1940年4月25日生まれ、アメリカ、ニューヨーク市イーストハーレム出身。『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(92年)で、アカデミー賞主演男優賞を受賞。また、ハリウッド外国記者協会よりセシル・B・デミル賞、アメリカン・フィルム・インスティテュートより生涯功労賞が贈られ、2012年にはオバマ大統領より全米芸術勲章が授与されるなど、舞台と映画で独自の活躍を続ける名優。フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(72年)への出演で注目を浴び、『セルピコ』(73年)、『ゴッドファーザーPART II』(74年)、『狼たちの午後』(75年)、『ジャスティス』(79年)、『シー・オブ・ラブ』(89年)、『ヒート』(95)など、45本以上の映画に出演。『リチャードを探して』(96年)では監督業にもトライ。数多くの舞台にも出演し、ブロードウェイ・デビュー作「Does a Tiger Wear a Necktie?」でトニー賞助演男優賞を受賞している。
ビートルズを解散した直後のジョン・レノンが、とある雑誌のインタビュー記事を読み、悩みを吐露した新人ミュージシャンに送った励ましの手紙……。何の面識もない後輩への手紙が、数十年後に本人へと届いたエピソードをもとにした感動作が『Dearダニー 君へのうた』だ。
今年3月に公開されたアメリカでは批評家の高い評価と映画ファンの熱い支持で公開規模が拡大され、興行ランキングベスト10にも食い込んだ。この話題作について、主演のアル・パチーノに語ってもらった。
パチーノ:そうだな、そういう時もあったね。成功や名声に圧倒されそうな時があるんだ。そういったものに自分が変えられてしまうこともある。自分を成功と名声に導いた要素から離れてしまいそうになるんだ。私の場合は、それに気づくことができた。だから私は常に自分のルーツを探し、そこから離れすぎないようにした。それ(私のルーツ)は演劇や芸術だ。常に苦戦していたよ。でも、今になってようやくコツを見つけた……ような気がする。
パチーノ:そう。ジョン・レノンが(主人公の)ダニーに手紙を出したんだ。だが、肝心のダニーに届くことはなかった。必要としていたその時にはね。不思議なことに、その時代のジョンの音楽を聴くと、彼はそれ(手紙が届いていないこと)を悟っていたようなんだ。
ダニーを思いやって書いた手紙なのにね。「会いに来てくれ。僕とヨーコでもてなすし、今後のことも話したい。有名になっても自分を見失わない方法だってあるんだ」という内容だった。当時のダニーにとってジョンは英雄だったから、(受け取っていれば)きっと感銘を受けていたはずだ。
パチーノ:すべては脚本にある。ダン・フォーゲルマン監督の脚本だ。すべては脚本にあるので、そのとおりにやればいい。理解しようとすれば道筋は見えてくるものさ。もし僕の演技を素晴らしいと思うのなら、それはあの脚本のおかげだろう。
パチーノ:大好きな役だよ。自分が演じる役はどんな役でも好きになるべきだが、今回は特に気に入った。なぜなら、彼は若くして音楽の天才と呼ばれた人物だ。だからジョン・レノンからも手紙が来た。しかし、彼はその後、成功を積み重ねることができなかった。そしてそれ以上自分の足跡を残せずにいることにショックを受ける。そこで彼は何をするか? 彼は周囲の人間の考えに影響されやすい人間だ。弱い人間なんだ。だからこそ優れたソングライターになれた。しかし、そういったショックを受けた後の彼は、他のことで生き残ろうとする。ダンスや身体能力を生かした特技などでね。つまり作曲活動から逃げたんだ。しかし、もし“その時”にジョン・レノンからの手紙を読んでいたら、作曲活動を続けていたかもしれない。しかし、実際の彼は他の方法で生き残ることを選んだ。でもそれじゃダメなんだ。3度も結婚したり、元妻の名前を忘れたり、ドラッグに溺れたり……。しかし、彼は気づく。別の人生を歩もう、と。そこが気に入った。
パチーノ:まさに“青天の霹靂”だよ。年を重ねていくと、青天の霹靂なんてことは滅多にない。変えること自体が難しくて決心が要るからね。しかし、65歳の誕生日という奇跡的なタイミングが幸いした。ダニーは言わば人生の過渡期を迎えようとしていた。そこに新たな火種が舞い込んだわけだ新たな生命の息吹を感じた彼は、人生を変えようと決心する。(手紙と同じタイミングで)写真も届くしね。まるで……「センチメンタルになれ」というメッセージが隠されているようだ。面白いだろう?。
パチーノ:ダニーは息子のことをずっと知らなかったんだから、壁があって当然だ。ダニーは恥すら感じていたと思うが、彼はそれでも現状を変えようとしていた。父親として振舞おうとするんだ。不自然ではあるけどね。私も子を持つ親だから分かるが、ずっと子どもに会っていなかったのに、突然、父親面はできない。その壁を壊すのは簡単ではないよ。
パチーノ:トム・ハンクスは素晴らしい役者だ。僕も好きだよ。ファンレターを書いたこともある。僕は、この映画ならトム・ハンクスが演じるような役柄を初めて演じることができると思ったよ。もちろん僕はトム・ハンクスではないけど、いい参考になると思った。ダニーという役柄は、どこか善という面がある。演じていて楽しかったよ。自分の善という面を探すいい機会になったからね。簡単ではなかったが、達成できるとすごく気持ちがいいんだ。それに自分をよりよく理解できるようになる。
パチーノ:信じられるかい? こんな僕を熱望してくれたんだ。どんな役でも、監督が自分を強く推してくれている時は、「やってみるよ」と言うしかない。『ゴッドファーザー』の時もそうだった。監督のフランシスがマイケル・コルレオーネの役に僕を推した。僕のどこがマイケル・コルレオーネに合っていると彼が感じたかは知らないが、決して譲らなかった。僕を含めて誰1人として、僕にあの役を与えたがらなかった。面白いだろう? あれ以来、監督が強く推してくれている場合は、「ゴマンといる役者の中から僕を熱望してくれた。ワケがあるんだろう」と思うようになった。「僕がこの役にピッタリだという理由か何かを見出したのだろう」とね。
パチーノ:私の歌唱? ほとんど歌ってないよ。でも「歌いたいな」とは常に思っていたよ。やっと歌手役を演じられたから、何と言うか……達成感があるよ。自分の歌声がイマイチということも今なら認められる。でも演劇にはずっと出ていたから、心得はある。だから劇中でもそれらしく歌えたと思う。自慢にはならないけどね。
パチーノ:歌手を演じるというのは興味深いものだ。なぜなら、どんなにうまく歌う役者でも、結局は歌手ではない。ある時、パーティーにジーン・シモンズが来て、「Hey, baby doll. What’s going on.」と歌を歌ったんだ。突然歌いだしたんだ。すごいと思ったよ。僕にはできない。だから、僕ら役者は歌手らしさを目指すが、本物の歌手にはなれない。本物の歌手たちは経験を経て本物になっていったんだ。僕ら役者は見せかけにすぎない。
パチーノ:もし何かを感じてくれるならば、人生において何が大事か感じてほしい。家族でもいいし、親しい誰かでもいい。人生では、この映画のように、失いたくないものができる時がある。でも、そこに悲劇的なことが起きる時もあるんだ。そんな時にそばにいてくれる人がいれば、大きな支えとなる。この映画の中でもそんな場面を見つけることができるはずだ。
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