10代のころ、園子温監督の撮影スタッフに加わり映画界に入る。その後、西村喜廣の下で映像制作を学ぶとともに、グラビアアイドルや女優としても活動。自身の実体験をもとに初監督を務めた『ら』が2015年3月7日に公開を迎える。
連続少女暴行拉致事件の被害者としての実体験を映画化した『ら』が公開を迎える。メガホンを取ったのはグラビアアイドルや女優としても活躍している水井真希。
被害者というセンシティブな立場の彼女が、なぜ自らの体験を映像化したのか。「特別隠すような事柄ではない」とキッパリと発言した水井監督にその真意を聞いた。
水井:小さい頃から将来の夢は、文章を書く仕事をしたいと思っていたんです。事件があったときも、日記を書いていたのですが、いつか、こうした体験を発表することもあるのかなとは思っていました。その後、私は映画を作る仕事に携わるようになっていて、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に監督作を応募しようと思いました。ゾンビものを作ろうかとも思ったのですが、時間と予算を考えたとき、私が経験した題材ならすぐに台本が書けると思ったんです。
水井:拉致されたことって私に落ち度があったわけではないんです。交通事故あったことと同じ感覚で、自分は被害を受けたほうなので、隠すようなことではないという考えです。これって恥ずべきことなんですかね?
水井:親にはプロデューサーの西村(喜廣)さんのアシスタントをしていることは話していますが、映画を撮ったりとか脚本を書いていることなどは詳しく話していないんです。だから知らないと思います。それに私は学生時代からの友だちは現在お付き合いがないので……。いま周りにいる人たちは映画関係者なので、反対とかはなかったですね。
水井:私は事件の後、心療内科に行ったんですね。結局はPTSD(心的外傷後ストレス障害)という診断を受けたのですが、私の体験したことを話しても、最初はお医者さんが信じてくれなかったんです。「という妄想でしょ?」みたいな。“拉致”とか言うと北朝鮮とかを思い浮かべることが多いのかもしれませんが、案外、道を歩いていても連れ去られることって、人が思っているより多いことなんですよってことを言いたかったんです。
水井:女性は分かっていると思います。「電車で痴漢にあわないように気を付けてね」と言ったところで、女の人は普通に電車通勤をしていたら、1回や2回は痴漢にあった経験はあると思う。案外気づいていないのは男性。痴漢の場合「お尻触られたぐらいでそんな大騒ぎすることじゃなくね」って思うかもしれませんが、お尻を触るという事実ではなくて「赤の他人のお尻を触っても問題ないでしょ」って思っているメンタリティがむかつくんです。
水井:一番訴えたかったのは、あなたは何も悪くないというメッセージなんです。自己弁護ですね。「自分を肯定するために撮ったの?」と言われればそれまでなんですが、被害者は何も悪くない、悪いのは犯罪者なんだよって証明するための映画でもあるんです。犯罪はダメだよっていう……。
水井:事件から10年たったお陰か、電車の中で突然、当時のことを思い出して過呼吸になったりというのはなくなりました。だけど他の被害者の方がどうしているかは分かりません。
水井:残念ながら、この作品を撮ったことにより変わったことはないですね。ただ、今回の映画によって、こうして自分の体験を語らせてもらう機会が増えるというのは、より客観的に自分の過去と向き合えるようになっていくのかなとは思っています。
水井:よく「男の人が苦手?」って聞かれるのですが、苦手というよりは嫌いなのだと思います。その理由は、この事件があったからなのか、そうでないのかは分かりません。というのも、私は犯罪にあったのは1回だけじゃなくて、これまで何度もあったんです。だからといってレズビアンではなく、普通に恋愛するなら男の人を好きになると思いますけれどね(笑)。
水井:よくツイッターとかで、「性犯罪はダメって言っているくせに、お前は水着姿だったりエロイ写真載せているのはなぜだ」って言われることがあるんです。でもそれって合法的なエロと、犯罪のエロとの区別がついていないと思うんです。性犯罪はダメですが、別にセクシーなものや、エッチなものは悪いことではないですよね。
水井:そこまで考えていないです(笑)。私自身も合法的なエロは嫌いじゃないですし。人間ってそんなものじゃないですか?
水井:金子修介監督の『生贄のジレンマ』に出演していて、そのイベントでプロデューサーの西村さんが「この子はどう?」って写真を送ってくれたんです。見た瞬間に気に入りました。演技も上手ですし、私のことをよく知っている人から「加弥乃が水井に見える瞬間があったよ」って言ってもらったんです。あ、間違ってなかったなって思いました。
水井:楽しくない映画は意味がないと思うので、私自身が拉致されたことをベースに作品を作っていますが、普通の映画としても楽しめるように意識しました。性犯罪はダメというメッセージと共に、面白い作品を作ろうということも意識しました。
(text&photo:磯部正和)
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