときは「絶対やりたい！」という思いが強かったですね。
二階堂：撮影前に熊切監督に対して抱いていた運命的なものは、撮影が始まってもそのまま変わりませんでした。リアリティーを追求する姿勢だったり、役作りでいろいろお話をしたことなど、いま振り返っても、とても充実した現場でした。出来上がった作品も、自分の期待を遥かに超えたものがスクリーンに映し出されていました。私にとってはすべてにおいて特別な作品になりました。
──本作では浅野さん演じる淳悟と花との複雑な関係が描かれていますが、どのような距離感で接していたのですか？
二階堂：浅野さんはカメラが回っていないところでも、淳悟と花という空気を保ったまま接して下さったので、2人のすごく深いところで通い合っている関係性だったり、言葉や人間の論理的なところでは語れない空気感が出せたんじゃないかなって思います。
──二階堂さんは花と淳悟の関係性をどう捉えていたのですか？
二階堂：この2人は家族であり、男と女でもあります。分かりやすく括ることができない関係なんです。淳悟にとって花は、母のような存在になるときもあれば、女になるとき、娘になるときなど、いろんな関係性が瞬間的に変わっていくんです。私自身は「家族とはこうだ」という定義を持っていないので、花と淳悟の関係性に違和感はありませんでした。ただ2人だけの世界で生きているということだけは確かで、それはもしかたら“純愛”という言葉で表現できるのかもしれません。
二階堂：あまり面倒くさくない方がいいですね（笑）。面白い人と出会って、面白い恋愛ができて、毎日楽しく過ごせたらいいなって。個人的には苦しい恋とかはしたくないです。ケラケラ笑っていられるような恋がいいですね。まあ、苦しい恋愛を経験することも悪いことではないのかな、と思うこともありますが……。
二階堂：現場に行くたびに色々なことを吸収していますが、いつも意識していることは「私は俳優部のひとりでしかなく、作品を良くするために何ができるのかということを考えることが重要」ということです。映画の現場には、監督がいて、俳優部がいて、録音部、撮影部、照明部、メイク部……そういう人たちが、全力を尽くすことによっていい作品ができると思うんです。私もひとりでお芝居しているわけではないので、相手の役者さんとの通じ合いは大事にしています。
二階堂：映画の現場でキャラクターを演じさせていただくことも楽しいのですが、演じるということにそこまで固執していないんです。私はひとつの作品を作るということに醍醐味を感じているので、女優と言うのは肩書きでしかなく、あくまで制作者、表現者でありたいという気持ちは強いです。まだ自分自身を“女優”と言うのは恥ずかしくて、職業欄に記入するときに“フリーター”って書いてしまうんです。最近は大学生になったので“学生”って書くようにはなったんですけどね（笑）。
──4月から大学に通われていますがいかがですか？
二階堂：思っていた以上に大変だなって（笑）。大学の課題とかも「あ、忘れてた！」っていうこともあったり……。でも、同世代の子と混じってひとつの組織に属すると、色々な発見があります。大学ってさまざまな地方から出てきているので、考え方とかも人それぞれで面白いですしね。
二階堂：作品中に役を引きずることはあまりなくケロッとしているので、自然と切り替えられているんじゃないかなって思いますね。でも最近、自分の時間にやらなければならないことが増えてきているので、ちょっと大変かもしれません。もう少し自分の生活のペースが確立できたら楽になるのかなって思うんですけどね（笑）。
二階堂：いま自分が考えを発信することができる場所があるからなのかもしれないですね。どこかにそういう場所があると、自分の考えって確立するような気がします。その意味では、私は恵まれていると思います。
二階堂：気がついたら血が多く出る作品に出ていたなって感じですが、特にそういう役を意識してやっているというわけではないんですよ。山奥で畑を耕したりする役もやってみたいし。私は（作品の役柄のように）普段も激しそうって言われるのですが、日々の生活に喜びを感じるタイプで、ノホホンと呑気に生きているんですよ。酔っ払って人に迷惑かける人とか嫌いですし（笑）。まあ、高校生のときとかは、無敵っぽいところもあって、有り余る体力を発散していた時期もありましたが、今は逆に静かな営みのなかで見つける小さな発見や、人間と人間の関わりのなかで生まれる感情も大切なんだなって思ったりしますね。
二階堂：北海道の地で、淳悟と花の2人だけの美しい世界観が堪能できます。とても素晴らしい作品なので、ぜひ映画館で鑑賞していただきたいです。
（text&photo磯部正和）
1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。2009年、映画『ガマの油』でスクリーン・デビュー。映画は『ヒミズ』（12年）、『ほとりの朔子』『私の男』（共に14年）、『オオカミ少女と黒王子』（16年）、『SCOOP！』『何者』（共に16年）、『リバーズ・エッジ』（18年）、『翔んで埼玉』『人間失格 太宰治と3人の女たち』（共に19年）などに出演。ドラマやバラエティなどテレビでも活躍し、2020年前期のNHK連続テレビ小説『エール』のヒロインを務める。
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