1975年3月17日 スイス・ベルン州で生まれ。マルタ・アルゲリッチと、同じくピアニストのスティーブン・コヴァセヴィッチの娘。モスクワでロシア語を学び、その後ニューヨークのパーソンズ・デザイン・スクールで写真撮影について学んだ。パリでは、ビデオ撮影のトレーニングを受け、初の監督作品を手がけた。本作は、自身にとって初監督長編映画となる。
『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』ステファニー・アルゲリッチ監督インタビュー
インタビュー嫌い、気分屋で情熱的なクラシック界の女神。その素顔をとらえた“女神”の娘
今世紀最高のピアニストと呼ばれるマルタ・アルゲリッチ。50年以上にわたりクラシック界の女神として君臨し続ける彼女の姿を、娘が追ったドキュメンタリーが『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』だ。
1941年、アルゼンチンに生まれ、幼い頃から希有な才能を発揮。50年以上もの長きにわたりクラシック界の女神として君臨し続けている。美しい風貌と奔放な性格、スキャンダラスな私生活でも有名な一方、インタビューにはほとんど応じない気むずかしい一面を持つアルゲリッチ。
そんな彼女の素顔を始めて公にしたとも言える本作について、監督でありアルゲリッチの三女でもあるステファニーに話を聞いた。
ステファニー:たしかに母が主役であるかのような扱いになっていますが、私は彼女のキャリアをなぞるような映画にはしたくありませんでした。あくまでも私の視点で見た「母の姿」であり、自分が軸となって家族を描こうと思ったのです。ですから音楽ファンの方がピアニストのマルタ・アルゲリッチを追った映画だと思ってご覧になると、がっかりされるかもしれませんね。髪の毛がぼさぼさで寝起き姿のピアニストなんて、見たくないという人もいらっしゃるでしょう。
ただ、私はピアニストとしての姿と同時に母親としての姿も描きたかったですし、母もまた飾ることのない姿で撮影されることを望んでいました。
ステファニー:もともと私は、家族のなかで「記録係」と言いますか、写真や映像を撮影したり、たくさんの写真を整理してアルバムにするという役割を担っていたのです。11歳くらいから、カメラでいろいろな母の姿を撮影していましたので、母も私に撮られることが不自然だとは思わなかったのでしょうね。
音楽家としての母や、それを取り巻くさまざまな人たちの姿などを近くで見られることは私の特権でした。時にはそうした状況を演劇的だとさえ思ったものです。それに母も日頃から私に向かって「この髪型はどう見えるかしらね」などと問いかけ、私が常に母を意識し、関心を持つようにコントロールしていたのかもしれません。いずれにしろ、そうしたことの延長線上に、この映画があると言えるでしょう。
ステファニー:母は出来上がった作品を見たとき、画面のなかの自分に対して「私自身のもっているイメージが違うわね」と言っていました。映画のなかには若い頃の姿も出てきますので、そうした部分でギャップを感じたのかもしれません。映画のなかの自分に対して「いい加減なことを言っているわね」とか「何を言っているのかよくわからないわ」などと反応していましたが、母も父も作品に対して修正を要求するようなことはありませんでした。でも1点だけ、ベッドから起きてくるシーンには「撮影されるならあのパジャマじゃなく、赤いやつにすればよかったわ」と不満気だったことを覚えています。
ステファニー:プロデューサーのピエール・オリヴィエ・バルデからは、実は、最初はもっと商業的に大成功するようなタイプのドキュメンタリーを要求されるかもしれないと思っていました。それは私の意図には反していますから、ちょっと警戒していたのです。しかしお会いして仕事をご一緒してみると、バルデはすべてを私に任せつつ、あちこちで的確なサポートとアドバイスをしてくれました。もう1人のプロデューサーであるリュック・ピーターは、私の代わりにカメラを持ってくれたり、シナリオの執筆時にたくさんのアイデアと的確なアドバイスをくれたのです。また、編集を担当してくれたヴァンサン・プリュス、彼は映画監督でもあるのですが、私自身が録音したナレーションを的確な場面へ入れてくれました。今回の映画は彼らのように能力のある人々、そして私の家族など多くの方に支えられて完成したと言えるでしょう。
ステファニー:私が作品の意図や答えを提示するのではなく、映画のなかから皆さんが自分なりの答えを見出していただけるとうれしいです。私にとっては劇場公開用の初監督作品ですし、それがこの日本でもご覧いただけることになり、どのように感じていただけるのかとてもドキドキしています。
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