『キングスマン』マシュー・ヴォーン監督インタビュー

ハリウッドへの不満を吐露!? 『キック・アス』監督が語るスパイ映画愛!

#マシュー・ヴォーン

最近のスパイものがやたらシリアスになっていることに不満だった

『キック・アス』のマシュー・ヴォーン監督と、『英国王のスピーチ』『裏切りのサーカス』のコリン・ファースがタッグを組んだノンストップ・スパイアクション『キングスマン』。表の顔はロンドンの高級テーラー、その裏の顔は世界最強のスパイ組織である「キングスマン」のエリートスパイが、地球規模のテロを企てる強敵に立ち向かうクールで楽しい作品だ。

『007』シリーズなどさまざまなスパイ映画にオマージュを捧げる一方、これまでにない斬新なスパイアクションを生み出したヴォーン監督に、作品の見どころなどを語ってもらった。

──本作は、マーク・ミラーのグラフィック・ノベルです。作品になる前からストーリーの構成に関わっているそうですね。どのような経緯でこの作品が生まれたのでしょうか?

監督:マーク・ミラーも私も最近のスパイものがやたらシリアスになっていることに不満だったんだ。我々は『007』シリーズや『電撃フリント・アタック作戦』、テレビシリーズ『おしゃれ(秘)探偵』などを見て育ってきた。どれも軽やかながらしっかり楽しめるスパイもので、とにかく楽しくて想像力あふれる作品だったんだ。
そこで、「現代のスパイ劇を描くならどうするか」という話に発展し、古い世代と新しい世代がミックスるする展開も入れてはどうか、と。そうやって『キングスマン』が生まれたんだ。

撮影中の様子

──この作品には様々なスパイ映画へのオマージュがありますね。監督自身も思い入れがあるのでしょうか?

監督:おっしゃる通り、この映画は様々なスパイ映画の影響を多分に受けている。いわば、過去のあらゆるスパイ映画へのポストモダニズム的なラブレターだよ。だからといって模倣しただけではないんだ。スパイものの楽しい部分をさらに新しくし、現代の観客に楽しんでもらえるようなものを作っているよ。取り上げているテーマはシリアスなのに、思いっきり楽しくしているところがこの映画の特徴だね。

──キングスマンの組織を、アーサー王の円卓の騎士になぞらえたのはなぜですか?

監督:キングスマンが道義心や礼節の精神に根ざしたものだということを描くのに分かりやすい方法だったんだ。円卓の騎士の伝説なら皆知っているし、伝説を現代化させ、新鮮に感じさせるのにいいモチーフだったんだよ。

『キングスマン』
  9月11日より全国公開中
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation 

──主人公、ハリー・ハートのモデルはいますか?

監督:俳優のデヴィッド・ニーヴン(*)をモデルにしているよ。当時はモダン紳士ともてはやされていた俳優だ。粋だがタフで、チャーミングだがお高くとまっているわけではない。そういう要素が(この作品を作る上でも)大切だったんだ。
*50年代から70年代にかけて人気を博したイギリス人俳優。『007』シリーズの原作者イアン・フレミングがボンド役に最も望んでいた俳優とも言われている。

──強敵となるヴァレンタインはラッパーの容姿をしたIT富豪という設定ですが、モデルはいるのでしょうか?

監督:実在のモデルは特にいないが、あえて挙げるならスティーブ・ジョブズかな。つまり億万長者で、そのブランドと技術が全世界に影響を与えるほどの力を持つ男だ。その男が仮に悪巧みをしようとしたら恐ろしい強敵になるだろう? そういった意味で、スティーブ・ジョブズが一番近い。

ハリウッドは、知名度優先のキャスティングしてミスキャストする傾向にある
──これまでアクション映画の経験が無いコリン・ファースを起用した理由は?

監督:いつもと違う彼を見ることができたら楽しいに違いないと思ったからだ。彼は何ヵ月にも及ぶトレーニングに取り組んでくれたよ。「この役をやるなら必ずトレーニングしなければならない」、そして「撮影に入る前にテストをする」とも言ったんだが、そのテストに見事に合格してくれた。

撮影中の様子

──今回も『キック・アス』のような、観客が夢中になるアクションシーンが満載ですね。

監督:アクションシーンはだいぶ反響がいいようだね。それには理由が2つあると思うんだ。まず、僕はアクションは見せるためだけではなく、そこに必然性がなければならないと思っている。仮に、この映画のアクションシーンをそっくりそのまま他の映画に応用したとしても、キャラクターに共感することもできないし、鬼気迫るものにはならないだろうから、飽きてくるよね。
それと、もうひとつの理由は、格闘シーンのコリオグラフィーとセカンド・ユニットの監督をつとめるブラッドリー・ジェームス・アランが優秀なんだ。ジャッキー・チェンという天才のもとでトレーニングをした人だよ。カンフーなどの要素を入れつつ、西洋化させた振り付けになっているよ。

──新人スパイ候補生を若手注目株のタロン・エガートンが演じていますね。彼は映画初出演ながら大抜擢です。同じく候補生を演じるソフィー・クックソンも大胆な起用ですね。彼ら新鋭を重要な役に起用した理由について教えてください。

監督:タロンをキャスティングしたのは適役だったからというシンプルな理由だ。ソフィーもそうだね。僕は監督の仕事の8割はキャスティングだと思っている。照明、脚本、アクション、衣装、音楽など、その他のすべての要素が完璧だったとしても、ミスキャストだったり、キャスティングした俳優が芝居のできない人物だったりしたら、映画は台無しだ。キャスティングは映画作りの一番大事な要素だよ。タロンとソフィーはまさに探し求めていた2人だった。
ハリウッドは知名度のある役者をキャスティングしたいがために、ミスキャストする傾向にある。当然、上手くいかないよね? 製作陣は「有名なキャストを起用したのになんで上手くいかなかったのか?」と疑問に思うようだが、それは役者の知名度を優先しているからだ。僕はそれぞれの役にちゃんと合った俳優をキャスティングすることを鉄則にしている。それをリスクだという人もいるが、私はそうしないことのほうがリスクだと思うな。

『キングスマン』
  (C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation 

──映画の最後に「母親に捧げる」とありますが、お母様が教えてくれたことで思い出深い教訓があれば教えてください。

監督:難しい質問だね。この質問をされるのは初めてだよ。母はキングスマン精神のすべてを教えてくれた。礼儀についても厳しかったし、この映画を見ていたら「あなたにももう少しハリー・ハートのようなところがあればいいのに。それがお母さんの望みだったのよ」と言われていただろうね。僕が映画監督じゃなくてキングスマンの一員になっていたら喜んだだろうね。

──本作は世界中で大ヒットしています。理由は何だと思いますか?

監督:普遍的なストーリーを描いているからじゃないかな。貧しい育ちの子どもがスパイになる話は希望に満ちた成長物語だし、地球温暖化や人口過密など、誰にとっても他人事ではないテーマを扱っているから。一方、そんな深刻な世界情勢の中、何より楽しい映画だからヒットしていると言えるかもしれないよ。人々は皆、2時間ばかりの現実逃避を望んでいるんじゃないかな。

──映画作りにおいてあなたが特に大切にしていることは何ですか?

監督:いいストーリーを語ることだ。これはジャンル問わず、当てはまることだね。楽しいものであれ、怖いものであれ、おかしいものであれ、ミュージカルであれ、没頭できるようなものを提供することだよ。

──続編について、どんな内容なのか話せる範囲で教えて下さい。

監督:残念ながらまだ話せないよ。いま脚本を執筆しているところだけど、皮算用はしたくないから何も言わないでおくよ。

マシュー・ヴォーン
マシュー・ヴォーン
Matthew Vaughn

1971年3月7日生まれ。イギリスのロンドン出身。ガイ・リッチー監督『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98年)やブラッド・ピット主演の『スナッチ』(00年)のプロデューサーとしてキャリアをスタート。自身の制作会社マーヴ・フィルムズを通し、ダニエル・クレイグ主演の『レイヤー・ケーキ』(04年)で監督としてのデビューを飾り、ロバート・デ・ニーロ、ミシェル・ファイファーが主演した『スターダスト』(07年)を監督。『キック・アス』(10年)では監督、製作、脚本を手がけた。さらに、2011年には『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年)の脚本と監督を、2012年には『キック・アス2』(12年)の脚本と製作を手がけている。