1976年4月1日生まれ、イギリスのオックスフォード出身。 ロンドン音楽演劇アカデミー(LAMDA)を優秀な成績で卒業、インディペンデント映画からハリウッド映画まで様々なプロジェクトに参加している。主な出演作に、フォレスト・ウィテカーのアカデミー賞受賞作『ラストキング・オブ・スコットランド』(06年)、ジェームズ・フランコ主演作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11年)、アカデミー賞作品賞ノミネート作『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(11年)、スティーヴン・スピルバーグ監督作『リンカーン』(12年)、リー・ダニエルズ監督作『大統領の執事の涙』(13年)、クリストファー・ノーラン監督作『インターステラー』(14年)などがある。本作のキング牧師役で、ゴールデン・グローブ賞など多くの映画賞で主演男優賞にノミネートされた他、アフリカン・アメリカン映画批評家協会賞、セントラルオハイオ映画批評家協会賞などで同賞を受賞。
公民権運動の指導者としてノーベル平和賞を受賞するも、39歳の若さで暗殺されたキング牧師。政府やFBIによる妨害、白人至上主義者による家族の殺害予告にさらされ、苦悩しながらも自由と平等を願い続けた彼の物語を、映画史上初めて長編映画として描いたのが、『グローリー/明日への行進』だ。
黒人の選挙権を求めデモ行進をしていた人々を警官隊が暴力で弾圧した「血の日曜日事件」をきっかけに、2万5000人もの人々を巻き込み歴史的大行進へと至る過程を主軸に、キング牧師が、指導者として、そして1人の父親として葛藤する様子が綴られていく。
キング牧師を演じたイギリス人俳優デヴィッド・オイェロウォに、本作の見どころや、偉人を演じたことへの思いなどを語ってもらった。
オイェロウォ:脚本を初めて読んだのは2007年だった。読んで分かったことは、僕はいずれこの役を演じるだろうということ。同じ思いを抱いた監督が現れたのは、それから3年経った頃だ。そして実際に撮影できたのは、それからさらに4年後だったから、通算7年の旅だったよ。しかしその7年間という期間があったからこそ、キング牧師と、この運動、そしてアメリカの歴史を研究することができた。
オイェロウォ:監督に彼女をすすめたのは僕で、他の作品で一緒に仕事をし、天才だと思ったんだ。ストーリーを操る才能があり、人をぞくぞくさせる手法を持っている。そして彼女の家族はラウンズ郡という、まさにセルマとモンゴメリーのあいだに位置する土地の出身だ。だから彼女はちょうどこの史実を知っていて、その歴史は彼女のDNAに刻み込まれている。
オイェロウォ:この公民権運動のさなかにあっても女性は軽視されていた。女性も同じように才能があり、不平等に同じように強く関心を寄せていたのにだ。しかし当時は、平等な権利を求めて戦っていても、あの地方独特の性差別があった。それであの運動には女性の闘士というものが存在しなかったんだ。だから僕はこの物語を語る主導的役割を担うのは黒人の女性が絶対にふさわしいと感じている。
オイェロウォ:この役を演じる機会を得られたことは実に幸せだ。僕がイギリス人で、成長過程でマーティン・ルーサー・キング・Jr.を神聖視しなかったことも役に立っていると思う。彼を1人の男性として、1人の人間として研究できたからね。キング牧師への敬愛の情は、彼のことを研究しているうちに、とてつもなく大きくなったよ。
オイェロウォ:彼は人間らしかった。権利を手に入れたい、責任ある人物になりたい、この運動が成就するまでは自分が何かをもらうことで糾弾されたくないからノーベル賞欲しさに寄付したと思われたくない。そういった精神的負担はかなり重かっただろう。だがそれもすべて彼の性格を表すものだ。僕は彼の性格に感嘆し、この映画にぜひとも参加したいと思った。
オイェロウォ:モンゴメリーでのバス・ボイコット事件の時、キング牧師は26歳だった。その頃からすでに彼は厳粛な雰囲気を漂わせていた。彼が39歳で亡くなったという事実もすぐにはピンと来ない。まだ30代だったということがね。我々が映像や写真で見るキング牧師はどれも30代で、たまに20代の頃のものもある。皆、彼のことを50代だったと思いがちだ。それは彼が醸し出している厳粛な雰囲気のせいだと思う。また、彼が両肩に背負っていたものの重さのせいでそう見えるんだろう。
オイェロウォ:アンドリュー・ヤング国連大使とは、かなり長い時間を一緒に過ごしたよ。彼はキング牧師と非常に近しい仲だった。大使と話していて驚いたのは、キング牧師がいかにユーモアのセンスがあったか、いかにイタズラ好きだったか、笑うことがどれほど好きだったか、そして、2人とも世界を変えているという意識がなかったということだ。2人が不平等という障害にぶち当たっていた頃に、ちょうど歴史がそういう不平等はもう許されないという時期を迎えていたらしい。2人は当時、自分たちのコミュニティーの指導者である牧師として不正を正すのが自分たちの責任だと気づいた。彼らは尊大で平然とした若者だったわけじゃない。むしろ若者らしく手探りでどうにかこうにか問題を1つひとつ片づけていった。ただ、彼らは目の前にある問題から逃げ出さなかったんだ。
オイェロウォ:この映画は、アメリカの基礎を教えてくれる。キング牧師がいなければ、オバマ大統領は確実に存在しなかった。キング牧師がいなければ、この国の投票権はどうなっていただろう。投票権は今また脅かされているが、以前ほどひどい状態にはならないと思う。もし「血の日曜日」がなかったら、もし公民権法の制定後まもなく投票権法が制定されていなかったら、もしケネディ大統領が死んでいなかったら、もしキング牧師が死んでいなかったら、もしロバート・ケネディが死んでいなかったら……これらはすべて60年代に起こった事だ。そして、こういった犠牲のお陰で今日僕たちは自由を享受できているんだと思う。
オイェロウォ:有名なスピーチ「私には夢がある(I Have a Dream)」という一文に信念を集約したキング牧師のようなアメリカ人がいたことを、彼の背景も含め、大勢の若者や年配者に教えたい。キング牧師のことは、もっとみんなが知っておくべきだ。
僕は人間が持つ暴力的な部分、人間性、弱さ、欠点、英雄的資質といったすべてを、声と肉体を使って追及した上で、すべて捨てた。考えないようにしたんだ。長い歳月をかけてこの役に取り組んだのは、キング牧師のモノマネを見せたいからじゃなく、観客に彼の魂を見せたかったからだ。この映画を見た観客に僕の思いが通じれば、僕はこの仕事をまっとうできたことになるね。
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