1968年2月4日生まれ。京都府出身。『超高速!参勤交代』(14年)で第38回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞を受賞。映画『間宮兄弟』(06年)、『20世紀少年』(08年)や、テレビドラマ『離婚弁護士』(04年/フジテレビ)、「『ハンチョウ〜神南署安積班〜」(09年/TBS)などに出演。17年は『3月のライオン』、『美しい星』などが公開予定。
17年間の友情を経て結婚したダンナとヨメ。まもなくヨメは妊娠するが、幸せもつかの間、がんと診断される。息子を授かったものの、結婚から493日で他界。しかし、悲嘆にくれるダンナの目の前に死んだはずのヨメが現れた。ヨメは、闘病ブログを出版して念願の作家デビューを果たそうとするダンナを叱咤激励するのだが……。
実在の夫婦の闘病ブログを本にした「がんフーフー日記」(小学館刊)を映画化した本作は、悲しい現実に直面した夫婦を描きながらも、優しさとユーモアに満ちた心温まる作品に仕上がっている。夫婦が死を受け入れていく過程をコミカルかつ繊細に演じた佐々木蔵之介と永作博美に、本作の魅力や撮影について話を聞いた。
佐々木:台本を読んだとき、展開がスピーディーで、ただ苦しい、悲しい、絶望だ、というのではなく、希望にあふれて笑って今を生きていく素敵な物語だと思いました。
永作:夫婦のふたりがとっても魅力的で、とってもエネルギーがうごめいていたんです。こんなに笑って泣けて切ないのに、爽快感があるんだろう?と。構成も今までにない形で、どうやって撮るんだろう、と興味を持ちました。
佐々木:一度夫婦役で共演させていただいているほか、いろいろ仕事させていただいているんですけど、リーダーでありパワフルなヨメ役にはぴったりだと思いました。実際に現場でも永作さんに引っ張っていっていただきました。また、亡霊といいますか、僕の脳内の幻影という感じで永作さんが登場してくるんですが、それがもやっとしているのではなく、しっかりと地に足の着いた質量のある霊(笑)として存在していて、抱きしめてもちゃんとここに在るんです。それが、この映画でのリアリティなんだと思います。
永作:楽しみでしたね。テンポが必要な作品で、ボケとかツッコミもちょこちょこ出てくるので、本当に佐々木さんには助けてもらいました。そこを考え出すとどつぼにはまるからあまり考えないようにしているのですが、それでも私がはまってしまえば、佐々木さんが拾ってくださったので、「ありがとうございます!」と思いながら演じていました。
佐々木:撮影に入るにあたって、監督と永作さんと私の3人で本読みをして、気になるシーンを2回位リハーサルしただけで、後は打ち合わせなどもしなかったのですが、そういうやりとりはすべて脚本に書かれていまして、それを生で演じていったという感じがしますね。
永作:そうですね。テンポがいいのはもちろんですが、17年間というふたりの関係性を表すうえで、ふたりの時間が独特のものでなくてはいけないというのがあったので、テンポがいいようで意外と時間を使っているシーンもありますね。(新居で)ふたりで本を整理しながらどれを捨てる捨てないと言っているシーンは、テンポよく見えますが、私は意外とゆったりと演じたつもりなんです。そういう意味で独特な時間がいろんなところに表れているなと思いますね。
佐々木:この映画の醍醐味は、そこだと思います。昔の自分たちを現在の僕たちが見ている。といってもヨメは死んでるんですけど、これが同時に同じ空間にいるというわけですね。客観性があって、だからこそあのとき言えなかったこと、あのとき思ったことが今ここで現実に見ることができるし、それに対してつっこんで笑うこともできるし、切なく思うこともできるんですね。撮影順序としては、まず昔を撮って、その後、グリーンバックで現在を撮って合成しました。そのように撮影していただいたことで、客観的に見ることができました。
佐々木:原作の清水さんとは撮影期間中にはお会いしていません。一度、ヨメとダンナの結婚式のシーンにいらっしゃって、僕たちもそのことは聞いてはいたのですが、撮影中なのであえて声はかけない、とお心遣いをいただきました。実際にお会いしたのは、初号試写だったかな、トイレに入ったら「あ、あの私が」と声をかけられまして、「あ、はじめまして」と(笑)。
実際にどう演じるか考えたときは、ただただヨメを愛していて救ってあげたいという思い、ヨメと一緒に残した息子のペ〜を大切に育てていきたいという思い、それだけを揺らぎないように演じようと思いました。
永作:清水さんがこの作品をご自分の手から離れた状態で私たちに託してくださっていると思いましたし、ブログや脚本に描かれているヨメのキャラクターからも誰も悲しませようとしていないエネルギーを強く感じたんですね。ですから、勢いがあって思わず笑っちゃうような作品になればいいな、と思いました。それができたらヨメも天国で笑ってくれるんじゃないかな、という思いでしたね。
佐々木:正直、僕は結果を述べれば考えていなかったと思います。四十九日に実家に帰ってきたとき、ヨメが座布団の上でハンバーガーを食べていて、そのときは別に何も言わずにこっち(現実)の会話をしていますが、次のシーンでは「これが本になるんだよ、すげーよ」みたいな話を(幻影の)ヨメとしている。このとき、僕はヨメが幻影だとか幽霊だとかって疑ってないんですよね。疑いがないくらい強く存在しているし、思いが強いからこそ質感を持って存在している。実際、永作さんが演じていらっしゃるわけですし(笑)。
永作:そうですね、私も意識はしていなかったですね。意外とそれって役者が意識するところではなくて、効果や演出方法でやってもらうほうがバランスよくなると私は思っています。台本の時点で、リアルがあってそれを俯瞰で見ているふたりがいる、というだけでファンタジーは成り立ってますし、いないはずの人間がしっかり立っているということが“嘘か真か”になっていますから。そんななかで私はヨメを演じるにあたって、“絶対死なないな、コイツ”みたいな幽霊になれたらいいな、と思いながら演じていました。それくらいパワーのある作品ですから、あまりファンタジー意識はなかったですね。
佐々木:ヨメはあまり弱さを見せないのですが、やっぱり別れるのが悲しいし、いなくなるのが怖い、というシーンですね。ダンナはたいしたことも言えませんが、それが精いっぱいかもしれない。でも、その後でバカな話をまたしているところがいいんですよね、それが日常を過ごすってことなんだと思います。
永作:毎回質問されるたびに印象に残ったシーンが変わっていくのも不思議なんですけど、それくらいどのシーンも残っているというか。さっき妙に思い出したのは、冒頭のほうなんですけど、ダンナの魅力に気づいた瞬間があるんです。「この人、なに? 私と同じこと考えてる? えー?」みたいなシーンで、“始まったな”と(笑)。
永作:はい、お酒の場でダンナが自分のアイデンティティをばーっと話し出すんですけど、それで“初めてヨメ、ダンナを認める”みたいな(笑)。でも、その後、何もなく17年間過ぎるんですよね。あれを今ちょっと思い出しました。
佐々木:うーん、心がけていないですねぇ(笑)。
永作:いやあ、もう、みなさんそうですが、親からもらった全てをを駆使して頑張っていらっしゃると思うんですけど(笑)。私もちょっと年齢的に体調は気にしようかな、と思っていますね。
(text&photo=秋山恵子)
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