ゆうばり国際ファンタスティック映画祭フェスティバルディレクター/澤田直矢インタビュー

「なんてひどい映画祭(笑)!」を受け継いだ立役者が映画祭の過去・現在・未来を語る

#澤田直矢

理不尽なこともあえて受け入れてやってきた8年

今年で区切りの25回を迎えた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。俗にいう「ふるさと創生事業」の1億円交付によって始まった同映画祭だったが、2006年には夕張市の財政破綻により休止が決定。翌2007年、品田雄吉氏が実行委員長を務め、有志と共に「ゆうばり応援映画祭」として開催し、歴史をつないだ。

今年のキャッチコピーは「世界で一番、楽しい映画祭」。訪れる人の多くが「もう一度来たくなる映画祭」はどのように変貌を遂げていったのか。フェスティバルディレクターとして、現在の映画祭を切り盛りしている澤田直矢氏に話を聞いた。

──今年で25回目を迎えた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」ですが、これまでの取り組みを振り返ってください。

澤田:初期は行政がやっていたので融通が利かなかった。僕が参加して思ったのは、「これをやってください」ということは多いのですが「こういったことをやりたい」という意見を通すのは非常に難しい。映画祭自体は楽しいし、みんな映画が好きなんですが、最初はなんてひどい映画祭なんだ!って思いましたよ(笑)。

澤田直矢ディレクター

──そういう部分は徐々に変わっていったのでしょうか?

澤田:僕自身がやっていのたは、とんでもないマイノリティーな部分。自主上映をやろうとしても、それはとても大変な作業なんです。メインストリームがあって、その脇で自分たちのやりたいことを確立していったんです。そしてやっとオフィシャルな位置を獲得できたと思ったら、夕張市が財政破綻して、メインストリームがなくなってしまった(笑)。残ったのはマイノリティーだけだったんです。それを幹にしてまた次にいかなくてはならないというのが、現状ですね。色々悩みましたし、理不尽なこともあえて受け入れてやってきた8年ですね。

──現在の映画祭は、育成というかインディーズ系がメインというイメージがあります。

澤田:初期のようなホラーとかSFとかもやりたいのですが、日本未公開のものを上映しようとすると大変なんですよ。ゆうばりでやるためには人材も必要ですしね。一方で、オフシアター・コンペティションでは2000年に山下敦弘がグランプリを受賞したりして、復活の時にコンペを映画祭の柱にしてみようという意見があったんです。ご存知の通り、2009年に受賞した入江悠(『SR サイタマノラッパー』)は、その後、東宝さんで映画を撮るようになったりしましたよね。8年の成果かなって思っています。

学生たちにはここで何かを得て帰っていってほしい
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に参加した『ジヌよさらば 〜かむろば村へ〜』の松田龍平と松尾スズキ

──ゆうばりを目標にする新人作家も多くなっていますよね。

澤田:2000年の山下君を境に、作品の傾向も変わってきましたよね。それまでは、バカ映画系の作品がメインだったのですが、徐々に本格ストーリーテリング映画が多くなってきました。その時期って8ミリや16ミリのフィルムから、デジタルに変わっていった過渡期と重なるんですよね。アマチュアやインディーズの環境が変わると作るものも変わっていくんでしょうね。

──コンペ作品の質も上がって、ほぼプロ仕様。お金がないけど才能がある人が救えないこともあるのでは?

澤田:上映の時間や場所だったりの物理的な問題があるので、本数の制約もあるんですよね。その中で、フォアキャスト部門や、ゆうばりチョイスだったりで出来るだけ才能は拾おうとしているんですけれどね。

──今年メイン会場だったアディーレ会館が終了となります。財政的な問題も出てくると予想されますが。

澤田:財政的な問題は大きいですね。建物の老朽化もあるのですが、耐震基準の問題はどうしても避けて通れないですから。行政と話したなかでも、アディーレに1000万かけて改修することはないだろうって。次回の開催は、99年から2006年までのメイン会場だった文化スポーツセンターという案もありますが、やや会場が離れるので、これまでのコンパクトな映画祭のイメージが少し変わってきます。また体育館の上映って、セリフが聞こえづらいので、音響設備も整えなくてはならないんです。移動のインフラや上映環境のインフラと結構費用がかかるんです。今年はプロジェクションマッピングなどを導入したこともあり8000万円ぐらいかかっているんですね。来年、それにプラス1000万で出来るのかなと考えると、なかなか難しい問題ですよね。

──解決策としては何か考えられているのでしょうか?

澤田:具体的に言うと、基金を作りたいと思っているんです。(詳細はHP参照:http://yubarifanta.com/kikin/)

──地域の人口減少によるマンパワー不足も大きな問題ですよね?

澤田:確実にサポートしてくれる人も減っています。一方で学生のボランティアには力を入れています。ただ、この街に住んでいないので、宿泊費はかかるんです。学生100人いたら、1泊5000円としても1日50万、4日間で200万かかるんです。そもそも、学生を安い労働力だから使っているわけではなく、ここで何かを得て帰っていってほしいと思っているわけです。色々な人と会えて、お酒を飲んで……。その出会いで人生が変わることもある。そういう経験ってかけがえのないものだと思うんです。

運営は毎回綱渡り。存続しているのは奇跡
『幸福の黄色いハンカチ』のロケで使われた建物では、故高倉健を偲ぶ献花が行われた

──それでも色々なことがありながら映画祭は復活したし、存続しています。

澤田:一つは映画祭への思いでしょうね。毎回冷や冷やしていますし、綱渡りですよ(笑)。こうして存続しているのは、奇跡だと思っています。

──今後、強化していかなければいけない部分や改善点はどのように感じていますか?

澤田:映画祭のスタッフはいますが、365日携われるわけではありません。映画祭だけのことを考えていられる人があと2人いたらなと思います。でもそれも人件費に関わってくるわけで……。人材は確実に育っていますが、そういう人材をしっかり抱えるだけの体力も必要なんですよね。リスクもありますし。

──アジア映画の勢いがすごいと思います。特に中国の市場はどこも注目ですが、関係が難しい部分もありますよね。

澤田:中国市場は、注目されていることは間違いないですよね。でもなかなか難しい。一昨年、ゆうばりのクロージングで上映された夕張と上海を舞台にした篠原哲雄監督の『スイートハート・チョコレート』もまだ日本では公開できていないんです。逆に、何十年も中国市場は注目されていますが、なかなか日本映画は上手くいかない。高倉健さん主演の『君よ憤怒の河を渉れ』のような、ある一定の年代より上の人なら誰でも知っているような作品じゃないと厳しいと思います。

──ゆうばり国際ファンタスティック映画祭が、海外市場との橋渡しになるといいですよね。

澤田:日本のコンテンツをアジアのマーケットへというのはなかなか難しいですよね。その先鞭として、ゆうばりというのが位置づけられているということはあるのかもしれません。海外で認知度のある井口昇さんの『SUSHI TYPHOON』を、ゆうばりで最初に発表してもらったり、ゆうばりが関わっているという意識はゼロではありませんが、映画祭として海外に発信できているかというと、そうではないですね。今後の課題だと思います。

──本映画祭に多大な功績のある品田雄吉さんが昨年お亡くなりになりましたが、思い出などはありますか?

澤田:品田先生はメインストリームの方で、僕はマイノリティー。好きな評論家で、以前は遠くから見ているだけでした。映画祭が復活するきっかけとなった「応援映画祭」では、なぜここまでやるんだろうっていう気持でした。配給さんに声をかけていただき、普通では出さないような映画をラインアップできて……。とてもすごい方なのに、本当に威張らない。いつも「僕なんてたいした男じゃない」って仰るんですよ。本当はすごい方なのに。そういうところが、高倉健さんに相通ずるダンディズムがありました。品田先生が、この映画祭を継続させたといっても過言ではないですよ。

(text&photo:磯部正和)

澤田直矢
澤田直矢
さわだ・なおや

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭フェスティバルディレクター。