1997年生まれ、東京都出身。2014年、河瀨直美監督の『2つ目の窓』(14年)で映画主演デビュー。『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)、『武曲 MUKOKU』(17年)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17年)、『ハナレイ・ベイ』(18年)などに出演し、『銃』(18年)に主演。オダギリジョーの長編初監督作『ある船頭の話』(19年)ではキーパーソンを演じる。待機作に『銃2020』(武正晴監督)『燃えよ剣』(原田眞人監督)、『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督)がある。外山文治監督の短編『春なれや』(17年)にも出演している。
作品を発表するごとに世界に注目され、『殯(もがり)の森』(07年)でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞した河瀬直美監督による新作『2つ目の窓』。自然と神と人が共存する奄美大島を舞台に、少年と少女の成長を通して、生と死を繰り返してつながっていく命を映し出す人間ドラマだ。
演技未経験ながら本作の主人公・界人(かいと)役に抜てきされたのは、俳優の村上淳を父に、アーティストのUAを母に持つ村上虹郎。
本作で村上淳と親子役で共演し、自分自身と重なるキャラクターである界人を演じた彼が、役をつかむまでの苦労や父親との共演についてありのままに語ってくれた。
村上:はい、まったく初めてです。
村上:脚本を書くにあたって河瀬監督が父に取材したそうです。まだキャスティングは誰も決まっていない段階で、やりとりしていくうちに父が出演することが決まって、僕はカナダに留学中でしたが、一時帰国しているときに主演をやってみないかという話を頂いたんです。
村上:え?僕が!? って(笑)。河瀬監督と会って脚本も読みましたが、はじめはピンときませんでした。徐々に映画ってどうやって作るんだろう、監督って何をするんだろうっていう映画製作への興味から始まって、やりたい気持ちが高まっていって、この作品に関わらないと後悔するだろうな、と思うようになりました。
村上:父以外はみんなに反対されました。特に母とは、ちょうどキャンプ旅行中だったのだけど、夜通しずーっと話して喧嘩もしました。初めて母に反対されたと思うのですが、世間に顔を出すこと自体まだ早い、そもそも成長過程なのにこんな大きな仕事をしたら人生を左右するに違いない、と言われて。どんどん話は広がっていって、母が芸能界をどんなふうに生きてきたかとか、父と母の出会いなども話してくれました。そして、母がどんな思いをしてきたかということも。親子でこういう話をしたのは初めてでした。
村上:これまでの反抗期とは違って冷静に考えたうえで、自分で心からやりたいと思ったんです。人生で初めて自分で決めた大きな決断でした。
村上:それが、すでにオーディションが始まっていたので、結局母から出世払いで旅費を借りてオーディションをしている奄美大島まで行ったのだけど、オーディションに落ちちゃったんです。
村上:たぶん、それはあると思います。でも、河瀬監督はフェアな方なので、本当に落ちたときはとにかく悔しかったけど、できるだけのことはしたので仕方ないな、と。それでも作品に携わりたいと思っていたところ、監督から美術部に行くように言われたので、そこからは美術部としてがんばろうと思いを新たにしました。その2日後ぐらいに共演した吉永淳ちゃんと一緒に海で泳ぐシーンのカメラテストをしたんです。そうしたら監督から「主演やりますか?」って! 純粋にカメラテストのためだと思っていたので、嬉しいやらビックリやらでした。
村上:なんで僕が主演なのかな? 選んでくれたのに、どうしてこんなにダメ出しばかりなんだろう? と思いました。河瀬監督は現実と映画のなかでの境目をあやふやにする方で、24時間常に役でありなさいと言われて、それが上手くできなくて、何ができないかもわからないぐらいわからなくて、毎回怒られてましたね。
村上:舞台が奄美大島なんですが、母方の祖母が奄美大島の人で、奄美大島に行ったこともあったし、自分のルーツなのでそういう意味でも身近に感じました。カメラの前では界人であり、虹郎であって、セリフは界人のものだけど、それを言うことで湧く悲しみや怒りは虹郎が実際に感じるもので……ずいぶん葛藤しました。
村上:あのセリフは脚本にはないんですが、河瀬監督は現場で指示を書いたメモを渡すんです。ときには僕にだけ見えるように出したりして。それで、あの指示が来て、「あ、やっぱり来たかぁ。本音を言うと、どうでもいいんだけどなぁ。この機会に聞いてみるか」って感じでした(笑)。
村上:そう、両方です。ただ、あのシーンは僕は指示されたセリフを投げかけたけど、父はアドリブで応えてるんです。本番中に初めて聞くことばかりでした。それについて深く悩むことはなく、「あ、そうなんだ」と受け止めています。わかっていたこともあるし、言葉にしてもらわないとわかっていなかった部分もあるんだな、とそのときに思いました。
村上:クランクインの直前に、役者は思いっきり出すことからの引き算なんだよ、と言われました。はじめはよく意味がつかめなかったのだけど、役者は持っているものを出し切って、そこから監督が調整していくということ。役者が出し切れていないと監督が最大限に引き出してから調整していくという二度手間になってしまうということかな、とやっていくうちに思いました。ほかにも父はいろいろ言ってくれますね、今は東京で一緒に暮らしているので。今回も俳優を厳しく指導してくれる河瀬監督だからこそ挑戦してみるといい、と父は最初から賛成してくれました。
村上:もともとは音楽がやりたくて、それで海外に留学していました。でも、留学か役者の仕事かどちらか選ぶことになって、役者を選びました。
村上:今回、完成作を見たときに、これはダメだと思ったんです。というのは、役者をやりたくないというのじゃなく、逆にもっと上手くなりたいという気持ちです。また次に行こう、また次に……と続けてみたい。それを本格的と呼ぶかどうかは僕を見てくれる人が決めることだと思います。
芸能界は結果を出さないとやっていけない世界だと思うので。今までは失敗しても親や人のせいにすることが多かった。でも、今回は自分で決めたことなので逃げられません。悩めることは幸せなことだと感じています。
(text&photo 入江奈々)
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