『ソロモンの偽証 前篇・事件』藤野涼子インタビュー

中学生にしてこの落ち着き! 1万人のオーディションを勝ち抜いた主演女優のすごさに迫る

#藤野涼子

オーディション最中は、とにかく次につながるために何かを得よう得ようと必死でした

ベストセラー作家、宮部みゆきの最高傑作との呼び声高いミステリー巨編を『八日目の蝉』の成島出監督が映画化した『ソロモンの偽証』。2部作として公開される本作の「前篇・事件」が3月7日公開になる。(「後篇・裁判」は4月11日公開)

ある男子生徒の死をきっかけに巻き起こる混乱と、重ねられる嘘の数々。真実を求めて、校内裁判を行う中学生たちは、1万人の応募者の中から選ばれ、裁判を提案する主人公・藤野涼子役には、本格的な演技は初挑戦となる2000年生まれの少女が選ばれた。役名と同じ「藤野涼子」としてデビューする彼女が、オーディション、撮影の感想に始まり、渋い趣味も聞かせてくれた。

藤野涼子

──「藤野涼子」に決まったと聞いたときの第一声を教えてください。

藤野:何もしゃべれなかったですね。やっぱり最初は頭が真っ白になって何が起こっているのか分らなかったので。ただ、伝えてくれた父が落ち着いていたので、意外と私も「そうか、主役かぁ」という感じで、割と落ち着いて受け止めることができました。

藤野涼子

──オーディションから撮影終了まで約1年間かかったとか。最初は役柄を限定しないで参加されていたそうですが、途中で藤野涼子役へのオーディションだと決まっていったのでしょうか。

藤野:いえ、全く最後まで、誰がどの役柄になるか分からない状況でした。不安はありましたが、オーディションの間にワークショップを受けて、そこで得たものが大きかったですし、とにかく次につながるために何かを得よう得ようと必死でした。

──ワークショップを含め、今回のオーディションで印象深かったことは?

藤野:「あなたは神原君の役をやってね」という感じに、男の子の役もやったりするんです。男女が違っても、いろんな役をやることで、それぞれの役柄の感情を分かっていなければいけないんだなと感じました。

──成島監督からは、原作に対するアドバイスはありましたか? 原作は読んでほしい、あるいは逆に、あえて読まないでなど……。

藤野:クランクイン前に単行本の2巻までを読んでいて、裁判が描かれる最後の3巻は読んでいなかったんです。撮影中に読もうと思っていたんですが、映画の藤野涼子と原作の藤野涼子では、感情も違ってくるものだから、撮影をやっている期間は、原作は読まずに、終わってから原作を読んでくださいと言われました。

『ソロモンの偽証』は私の原点だから、芸名を藤野涼子に
藤野涼子
──映画の藤野涼子は原作よりも弱さや心の葛藤が見える気がしました。演じるにあたって、どんなことを大切にされましたか?

藤野:映画で朝から晩までの涼子を追うわけではありませんが、シーンとシーンの間、たとえば前日の涼子は家のお風呂で泣いていたかもしれないし、夜も寝られずにずっと遅くまで起きて泣き通しだったかもしれない。そうした本編では描かれない、シーンとシーンの間の涼子についても細かく考えていました。

──脚本の外での涼子の生活や感情についても考えていたんですね! 今回、配役決定後、クランクインまでに入念なリハーサルを重ね、カメラテストもあったそうですが、実際に本番のカメラの前に立ったときは?

藤野:緊張しました。最初のシーンは、野田君(前田航基)と学校に行くシーンだったのですが、このお仕事に慣れている野田君も緊張しているのが分かりました。もちろん私よりはすごくしっかりしていましたが。オーディションやリハーサルでも大勢の方の中でお芝居をしましたが、本番ではその倍以上の人たちがいる中で芝居をしなければならなかったので、緊張してセリフが棒読みになってしまいました。すごく時間をかけていただくことになってしまい、申し訳なかったです。

──しかし本編を見る限りでは、とても本格的な演技が初めてとは思えない堂々とした演技でした。最初は緊張したということですが、やはり入念なリハーサルを重ねたこともあって、一度スイッチが入ったら、役になりきることができたのでしょうか。

藤野:監督にプライベートでも常に涼子でいなさいと言われていたので、そのときは自分が涼子なのか、演技しているのか分らない状態でした。だからオンオフの切り替えはなかったです。切り替えていたら、涼子のことを深く考えられなかったと思うので、ずっと涼子でいられてよかったのだと思います。

『ソロモンの偽証 前篇・事件』
(C) 2015「ソロモンの偽証」製作委員会
──女優デビューにあたって芸名が藤野涼子になったのも、自然な流れだったのでしょうか。

藤野:本名でいくかどうするか迷いました。でも『ソロモンの偽証』は私の原点ですし、この作品で得た、感じた初心を忘れたくないので、藤野涼子という名前をいただくことにしました。

──藤野さんと呼ばれることにはもう慣れましたか?

藤野:撮影の2カ月前からリハーサルを重ねていたのですが、監督からみんなに役名で呼び合いなさいと指示がありました。スタッフさんからも役名で呼ばれていたので、違和感はないです。逆に学校に涼子という子がいるんですけど、その子が呼ばれると「はい」って私が振りむいちゃうぐらいです(笑)。

──本編では泣く演技が多いです。その点で苦労はありませんでしたか?

藤野:実は泣いて欲しいと言われてないところもあるんです。私が自分で泣いちゃって。自然と涙が出てきちゃったんですよね。なので、後篇の裁判のシーンでも、涼子は人前では泣かないタイプだから泣いちゃいけないって思っていたんですが、結構泣いてしまって。悔しい思いもありましたが、それでOKになって使われた箇所がいくつもあります。

──泣くことが難しかったのではなく、泣くのを止められなかったというのはすごいですね。前篇の中から特にお気に入りのシーンを教えてください。

藤野:樹理ちゃんが大出くんにいじめられているシーンがあって、それを私も目撃していて柏木君に会うんですけど、そこでの一連のシーンは大変でもありましたが、いいシーンになっていると思います。

趣味は、寺巡りに温泉巡り。よく渋いと言われます(笑)
──作品を撮り終えてみて、演技をすることは楽しかったですか?

藤野:すごく楽しかったです。なので、撮影が終わって受験勉強をずっとしている間も、早く演技をしたいなーと思うときが度々ありました。

──世界的なバンドのU2が主題歌を務めることも話題ですが、藤野さんご自身がいま、好きなアーティストは誰ですか?
藤野涼子

藤野:今の音楽も好きですが、最近よく聴いているのはビートルズです。どこがどうとか、曲を具体的に挙げて説明はできないんですけど、でもいいなぁ〜と思います。

──実生活でハマっていることはありますか?

藤野:読書と映画鑑賞です。昨日は『幸福の黄色いハンカチ』と『スタンド・バイ・ミー』を見ました。

──それは女優としてやっていくための勉強として見ているのですか? それとも純粋に映画が好きだから?

藤野川:両方ですね。

──読書や映画鑑賞以外には?

藤野:まだ高校受験が終わったばかりで何もできてないんですけど、ハーブを作りたいと思っています。もともと紅茶が好きなんですけど、監督もハーブが好きで、一緒にお茶を飲みに行ったときに、いいハーブのあるところを教えてくれて。それでハーブの栽培に興味を持ちました。あとは寺巡りとか、温泉巡りとか。お寺に関しては、歴史の勉強をしているときに面白そうだなと思って。いろんなところに行ってみたいと思っています。

藤野涼子
──全体的に渋いですね。

藤野:そうですね、よく言われます(笑)。温泉に関しては柏木君も好きらしくて、こういう温泉あるよとオススメしてくれました。

──本編での涼子はクラス委員もしていて優等生ですが、ご自身はどんなタイプですか?

藤野:中心に立つタイプではありませんでしたけど、結構活発で人と喋ることが好きな明るいタイプでした。いまもタイプ的にはそれほど違わないと思いますが、でも、久しぶりに学校に行ったときには、みんなにすごく変わったねと言われました。

──大人っぽくなったとか?

藤野:具体的にどう変わったとは言われないんですが、でも何か変わったねと言われます。

──最後に本作を楽しみにしている方たちにメッセージをお願いします。

藤野:いろんなキャラクターが登場するので、きっとみなさんも共感できる人がいると思います。その人と一緒になって映画に参加しながら見てもらえたら光栄です。あとは、とてもおもしろい作品なので、1秒も瞬きせずに見てください!(笑)

(text&photo:望月ふみ)

藤野涼子
藤野涼子
ふじの・りょうこ

2000年生まれ。神奈川県出身。本格的な演技は本作が初。本作でのデビューをきっかけに役名である「藤野涼子」としてデビューを果たす。

藤野涼子
ソロモンの偽証 前篇・事件
3月7日より公開
[監督]成島出
[脚本]真辺克
[原作]宮部みゆき
[出演]藤野涼子、板垣瑞生、石井杏奈、清水尋也、富田望生、前田航基、望月歩、西畑澪花、若林時英、西村成忠、加藤幹夫、石川新太、佐々木蔵之介、夏川結衣、永作博美、黒木華、 田畑智子、松重豊、小日向文世、尾野真千子
[DATA]2015年/日本/松竹

(C) 2015「ソロモンの偽証」製作委員会