1965年7月24日生まれ、ニューヨーク出身。ブラウン大学と南カリフォルニア大学大学院で学び、インディペンデント・コメディ作品『スウィンガーズ』(96年)を監督し注目を浴びる。続く『GO』(99年)でインディペンデント・スピリット賞の最優秀監督賞にノミネートされる。その後、『ボーン・アイデンティティー』(02年)の映画化権を獲得し、監督と製作を兼務。世界中で2億1400万ドル以上の収益をあげた。その後、続編の『ボーン・スプレマシー』(04年)、『ボーン・アルティメイタム』(07年)を製作総指揮。その他、『Mr.&Mrs.スミス』(05年)、『ジャンパー』(08年)、『フェア・ゲーム』(10年)を監督。
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』ダグ・リーマン監督インタビュー
ヒットメーカーがトム・クルーズのプロ根性を絶賛!「最大限の努力を惜しまない」
日本人小説家・桜坂洋の原作をトム・クルーズ主演で映画化した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。宇宙人侵略者からの襲撃にさらされる近未来の地球を舞台に、不可思議なタイムループの世界に囚われた無力な男が、いつしか人類滅亡の危機に立ち向かうヒーローとなっていく姿を描いたSFアクションだ。
永遠に続く生と死のタイムループのなかで戦闘技術を磨きあげていく男のこれまでにない物語を、迫力ある映像作品に仕上げたのはダグ・リーマン監督。『ボーン・アイデンティティー』や『Mr.&Mrs. スミス』を手がけてきたヒットメーカーにインタビューした。
監督:宇宙人の地球侵略を描いた映画には何の興味もなかったよ。だからむしろ僕が本当に魅かれた理由は、トム・クルーズ演じるウィリアム・ケイジが辿る軌跡の方だったんだ。
自分以外の人間はみんな同じことを繰り返しているのに自分だけが違うという状態のなかに何度も何度も放り込まれるというのは、人生のメタファー(隠喩)のようなものだ。現実には、世界を変えることはできないし、他人を変えることだってできない。でも自分自身を変えることならできるよね。この「自分を変える」という行為こそが劇中を通してケイジにできる唯一のことなんだ。ほかはどれも同じで変わることがないからね。彼にコントロールできるのは自分の行動だけなんだよ。「自分を変えることができれば世界を変えることができる」、その点に僕は惹かれたのさ。
監督:仮にそれが苦渋の結末になったとしても、僕は常に追求と自問を繰り返すタイプなんだ。「これが本当に僕らのできるベストなのか? さらに良い物にできないだろうか?」とね。そしてトム・クルーズ自身がまさにそういう生き様の人なんだ。だから僕らは常に最上を求めてお互いに刺激し合うことができたよ。
トムは本当に熱心に打ち込んでくれる役者だ。常に映画のことを気にかけて、全力を傾ける。そんな彼の姿勢がスタッフやほかの人々を刺激して伝染していくんだ。本当に素晴らしかったよ。彼はこれまでに何本もの作品に出演してきているのに、まるで今回が初めての現場みたいに周りに感じさせるんだ。
彼をトム・クルーズたらしめている最も大きな理由のひとつは、あの熱意と映画に対する情熱だと思うんだ。撮影初日、僕らは彼に朝8時にセットに来るように頼んだのに、彼は7時45分には現場にいたんだよ。翌日も同じ時間には現場にいた。撮影最終日もだ。その頃には実は彼がすでに7時15分には現場に来ていたことに気づいていたよ。彼は常に指定した時間よりも早めに現場に入る人なんだろうね。だから8時と言えば7時45分には姿を見せるし、僕らが7時45分に合わせて準備を整えればそれに気づいて今度は7時半に現場に入るようになる。主演俳優がこんな雰囲気をもたらしてくれる環境にいたら、毎日現場に行くのが楽しくて仕方がなくなるよね。
監督:彼のように30本も40本も映画に出ていると、もはや観客を驚かすことなどできないと思う人もいるだろうね。でもトムは、今までに演じたことのない新たなキャラクターを創り出すことに最大限の努力を惜しまないん人なんだよ。トムは素晴らしいパートナーだし、挑戦を決して怖れない。彼は何事にもチャレンジするんだ。そして、僕が良いと思う方に決めさせてくれる。僕の提案はすべて実践してみてくれるんだ。
監督:僕の作品を見たことがある人は僕が強い女性キャラクターが好きなことはご存じだと思う。何しろ僕は普段から強い女性に囲まれているからね。『Mr.&Mrs.スミス』でも、ミセス・スミスのほうがミスター・スミスよりも強いんだ。
本作の場合は、リタはかつてケイジと同じ特別な力を持っていた。そして、そのことで伝説の戦士になったと言える。人々は彼女がこの戦いの結末を変えてくれることを願っているし、もしかしたらそうなったかもしれないが、すでに彼女はその能力を失ってしまっているんだ。世界は彼女が別の何かを成し遂げることを期待しているけど、それが無理なことは彼女だけが知っている。そんなときに、自分が失った能力を持ったケイジと出会ったことで、彼女は彼を導けばきっと自分が出来なかったことを成し遂げてくれることに気づくんだ。
監督:毎日現場に行くのが楽しみだった理由の一部には、トムが驚くほど面白い人物だったこともあるだろうね。エミリー・ブラントにはコメディの経験があったしね。トムは本当に面白くて、撮影以外の会話ではいつも笑い、互いにふざけ合っていたよ。彼は本当に最高のコメディアンだ。話が弾めば弾むほど、そんな笑いをスクリーンに映し出す方法を発見していたね。
監督:トラファルガー広場を封鎖して巨大な英国空軍ヘリコプターを着陸させるのは、まさに子どものような気持ちになる興奮の瞬間だったよ。技術面から言えば、僕のキャリアのなかでも最大の挑戦になったね。というのも時間の猶予は3時間しかなかったし、現場のリハーサルはできなかった。巨大ヘリを扱うということで、封鎖の方法も極めて複雑だったんだ。一旦ヘリが地面をホバリングすると、騒音が大きすぎて文字通りすべてのコミュニケーションが不可能になってしまうしね。だから事前に入念な準備をしてから3時間の撮影を迎えたよ。おかげで上手くいったけど、「もう一度」なんて絶対に、絶対に無理だろうね。まさに一度きりのチャンスだった。関係者には、「これは人生で一度きりのチャンスですよ。最大限に活用してください」と言われたよ。
準備も大変だったしプレッシャーもすごかったけれど、頭上にヘリが姿を見せた途端、そんなことはすべて忘れてお菓子屋に入った子どもの気持ちになって、「もしかして、今までの人生のなかで目撃した最もクールな光景かも!」と思っていた。あれはまさに一生に一度の体験だったよ。
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