1975年9月30日生まれ、フランスのパリ出身。舞台俳優である両親の影響を受けて子どもの頃から舞台に立ち、オルレアンの演劇学校を首席で卒業。ジャン・ピエール・ジュネ監督の『ロング・エンゲージメント』(04年)でセザール賞助演女優賞受賞。10年にはフランス文化を豊かにした貢献に対し、フランス芸術文化勲章を授与された。『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』(07年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞。代表作は、『TAXI』シリーズ(98年〜03年)、『ビッグ・フィッシュ』(03年)、『パブリック・エネミーズ』(09年)、『インセプション』(10年)、『ミッドナイト・イン・パリ』(11年)、『ダークナイト・ライジング』(12年)、『君と歩く世界』(12年)など。
過酷な現実を抱える名もなき人々の姿をリアルにすくい取ってきたジャン=ピエール&リュックのダルデンヌ兄弟監督。彼らが今回の主人公としたのは、仕事の解雇を言い渡された女性。生活を維持するために解雇を回避するためには、週明けまでに16人の同僚にボーナスを諦めてもらうことが必要だ。主人公は、週末、勇気を振り絞って同僚の家を次々と訪ねるが……。
自分以上に過酷な生活を送る同僚たちを前にくじけそうになりながらも、仕事を続けるために説得に回る主人公を演じたのは、フランス人のオスカー女優マリオン・コティヤール。ボーナスか同僚か──究極の選択を迫る本作について、コティヤールが語った。
コティヤール:『君と歩く世界』の撮影の際にすれ違いました。エレベーターでの短い出会いでした。それはとても印象的でした。というのも私は彼らをずっと素晴らしいと思っていたのです。『君と歩く世界』公開の数ヵ月後、エージェントが電話してきて、リュックとジャン=ピエールが私に映画企画を提示していると聞きました。そのときの驚きと言ったら! 私にとって彼らと撮影をするということは、到底叶わない夢だと思っていました。
女優として得た様々な経験で、私の視野はかつては想像もできなかったほど広がりました。しかしダルデンヌ兄弟は、想像しがたい領域の人たちなのです。既に映画業界でかなりの経験を持っている俳優を使うことは彼らの習慣にないことです。
コティヤール:それぞれの映画で、彼らは社会の現実を観察しています。そして同時に、映画の新たな冒険を発明しているのです。彼らの映画は作家の映画です。リュックとジャン=ピエール以上に作家であることなど不可能です! 彼らはあらゆるカテゴリーを逸脱することに成功しています。彼らの映画は絶対的に普遍的なのです。
コティヤール:最初の面接のときは興奮してしまって!自分を保つのに精いっぱいだったのですが、それでもどうしても口数が多くなってしまいました。協力してくれないかと言われて内心動揺してしまって、そう彼らに言いました。
コティヤール:普通の女性だと思います。選択の余地がないだけに、物事の価値が分かっている1人の労働者です。彼女は、自分を雇っておく方に投票するより千ユーロのボーナスを選ぶ人たちの気持ちが分かっています。彼女が彼らの立場だったらどうしていたかは誰にも分からないし、映画はどの登場人物も裁いてはいない。それが彼女の強さなのです。
コティヤール:彼女の奥底には無力感が棲みついていますが、それは自分の仕事と、仕事がない事と折り合いをつけることができない多くの人の心にも棲みついているのです。撮影の数ヵ月前、仕事に苦しみ自殺してしまった人の記事やルポルタージュを読んでとても心を痛めました。彼らはこの無力感に耐えるより、それにけりをつける方を選んだのです。この映画は、私の心に強く訴えかけてきたこうした出来事を反映しています。
コティヤール:事前に1ヵ月間リハーサルをしました。とても重要な作業です。位置を決め、登場人物たちの気持ちや場面のリズムを探るのです。これはダルデンヌ兄弟が長廻しで撮るだけに、複雑で重要な作業になります。私は私でフランスなまりを取らなくてはなりませんでした。わざとらしいベルギーなまりでは、映画の邪魔になってしまいます。リハーサルのおかげでベルギーの環境になじむことができました。
コティヤール:リハーサルでおおむね固まっているので、リュックとジャン=ピエールは現場では何より俳優の演技に集中しています。現場で彼らは全面的な関与を要求してきますし、それは比類なく、卓越しています。非常に細部にこだわるので、何度も繰り返すことができるのです。このおかげで、彼らの作品は真実味に溢れた、強度の高いものになる。もしも250回のテイクを要求されたとしても、私はやったでしょう。うんざりするなんてことはありえない。だって、こんな演出を受けるのは初めてのことでしたから。
コティヤール:私はずっと、このような変化、多様さを夢見て来たのです。こんな風に世界を変えられるなんて、自分は何て幸福なんだろうと感じています。若かった頃の夢が叶ったのです。偉大な映画作家と共に、様々な領域やジャンルを踏破すること、それが夢でした。
コティヤール:ダルデンヌ兄弟はそういった要素をそぎ落とす達人なのです。演じようとするのではなく、そこにいることが大切でした。私は演技に傾きがちなときでも、見る人が私の演技を見るのでなく、登場人物やその心理を感じ取ることができるように心がけました。こういうやり方を好む俳優にとって、ダルデンヌ兄弟ほどふさわしい監督はいないでしょう。
コティヤール:彼らが望むなら! シナリオを渡してくれるにも及びません。直ぐにイエスです。
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