1965年11月22日生まれ、デンマーク・コペンハーゲン出身。体操、バレエダンサーを経て、演劇を学び俳優の道に進む。1997年、ニコラス・ウィンディング・レフン監督『プッシャー』で映画デビュー。レフン監督とはその後、『ブリーダー』(99年/未公開)『プッシャー2』(04年/未公開)『ヴァルハラ・ライジング』(09年)でも組む。スサンネ・ビア監督の『しあわせな孤独』(02年)、『アフター・ウェディング』(06年)を経て、『007/カジノ・ロワイヤル』(06年)のル・シッフル役で人気を博す。『キング・アーサー』でハリウッドに進出して国際的に活躍、トマス・ヴィンターベア監督の『偽りなき者』(12年)でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。2013年からテレビシリーズ『ハンニバル』で主人公ハンニバル・レクターを演じ、さらにファン層を広げ、2016年には『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』にも出演。
『007/カジノ・ロワイヤル』やカンヌ国際映画祭主演男優賞に輝いた『偽りなき者』などで活躍し、日本でも放送中のテレビシリーズ『ハンニバル』のレクター役で人気を不動のものにした“北欧の至宝”マッツ・ミケルセン。
最新主演作の『悪党に粛清を』は母国のデンマーク映画ながら、アメリカが舞台のウエスタン・ノワールという異色作だ。兄と2人でアメリカへ渡った元兵士が、数年を経てようやく合流したばかりの妻子を無惨に殺され、復讐に立ち上がる。本作を引っさげて初来日したミケルセンに話を聞いた。
ミケルセン:こんな機会が訪れるとは思ってもいなかった。アメリカでは(こういう役は)アメリカ英語を話すものだけど、僕の英語はそうじゃないからね。だから、アメリカが舞台の西部劇で主役をつとめるいいチャンスだったよ。役としても興味深い人物だった。結果的に彼はヒーローになるけれど、彼自身にそんなつもりはなかった。普通の男が、ヒーローにならざるを得ない状況に追い込まれる。古典的な英雄ではない点を楽しんで演じた。
ミケルセン:西部劇は伝統的に台詞が少ない。古い西部劇を見れば、顔の表情がすべてなのがわかる。チャールズ・ブロンソンとか、力強い顔だ。西部劇には目で語る伝統があり、僕らもこの映画でその伝統を目指した。
ミケルセン:たぶん。でも自分ではあまり意識しないんだ。ただ、映画というメディアはとてもパワフルで、些細なことまで全部とらえることができる。だから、大げさにする必要はないんだ。俳優が演じるキャラクターとして何かを感じたら、それは観客に伝わる。僕は以前からそう強く信じている。だから俳優は内面的に正直でなければならないし、それを観客がキャッチしてくれればうれしい。いつもそうとは限らないけど、大抵はそういうものだよ。
ミケルセン:少し前から乗馬をしたし、銃の扱い方も訓練した。でも、大した準備はしなかったね。馬に乗るのも、銃を撃つのも、今まで何度も演じてきたし。ワークアウトもやり過ぎることはなかった。僕が演じたのはスーパーヒーローじゃない。ただのハンターだ。
ミケルセン:鍛錬を必要とするわけじゃないが、楽しみとして身体は動かしている。スポーツが大好きなんだ。テニスもやるし、自転車にもよく乗る。ハンドボール、バスケットボール……球技は何でも好きだ。楽しいからやる。それだけだ。役のために必要なトレーニングをすることもあるが、そういうのは本当につまらない。僕は新陳代謝がすごくよくて、太りにくい体質だから、身体を大きくするのはうまくいった試しがない。でも『ハルク』を演じるわけじゃないから、構わないんだ。
ミケルセン:いや。大体同じだ。以前にできたことなら、今でも大概できる。ただ、怪我をすると治るのに時間がかかるようになってきた。昔は2日で治ったのが、今は2週間、2ヵ月かかることもある。フェアじゃない。いやだね(笑)。
ミケルセン:素晴らしかったよ。スタッフは皆プロフェッショナルで、風景も我々が望んだ通りのものだった。同時に、とてもシュールでもあった。南アフリカでデンマーク人たちがアメリカの西部劇を撮っているんだからね。みんなカウボーイの格好をしていて、スタッフたちはスワヒリ語やアフリカーンス語を話している。辺りにはキリンやシマウマがいるし(笑)。
ミケルセン:サルヴェーションという言葉には皮肉が込められている。実際、主人公に救いはほとんどない。復讐に向かうなら、自分自身を変える心構えが必要だ。もう元の自分には戻れないからね。ある一線を超えることで、かつて持っていた人間性を失うことになるかもしれない。だから、皮肉なトーンを込めたタイトルだと思う。
ミケルセン:そう。ある公演でダンサーのバックで宙返りをする役を頼まれて、その振り付け師からバレエをやってみないかと誘われたんだ。ほかにすることはなかったし、教室には可愛い女の子たちが大勢いて、男は1人もいなかったから(笑)。その後、自分が好きなのはバレエの動きよりもドラマの部分だと気づいた。そこで演劇学校に通うことにしたのが始まりだよ。
ミケルセン:実は当時のデンマーク映画について、僕自身があまりハッピーではなかったんだ。とても芝居がかっているというか、登場人物がリアルに見えなかった。だから、自分流に台詞を言ってみたりしたんだけど、誰も僕が何を言っているのかわからなかった。だから、僕の方にも少し歩み寄る必要はあった。でも、僕らが映画をやり始めた頃、デンマーク映画にはリアルなものがもたらされるようになった。これは僕の目指したものの1つだ。
ミケルセン:本当のところ、ドグマはあんまり僕の好みじゃなかった。ドグマ作品に出たのも後年、スサンネ・ビアの作品(『しあわせな孤独』)1本だ。僕は『プッシャー』(ニコラス・ウィディング・レフン監督)に出たけれど、これはドグマ以前の作品だ。とても画面が暗いのはライトがなかったから。セットがないのはお金がなかったから。ドグマにいろいろ決まり事があるのは結構だが、いい映画を作るためにはそのルールを破ることも大切だと僕は思っている。だから僕はドグマ95を信奉してはいなかったね。大切なのは、リアルなものをできるだけリアルにフィルムに収めること。そのためにルールは必要ない。
ミケルセン:ありがとう。Effortlessは僕が大切にしているキーワードの1つだ。とても難しそうに物事を見せようとする人がいるけれど、僕にはその意味がわからない。サーカスの曲芸じゃないんだから。観客はリラックスして、演じているのが誰かも忘れて、ストーリーに没頭するべきなんだ。画面を見ている彼らに『うまく演じてるな。きっと大変だっただろう』と想像させては駄目だ。そんなことを忘れてもらえたら、僕らのミッションは成功。そうでなければ失敗だ。
ミケルセン:僕はある程度、克服した。今までいろいろな国の言葉で演じたけれど、どれも自分の言語になることはない。英語は僕にとって第二言語で、話すのにも苦労はしないけれど、子どもの頃から話していたわけじゃない。だから、少し遅れが生じるし、自分の表現ではないことがある。アメリカやイギリスで過ごす時間が長くなると、よりうまくなるけれど。
デンマーク映画の場合、海外で見てもらえる機会があったので、僕らはラッキーだった。国際的に活動したいなら、ほかの国の場合も同じことが言えると思う。まずは自国での環境を整えて、面白いものを作れば、路は開けるはずだ。言葉の壁は常に存在するけれど、状況を反転させて問題を有利な点に変えることだね。障害ではなく自分たちの個性、トレードマークにすればいい。
ミケルセン:いや。較べることができないんだ。現在進行形の僕の人生だから。比較するために他の人生が10個あるわけでもないし。アメリカで仕事をすることがなければ、仕事に対するアプローチが変わったかどうかもわからない。何がどうして、だからこうなった、と答えるのは難しいね。映画をやる時に重要視するのは脚本と監督。これは昔も今も変わらないと思う。といっても、仕事仲間からは『あいつは完全に変わった』と言われるかもしれないし。わからないね(笑)。
(text:冨永由紀/photo:中村好伸)
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