『美女と野獣』ヴァンサン・カッセル インタビュー

ディズニーアニメやジャン・コクトーの名作をはじめ、様々な映画・ドラマのモチーフとなってきた「美女と野獣」の物語。これらの基となったのは1740年に書かれたヴィルヌーヴ夫人の小説で、本作は、この小説を徹底検証して作られたミステリアスでスリリングなラブストーリーだ。

野獣の過去に隠された悲しくも美しいもうひとつの愛の物語、ヒロイン・ベルの過ちとは──？

真実の愛を描いた本作で野獣を演じたのはヴァンサン・カッセル。『ブラック・スワン』（10年）や『オーシャンズ』シリーズ（04年、07年）などハリウッド映画でも活躍するフランスの人気俳優に、本作について語ってもらった。

──原作小説のことはご存じでしたか？ また、本作が象徴しているものとは何でしょうか？

カッセル：物語については、だいたいのあらすじしか知らなかったよ。子どもの頃にジャン・コクトー版の映画を見たんだ。それから、ディズニー版の映画が原作とは違う話だとは知っていた。あとは美女と野獣の「不可能な」愛の物語だということ。その程度の知識だよ。
　この映画は、性別も含めて、「違いを受け入れること」について描いているんだと思う。そこには男女関係のメタファーも含まれていると思うよ。

カッセル：とても いい配役だと思った。すでにキャリアを築いている女優だし、その上何と言うか、表情に少女っぽさがある。「子どもっぽい」とは違うが、思春期の若々しさと女性らしさが混ざり合っているんだ。説明できない魅力だよ。だから彼女の名前を聞いてとてもいい配役だと思ったし、演技も素晴らしかった。

カッセル：正確に言うと マスクはなかった。あれは合成なんだ。仮面で演技をするならこの役を引き受けなかったかもしれない。新しいテクノロジーを使うと知り興味を持った。モーション・キャプチャーを使ったんだ。役者の表情をそのまま記録できて、その表情からデジタルマスクを作成してアニメーション化する。セットでの僕の演技が忠実に反映されるわけだ。顔の体毛や輪郭など違う部分は当然あるが、出来上がった映像からはマスクかデジタルなのか分からないはずだ。マスクをかぶっていると目と声だけで演技することになる。そういう演技は今どき求められていない。

『美女と野獣』場面写真
(C) 2014 ESKWAD – PATHE PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION 　ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS

　ただ、野獣の動きの演技は大変だった。野獣らしい筋骨隆々の体を作るコスチュームを着けるんだ。僕の体が体重300キロの巨漢になる。その上からぴったりした王子の衣装を着けた。鉛製の大きな襟（えり）がついたずっしりした衣装だ。頭には野獣のかつらを被って、その格好で“自然に”演技することが求められたんだ。カメラのフレームのなかで自在に動き回る必要があったわけだ。大変そうに見えてはいけないし、優雅さも必要だった。不思議なもので、準備段階ではいろいろ不安だったが、現場ではすべてが問題なく進んだよ。撮影前にはあれこれ考えたが、始まってからは実にスムーズだった。

カッセル：演技においてセットはそう重要じゃない。背景は何でもいいんだ。大切なのは心の動きや共演者の状況に集中することだ。セットは観客のためのものだ。グリーンバックで演技するのは確かに不自然だけど、すぐに慣れるし問題ない。役者にとってはセットは二次的なものだよ。
　衣装は演技を助けてくれると思う。だが演技をしながらセットを見回すことはない。セットがないと演技ができないとしたら大問題だよ。

カッセル：デッサンや彫刻は完成前から見ていたから、ある程度のことは知っていたけど、最近の特殊効果は信じられないほど進んでいるね。不可能だと思えることもすべて実現してしまう。例えば夕食のシーンで監督は皿の上の料理が気に入らなかったらしいんだ。セットにしばらく置かれていると料理がほこりをかぶって美味しそうに見えなくなる。監督はテスト映像を見てダメだと思ったらしい。そこで皿の上の料理はすべて修正された。子どもたちが本を読んでもらうシーンも、子どもの目が泳いでしまうため視線を修正したそうだ。物語を違和感なく展開するため映像が処理されているんだ。足元の草とかね。スクリーンで見る映像の実に90％がコンピューター処理されているんだ。

『美女と野獣』場面写真
(C) 2014 ESKWAD – PATHE PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION 　ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS

──本作の主役は野獣ではありませんね。本作のメッセージとはなんでしょうか？

カッセル：子どもの頃に見た『美女と野獣』で、誰がベル役だったか全然覚えていないんだ。ベルにはあまり興味がなく、野獣ばかり見ていたからだろう。サーカスで動物を見たがるのと同じだね。今回の作品もベルが主人公だが、物語の中心にいるのは野獣だ。観客が見たがっているのも野獣ではないかと思う。物語はベルの視線で語られるが、秘密めいて神秘的、そして恐怖を感じる存在はやはり野獣だ。
　ラブストーリーだというのは大前提だが、どんな王子様も野獣の一面を持っている。そういう話だね。