1970年7月12日生まれ。1990年代からテレビドラマを中心に活躍し、1996年に映画『ラン・ウェイ』で大鐘賞新人男優賞受賞、2000年に映画『JSA』で青龍映画賞人気スター賞、釜山映画評論家協会賞主演男優賞を受賞。ドラマ『美しき日々』(01年)や『オールイン 運命の愛』(03年)などで日本でも人気を博す。2009年に『G.I.ジョー』のストームシャドー役でハリウッドに進出。その後も『G.I.ジョー バック2リベンジ』(13年)、『RED リターンズ』(13年)、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(13年)などアクション作を中心に活躍。その他のおもな出演作に『インサイダーズ/内部者たち』(15年)、『MASTER/マスター』(16年)、『ブラック・ファイル 野心の代償』(16年)、『マグニフィセント・セブン』(16年)、『KCLA 南山の部長たち』(20年)など。
韓流スターという枠を超え、『G.I.ジョー』シリーズや『ターミネーター:新起動/ジェニシス』などアクション大作への出演でハリウッドでも活躍するイ・ビョンホン。彼が4年ぶりに韓国映画界に戻って撮った主演作『メモリーズ 追憶の剣(ついおくのつるぎ)』は高麗末期を舞台に、運命に翻弄される4人の剣士たちの愛と復讐を壮大なスケールで描く。権力を手にするためには裏切りもいとわない野心家の剣士・ユベクを演じたイ・ビョンホンに、作品について、ハリウッド進出への思いや自身について語ってもらった。
ビョンホン:シナリオを読む時点で武侠映画とは聞いていましたが、読んだ瞬間から、もうジャンルに関してはすっかり頭の中から消えてしまって、とても深くて激しい愛のストーリーだと受け入れました。なので、撮影現場に行ってから「そうだ、これは時代劇だった。ワイヤーにつられて空中を飛ぶんだ」ということを、ようやく悟りました。
ビョンホン:『王になった男』は本当にたくさんの方に気に入っていただけて、うれしかったです。自分にとっては初めての時代劇の体験でしたが、実は肉体的にとてもつらい作業だったんです。例えばひげを付けなければいけない。サントゥという昔の髪形にしたり、慣れない服を何枚も着て、撮影を何ヵ月も続けるのはかなりつらかったので、当分の間、時代劇は遠慮しようと思っていたんです(笑)。でも、そんなふうに撮影の大変さはありますけれども、俳優としてこの作品に対する欲もあったので、出演を決めました。
ビョンホン:絶対的な悪も絶対的な善も、人間の世界には存在しないのではないかと思っています。私たちはよく悪の部分が半分以上になると、その人はすごく悪い人、そして善の部分が半分以上になると、善良な人と規定しがちです。ユベクは悪役かもしれないですが、彼も人ですので、おそらく彼の中にも、生きていくということに対して真剣に悩むところもあるでしょうし、彼なりの長所もあったんじゃないかなと思うんです。
最近の映画には、善悪の境界線が曖昧な作品もたくさんありますが、私はリアリティに基づいた人物を作ってもいいのではないかと考えていて、善であれ悪であれ、とにかく説得力のあるキャラクターを作って観客の皆さんに届けたいという思いがありました。私自身はキャラクターを見るときに、悪か善かということを考えずに見ます。そういうものを抜きにして、この人はどんな人なのかを考えて、人物を見るようにしています。ユベクはとてつもなく大きく複雑な野望を持っていた人物で、彼を取り巻く状況、彼の心理状態も複雑だと思います。
ビョンホン:自分なりに俳優生活を長くしてきましたが、実は一度も目標は持ったことはありません。今もそうです。常に自分は現在進行中、この先へ進む過程にいると思っているんですね。結果的に振り返ってみて、自分はこんな道を歩いて来たんだ、こんな経験をしたんだという感慨にひたることはありますが。
ハリウッドの仕事に関しては、現地に何十年も住んでいない限り、やはり限界があると思っています。ハンディキャップがあるわけです。言葉も違いますし、育ってきた文化、情緒、精神世界も違うので、そこにいる皆さんと完全に同等な演技はできないという意味で、やはりどこかで限界を感じています。ただ、それは自分に与えられた新しいチャンスだし、変に力まず、責任感でがちがちになりすぎずに、新しく目の前に広がる世界でどこまでできるのかやってみたいという気持ちがあります。野望とはまた違って、とても気楽な気持ちで楽しみたい、楽しもうと努力したいですね。
今は私のところに舞い込んできた仕事をこなすという状況ですが、自分が得意とするのはやはり韓国語の演技であり、韓国語の情緒で演じること、そして韓国の映画を撮ることなので、基本のベースはやはり韓国になるかと思います。
ビョンホン:韓国での撮影の場合には、例えば今日はこのシーンを撮り終えると計画を立てたら、徹夜をしてでもとにかく撮り終えようとなるわけですね。あるいは、現場にエネルギーが満ちあふれて撮影が順調に進み、俳優さんたちもすごくいい感情の演技ができるから、計画にないものを今日撮ってしまおうという場合もある。臨機応変にどんどん変化していくことが韓国の現場では見られます。
かたやハリウッドはスタートと終りの時間とが全部決まっていて、多少時間オーバーすることもありますが、その場合、スタジオの支払いがかさんでしまうこともあるので、できるだけ時間厳守。非常に合理的です。最初、その合理的なシステムに慣れませんでしたが、自分の時間も有効に使えるのでいいかもしれないと思うようになりました。でもちょっと空しく感じるときもあります。韓国の場合、自分の状態があまり良くなくて撮影がちょっと難しいと話せば、分かってもらえるんです。やはり人情がいまだに通じますので、雰囲気を見ながら対処してくれることもありますが、ハリウッドの場合にはそういうことを言ってしまうと、プロらしくないと言われてしまいます。そんなふうにして両者、長所と短所があると思います。
ビョンホン:おそらくもっと時間が経ってから感じるところがあると思いますが、今言えるのは、俳優さんの演技を見ていて、こんな表現もあるんだと驚くことがあるということです。自分にとっては見たこともない、一風変わった不思議な感情表現で、違和感を感じることも確かにあるんです。ところが、心をオープンにして見ていくと、「こういうこともあり得るな」と理解できるようになっていく。そんな経験を繰り返すと、人に対する理解の幅が広がっていく気がします。精神世界や感情、文化の差を感じて少しつらくなってしまうこともありますが、さまざまな感情表現の幅を新たに経験し、少しずつ知って行けると思うと、とてもうれしい気持ちにもなりますね。
ビョンホン:私がかつて『G.I.ジョー』に出演したという理由だけで、『メモリーズ 追憶の剣』のアクション・チームは、私がかなり刀さばきが上手だと思っていたらしいんです。ところが『G.I.ジョー』では本当に段取りだけをしっかりと練習して、それを見せるというケースだったので、全然勝手が違ったんです。今回は足のステップから動き方、刀の使い方をもう本当によちよち歩きの第一歩から学ばなければいけない状況で、周りのスタッフは本当に失望していましたね(苦笑)。さらに、ワイヤーにつられた状態で重心をとること、その状態で刀を振り回すという訓練をしました。苦労したのは、今回相手役がほぼ全員女優さんだったことです。監督の意向で、女優さんの顔を映すために、できる限り代役ではなく本人が演じていたんです。こちらとしてはかなり気をつけながら演じました。刃の鈍い刀であっても傷つけてしまいますから、本当に気を付けなければいけませんでしたね。
──こうしてお話をうかがっていると、以前に較べて良い意味で肩の力が抜けた印象を受けます。その一方でやはり変わらないのは仕事中心のストイックな印象ですが、もう少し私生活を大切にしたいという気持ちになったりしませんか?
ビョンホン:あまり考えたことはないですが、以前は仕事するとき、頑張らなきゃいけないと思って頑張っていたというよりは、意識せずに自然と頑張っていたんですよね。悪く言えば仕事に対する欲であり、良く言えば仕事に対する情熱だと思いますが、とにかく仕事にフォーカスを当ててやっていきましたね、これまで。でもそういう中で家に帰って来ると、本当に全部それが抜けてしまう。人って何かに没頭した後、気が抜けたようになってしまうじゃないですか。そんな感じで家にいても何もしないでじっとしていたり、ちょっとお酒を一杯飲んだりする程度でした。今は家族もいますが、だからと言ってそちらだけにフォーカスを当てようとか、こっちだけ頑張ろうというふうには思っていなくて。そういう区別がないんですよね。こっちも頑張って、あっちも頑張る。だから両方頑張りたいと思います。それも僕の欲に過ぎないかもしれないですけどね。
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