1977年3月24日生まれ、アメリカのカリフォルニア州サクラメント出身。『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(11年)でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、キャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』(12年)でもアカデミー賞にノミネート、ゴールデン・グローブ賞を受賞した。さらに、ジョン・マッデン監督の『女神の見えざる手』(16年)と本作でもゴールデン・グローブ賞にノミネートされるなど、人気と実力をあわせ持つ女優。その他の主な出演作は、テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』(11年)、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14年)、『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(14年)、ギレルモ・デル・トロ監督の『クリムゾン・ピーク』(15年)、リドリー・スコット監督の『オデッセイ』(15年)、『ユダヤ人を救った動物園〜アントニーナが愛した命〜』(17年)など。
1981年、犯罪と暴力がうずまいていたニューヨークを舞台に、ビジネスの現場で経営者が強いられる壮絶な危機を息もつかせぬ緊迫感で描き出した『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』。主人公の経営者アベルを、『インサイド・ルーウィン・ディヴィス 名もなき男の歌』や『スターウォーズ/フォースの覚醒』などに出演し人気急上昇中の実力派俳優オスカー・アイザックが演じ、その妻アナを、アカデミー賞に2度ノミネートされた『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステインが演じている。
生き馬の目を抜くオイル業界で、クリーンなビジネスを信条にオイルカンパニーを築きあげた移民のアベルとその妻アナの物語について、ジェシカ・チャステインに聞いた。
チャステイン:JC(監督)とはカンヌのパーティーで会ったんだけど、JCと奥さん、その他の人たちとでおしゃべりしていたら、彼が「今、こんな映画をやってるんだ!」って(笑)。とても興味を持ったから、脚本を見せてと言ったの。
脚本を読んで、とても気に入った。アベルとアナの関係に心を動かされたわ。2人は心から愛し合っているけど、お互いのやり方には相いれないところがあるというのが、脚本からはっきり分かった。読み終わって、JCと一緒に昼食をとったんだけれど、4時間くらい話してたわ。彼も驚いたと思う。
チャステイン:オスカーは10年以上前からの知り合いよ。一緒に大学に通ってたの。お互いがお互いのファンだし、ずっと友だちだったから彼のことはよく知ってるわ。彼が『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』のオーディションを受けた日は、一緒にディナーをとったわ。タイ料理のレストランで、彼がiPhoneを取り出してオーディションの様子を見せてくれたので、これならあなたに決まりよと私は答えたの。
ただ、すばらしい友だちだけれど共演したことはなかった。アベル役の候補が降りたと聞いたから、私からJCに言ったの。「この役にとてもふさわしい人がいるわ、現役俳優のなかでも最高峰の人よ」と。オスカーはキューバ人とグアテマラ人の血を引いていて、子どもの頃にアメリカに移住したの。作中でアベルがやろうとしているようなアメリカンドリームを実現させた人で、本当にすばらしい俳優よ。この役に隠された心躍る何かが見える人なのよ。
当然だけれど、映画の資金を調達するのは大変だし、独立系映画の場合はプロデューサーが失敗を恐れて大スターを使いたがることがある。それで、実績のある映画スターの起用を考えてると聞いて、こんなことをしたのは初めてだけれど、キャスティングについて監督にメールを送ったの。つまりオスカーのことを書いた長いメールをJCに送ったのよ。彼がふさわしいと思った理由、俳優としてこれほど信頼している理由、彼が決して下手な演技をしないこと、そして撮影現場でどれほど協力的で刺激を与えてくれるかを書いたわ。このことは、オスカーには言わなかった。JCにメールを送った途端、出すぎたマネをしたかと、少し怖くなったの(笑)。それから5分ほどでJCから返信が来て、彼をキャスティングするけどまだ伝えないでくれと書いてあった(笑)。彼はすでにオスカーの起用を考えていたわけね。JCが「心配するな、もう決まってるんだ」とすぐに返信をくれたのは、うれしかったわ。
チャステイン:2人とも舞台で訓練を積んだの。だから映画の撮影でリハーサルがないときは少し不安になる。大抵の場合、リハーサルといっても衣装合わせなのよ。でもこの映画の場合は違った。私たちは2人とも土台が同じだから、話も合う。準備のしかたも同じだったの。だから撮影の前に会ったり、うちに来てもらったりして、一緒に脚本を読んだわ。2人で役のバックグラウンドを考えたりもした。脚本には私が彼を叩くシーンがあって、そのことで話し合ったこともある。以前にも同じことがあったか、彼女は彼を叩いたことがあったか、彼は彼女を叩いたことがあったかとね。2人の関係をとてもよく理解できたから、撮影現場では演じるだけだった。そういう俳優と共演しているとチームの一員だと感じられるし、それは画面にも現れてくる。アナとアベルは同じチームなのよ。時にはけんかをするし、成功するために選ぶ道は違うけど、2人はチームなの。そんなふうに誰かと共演できるのは、刺激的なことだわ。
チャステイン:いい夫婦かどうかというのは、興味深い質問だわ。2人が協力し合ってるのは間違いない。愛し合ってるのも間違いない。面白いのは、アナがある瞬間では彼を王様みたいに持ち上げて褒めたてているのに、次の瞬間には彼を酷評するところよ。しかもアナは自分が何をしてるのか分かってない。これは、彼女が男性社会の中で20年早く生まれてしまった女性で、抑圧されてるからだと思うの。真剣に受け止めてもらえず、男の影にかくれ、男の見栄に利用され、外見でしか見てもらえず、安易に見下される。アベルへの態度が揺れ動くのも、そういう抑圧的な状況に対する不満が理由だと思うわ。でも一部では、それが2人の関係を燃え上がらせてるんじゃないかとも思うの。すごくアツい関係だと思うわ(笑)。2人には子どもがいて、もし彼女が彼を押さえ込んだままだと、うまくいかないと思う。でも彼女は同時に彼を持ちあげるから、うまくいってるんだと思うの。
チャステイン:この映画は犯罪スリラーだけれど、犯罪スリラーじゃないの(笑)。実際は、銃を本来の恐ろしいものとして描いてる映画なのよ。主役は移民で、ビジネスマンとして成功を収めようとしている。周りの世界が犯罪に染まっていく中で、たとえ道のりが険しくても、名誉ある人生を歩むことにこだわってる。移民のステレオタイプとか、このジャンルのステレオタイプに逆らうのが、この映画なの。JCは犯罪スリラー映画を倫理物語へ変えている。またアメリカという国についても解釈を加えているわ。『ウォール街』のような映画で描かれた“強欲は善だ”という風潮が起こる時代の前夜の話なの。
チャステイン:そう、私は映画が好きなの。映画館に行くことが好きで、俳優やアーティストや映画制作者と一緒に仕事をするのが好きなのよ。JCや私が一緒に仕事をしている他の監督を見ると分かるけど、彼らはみんなユニークな視点を持っていて、誰もが究極的にはアーティストなのよ。結局のところ、私たちは創作活動をしているの。お金のために映画を作ってるんじゃない(笑)、私はアーティストと一緒に仕事をしようとしてる。すてきなことよ。映画を見るのは映画祭が一番だわ。そこだと、映画を見て、レストランに行って、みんなとお酒を飲んで、映画作りの話をしたり、映画監督と話し合ったり、まるでサマーキャンプよ。私は、自分から誰かを見つけて一緒に仕事をしたいとは言わないの。でも相手の作品を褒めて、次はどんな作品なのと聞けば、そこから関係が始まることがあるのよ。私はとても恵まれた側に居るわね。
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