1946年11月26日生まれ、東京都出身。俳優の故・下條正巳を父に、元女優の田上嘉子を母に持ち、69年にNHK連続テレビ小説『信子とおばあちゃん』で俳優デビュー。テレビ番組『世界ウルルン滞在記』などでナレーターとしても活躍。主な出演作は『八甲田山』(77年)、『火宅の人』(86年)、『劇場版 仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼』(05年)など。
超ベテラン俳優たちが大暴れするエンターテインメント作『龍三と七人の子分たち』。オレオレ詐欺などやりたい放題のガキどもと元ヤクザのジジイたちが対決する北野武監督の大ヒット作が、ついにDVD&ブルーレイ発売された。
本作で、主人公・龍三(藤竜也)らと対立する元暴走族の京浜連合のメンバーを演じているのが下條アトムだ。人気番組『世界ウルルン滞在記』では味わい深いナレーションを担当していた彼だが、DVD&BDでは特典映像のナレーションも担当し、話題となっている。そんな彼に、北野監督の印象などを語ってもらった。
下條:とにかく、嬉しかったです。北野監督とは本作で初めてお会いしましたが、うちの親父(俳優の故・下條正巳)は一緒に『教祖誕生』などで共演したこともあり、本作に出演することをものすごく嬉しそうにしたのを覚えています。監督にも脚本のホン読みの際に「親子2代、殴られ役でよろしくお願いします」とお伝えしたら、ニヤニヤ笑っていましたね。
下條:こちらも嬉しかったです。即、それは嬉しいからやらせて!となりました。これでほかの方がやったら残念な気持ちになると思ってね。ただ、自分が出てるから立ち位置がわからなくて非常にぶれ條でやってました(笑)。『朝だ!生です旅サラダ』など、旅番組なら気楽に言える部分もあるけど、自分が演じているところに「おい、おい」とか入れるとかね。客観的でいいのか、それとも入っちゃっていいのか、その間がいいのか、もうちょっとテンション高い方がいいのか、わからないままやったのかな(笑)。みなさんに良かったと思えていただければ嬉しいです。
下條:緊張しまくりましたね。いままでの現場だと監督と役者がおしゃべりしながらいろんな選択肢を作りあげましたが、監督が来る前の時点でどう撮影するかがすでに決まっていて、そのためにスタッフ全員がびんと張り詰め、すごく緊張感に挟まれた感じでした。それが世界の北野監督がいままで作り上げてきたオーラというものでしょうね。そういう意味ではとても新鮮な現場でしたし、他の役者さんたちも同じことを言っていましたね。とにかくとても緊張しました。
下條:しんどかったです。下條としていろんな演技や芝居をくっつけるのではなく、素っ裸で監督にぶつからなきゃいけないと思いました。だから、殴られるにしろ、蹴られるにしろ、走るにしろ、頭の中で考えるのではなく、自分のできることを全部ストレートにぶつけてみよう、と。監督に身をまかせるといいますか、できる範囲のことは全部見せちゃおう、やっちゃおうという感じでした。
監督からは、こうしてほしいという指示がチラホラあって、やり過ぎると助監督が(耳元でこそこそ)「あれはやらない方がいいですよ」と言われたりね(笑)。「あー見られてる!」「やっぱり思った通りだ」と思いました。下手な芝居したら、ばれちゃう。最初のパチンコ屋のシーンがそうでした。なので、うまく演じようというんじゃなくて、その場で感じたことを、藤さん(藤竜也)がおっしゃっていた「セッション」のように演じよう、と思っていました。
下條:藤さんとは初めての共演で、実はずっと前から憧れの存在でした。今は亡くなった藤さんのマネージャーさんをよく知っており、その方とよく藤さんのお話をしていましたね。男の色気もあるし、たまらないですよね〜、素敵で。参っちゃいますよね。ベールに包んでるわけでもなく、つまらないところで見栄張ったりもしない、ご自分で名古屋(現場)まで車で運転なさったりして、そういう意味じゃ、非常にスマートな方ですよ。自然体で、ストイックでもありながら遊び心もあるしね。いろんなものをもっていらっしゃる、実にスペシャリストですよね。
中尾彬さんと一緒だとうるさいので(笑)。なるべく藤さんにお話聞きたいなと思って近くにいましたけど、彬先生が「なんだ、俺のところには来ないのかよ」と、そういうことばっかり言いながら、遊んでましたけど(笑)。いじられ役を買って出たつもりはなにもないですが、彬先生がね〜「アトム、いたのか!」と、いじられ役を作ってみんなを和ませたから、結果として良かったと思います。
下條:初号試写の際に初めて見ました。その場に藤さんもいらっしゃったのですが、みなさん、藤さんいらっしゃるとそのまわりのお席を開けちゃうんですよね。気をつかって(笑)。それはそうですよね。
そこで、藤さんから「下條さんちょっと来てよー」と言われて、大丈夫かな〜、ゲイっぽく見えないかな〜(笑)と思いつつ、お席を一個ずらして見ました。(上映中は)藤さんもいらっしゃるし、僕は一言も笑えませんでしたし、藤さんも笑ってませんでした。1回目ですから、「ここでカットされたんだ」とか「恥ずかしい!」とかね。自分がどう映っているのか、それを見るのに精一杯ですよね。終わりに藤さんがため息をついた同時に、僕も「ハァ〜」と、ため息をつきましたね(笑)。
下條:この映画は、何も考えないで見てください! 役者たちも素っ裸でやってましたからね。裸になって、心を開いて、笑いたいなら笑っていいし、(劇中の)藤さんのようにオナラらしたいなら「ぷっ」とオナラしてもいいし、それくらい、毛穴も開いて見ていただくと、きっとこの作品の良さがすごく見えてくるんじゃないでしょうか。あんまり、理屈を言わずに、生きていくのは誰しもしんどいことでもあり、そういうときにこういう作品があるとね、すごくその時間は嬉しい時間になるでしょうね。
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