1955年3月1日、ドイツのシンゲン生まれ。作家、監督、プロデューサーとして30以上のドキュメンタリーに関わり、多くの賞を受賞。初めてのフィクション短編映画『Schwarzfahrer』(黒人の乗客)(93年)が高く評価され、アカデミー賞短編実写賞を受賞。続く『Nach Saison』(97年)では、ベルリン国際映画祭平和映画賞、サンフランシスコ映画祭グランプリ、バリャドリッド国際映画祭グランプリを受賞し、脚本家、監督としての国際的名声を獲得する。1999年、スポーツ3部作の1作目『Heimspiel』ではベルリンのアイスホッケーチーム“Eisbären”のストーリーを通じてドイツ統一を描いて興業的な成功を収め、ドイツ映画賞の監督賞を受賞する。2作目の『マイヨ・ジョーヌへの挑戦 ツール・ド・フランス100周年記念大会』(04年)では、プロのサイクリストの苦悩やツール・ド・フランス期間中の社会活動を捉えた。3作目『Am Limit』(07年)はエキストリーム・クライマーのトーマス&アレキサンダー・ハーバーのドキュメンタリー。続編2作も多くの賞を受賞し、バイエルン映画賞、ドイツ映画賞、ヨーロッパ映画賞でベストドキュメンタリーにノミネートされる。2008年にハンブルグ芸術大学の映画教授となったほか、ヨーロピアン・フィルム・アカデミー、LAの映画芸術科学アカデミーのメンバーであり、ドイツ・フィルム・アカデミーの共同創立者で、2011年より取締役をつとめている。
「ポーランド人孤児・ユレク」として戦時下を生き延びた8歳のユダヤ人少年スルリック。父と生き別れ、ナチス・ドイツの手を逃れながら、たった1人で3年間もの月日を生き抜いた少年の実話を映画化した『ふたつの名前を持つ少年』は人間の優しさと残酷さを余すところなく描き、生きる希望と深い感動を与えてくれる。
児童文学作家ウーリー・オルレブによる「走れ、走って逃げろ」を映画化したのは、ドキュメンタリーも多く手がけるドイツ人名匠、ペペ・ダンカート監督。ヨーロッパ各国で高い評価を受けた本作について、ダンカート監督に語ってもらった。
───原作は、児童文学界のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞受賞作家で、自身もユダヤ人として第二次世界大戦中を逃げ延びたウーリー・オルレブの小説ですね。なぜこの作品を映画化しようと思ったんですか??
監督:長い間、脚本を読んだだけで鼓動が早くなるような、パワフルな題材を探していました。単なるよくできたエンターテイメントではなく、史実に即した深い感動を呼ぶ素晴らしい物語であり、新しい視点から語られた物語。あらゆる努力とあらゆる賭けに値する映画となり、見る者の記憶に20年後も残り続ける映画となる題材。ウーリー・オルレブの実話にもとづいた小説「走れ、走って逃げろ」(母袋夏生訳 岩波書店)と出会った時、私はそんな題材を見つけたと確信しました。私はこれを子ども供向けの映画にしたくはありませんでした。子どもから大人まで、誰にとっても素晴らしい映画体験にしたいと考えたのです。
監督:重視したのは少年のアイデンティティーの変化です。彼は生きるためにユダヤ人のアイデンティティーを捨てカトリック教徒になります。本作では少年の数年間に渡る「旅」で起きた出来事が描かれていますが、「自分の本来の故郷はどこなのか」──自分のアイデンティティーとして、家や故郷を捉える時、それが作品のテーマとなります。
監督:1年以上かけて、700人以上の子どもをオーディションしました。ヨーロッパ中を探しましたが、私は映画の登場人物はすべて自国語を話すべきだと考えていますので、必然的に英語圏は対象外になりました。アンジェイを見つけたのは、ワルシャワでのオーディションです。彼は自分が選ばれた後、双子だという秘密を教えてくれました。
それを聞いて、リハーサルに双子のカミルを連れて来てもらったのですが、カミルを見て驚きました。カミルもアンジェイに負けず劣らず才能豊かだったからです。さらに数日後には、2人の性格の違いを悟りました。なぜなら私自身も一卵性双生児で、彼らの年頃の心理が手に取るようにわかるからです。なんという偶然でしょう!
カミルは内向的で、いつでも涙を流すことができ、アンジェイは外交的なファイターで、これまで泣いたことがないような子です。2人を使い分けることで、幅広い感情を表現することができました。カミルが繊細なシーンを、アンジェイがアクティブなシーンを演じたのです。
監督:最初にフリードマンと会ったのは、映画化の権利を買い取って間もない2011年です。彼への最初の質問は、「あなたにあれほどの危害を与えたドイツという国の監督が、あなたの人生を映画化することをどう思いますか」というものでした。彼は、「私は違う世代の者であり、父親の世代が持つ重荷を背負うことはないが、危害を加えた国の人々が、その相手の映画を撮ることになったことに満足感を覚える」と答えました。さらに彼は、「ドイツ人が作るという重荷が、作品を良いものにするだろう。アメリカ人は間違いなく、安っぽい物しか作らないからね」とも言っていましたね。
監督:この映画を見た人は皆、ユレクに感情移入するでしょう。誰もが彼に対して畏怖の念を抱き、尊敬で心を動かされ、彼と共に嘆き悲しむでしょう。初めて原作を読んだ時、私もそうでした。
これは1人の少年の旅の物語です。彼は一夜にして独り立ちし、生き延びる術を身につけなければなりませんが、実際はまだほんの子どもです。これはあらゆる戦争の悲惨さ、残虐さを表した物語であり、それに屈せぬ者たちの、そして自分の命を犠牲にしてでも死の淵にいる人を助ける者たちの話でもあります。私はそんな真に迫った心を打つ物語を、悲観的にならずに語りたいと思いました。
これはスルリック=ユレク=ヨラム・フリードマンの真の強さと、希望と勇気の物語なのです。
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