1964年4月7日生まれ、ニュージーランド出身。6歳の頃にオーストラリアに移住。『ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印』(未/93年)に主演し注目を集め、『グラディエーター』(00年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞。『ビューティフル・マインド』(01年)ではゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)を受賞している。その他、『クイック&デッド』(95年)、『インサイダー』(99年)、『マスター・アンド・コマンダー』(03年)、『シンデレラマン』(05年)、『レ・ミゼラブル』(12年)などに出演。本作で初監督をつとめた。
第一次世界大戦下のトルコで繰り広げられたたガリポリの戦い。英仏の連合軍に、オーストラリア・ニュージーランド連合軍が参戦し、13万人以上の戦死者を出したこの戦いで行方不明となった3人の息子たちを探すためにオーストラリアからやってきた1人の父親の姿を追った『ディバイナー 戦禍に光を求めて』は、名優ラッセル・クロウの初監督作だ。
過酷な戦いが引き起こす悲しみや混沌から、人がいかに立ち直り、再び歩き出すかを描いた本作について、ラッセル・クロウ監督に語ってもらった。
クロウ:そう、脚本を読んだ瞬間、今までにない経験をした。脚本が響いてきたんだ。物語が聞こえるだけではなく、映像までが目に浮かんできたのさ。この気持ちを私は「1ページ目ラブストーリー」と言うのだけど、初めて読んだ時から、私にはこの作品に対する責任がある、と強く感じたのさ。
仕事を選ぶときはいつもそうだ。深いつながりを感じることが大事なんだ。50本の脚本を読んでも何も感じないこともある。でもいつも「鳥肌が立つ」ような肌で感じる企画を探しているのさ。『グラディエーター』(00年)、『ビューティフル・マインド』(01年)など、どの作品をとっても、私はいつも特別な絆を求めている。
クロウ:これまでに自分が出演してきた作品が、監督と蜜に仕事をする作品ばかりだったことに影響されていると思う。長い俳優人生の中で、何度も問題にぶつかりそれを監督と共に解決してきた。それが私にとって勉強になった。問題をどう解決するのか、カメラをどう使えば良いのか、とかね。最近監督業を始めたわけではなんだ。これまでに30本以上のビデオクリップを撮ったし、長編ドキュメンタリーも撮った。いくつかは公開もされているし、それ以外のものは個人的な趣味だね。ある程度の経験と知識を現場で養った私としては、監督することはとても自然な流れだった。特に計画的だったわけではなくて、経験を積み、たまたま自分の感性と合った脚本に出会うことができた。だから今度は自分が指揮を取ろうと決めたのはとても自然なことだったよ。
これまで、リドリー・スコットのように現場で責任を持たせてくれる監督と多く仕事をしてきた。例えば将軍の役を演じているとすると、リドリーは現場では軍の責任者は将軍である君だと言うんだ。彼との作品はそんな感じだね。『マスター・アンド・コマンダー』(03年)のピーター・ウィアーだってそう。物語の中にいる誰かがリーダーにならないと、と言われた。そういった経験に加え、私はラグビーチームのオーナーでもあるんだ。スポーツチームという組織的な団体での経験が映画の現場でとても役に立ったよ。負け続きのチームをチャンピオンにするのに9年掛かった。色々な要素が同時に動く映画を完成させるのは、チームの経営に似ていると思ったよ。
クロウ:もちろんだよ。特に監督という立場であれば、映画はそういうものだと理解している。これまで数多くの作品に出演しているので色々な問題にぶつかってきたから映画とは何なのかは分かっているつもりだ。だからこそ、役者たちが私に何か質問があるときはすぐに答えることができる。スタッフだってそうさ。初めて長編映画に出演したのが25年前。それから一度も休まずこの世界で働いてきた。自分自身が養ってきた豊富な知識と経験があるんだ。
機関車のシーンを撮影したとき、連日49.5度の暑さだった。見回せば200人のスタッフと200人のエキストラが死にそうな状況で働いている。映画業界で育った人は皆、そういう大変な日もあることは分かっている。そんな日はただ頑張るしかないんだ。一日の目標を立てたらそれを達成せずに投げ出すことはできない。スケジュールがあるからね。以前よりもその点は厳しいんじゃないかな。保険会社がうるさいから(笑)。時間はお金で無駄にすることはできない。だから私は一つのシーンを複数のカメラで撮影する。私の撮影は昔ながらの手法と新しいものを合わせている。リハーサルで準備を入念にするのは昔ながら。新しいのはデジタルカメラでの撮影を、一度に複数で行うこと。一つのシーンをさまざまな角度から撮影することでたくさんの素材が残すことができる。素早く撮影することがどれだけ大事かということは、これまで多くの作品に出演してきたからこそ知っていることさ。
クロウ:一番の利点は、主演男優に、私が要求する演技を必ずやってもらえるということかな(笑)。100%信頼できたよ。だから時間に余裕ができる。他の役者の撮影やカメラの設定に時間を使えるようになる。それと物語の中に自分自身が入ることができるからそれも利点だね。でも現場に入り、その日は自分のシーンがないから衣装もメイクもする必要がないと気付くとほっとしたね。役者と監督の二束のわらじを履くことは大変な責任であるから。だから監督に専念できる日はより楽しくやれる(笑)。でもね、周りが思うほど大変じゃなかった。それは何度も言うけど何年も現場で働いていたおかげで撮影がどういったリズムで進むかが分かっているからさ。どこで時間を節約できるか分かっているからね。
クロウ:プレッシャーを感じたのは、この戦いは何度も描かれているので、なぜいまさらまたこの戦いを映画にするのか、と言う点だけ。オーストラリアで育った年月の中で見聞きしたガリポリの戦いは、全てオーストラリアの視点で描かれていた。一度として反対側からこの戦いを考えたことなど、私自身なかった。この脚本は頭から逆の視点で描かれているよね。この歴史に残る悲しい戦いが、一度は敵だった人間からの視点で描かれている。だからこそ映画化しなければならないと思ったんだ。オーストラリア人が見たら、自分がよく知っていると思っていた出来事に全く違った一面があるのだと気付いてくれると思うよ。だからこの映画はオーストラリア視点からの歴史的出来事としてだけではなく、歴史の記録として大事なんだ。
クロウ:父は寛大な人だよ。仕事のことでプレッシャーをかけられたことはない。まだ若かった頃、父との会話で、「万が一役者の仕事がうまくいかなかったときのために、バックアッププランを考えておいた方が良いんじゃないか?」と言われたんだけど、それに対して私は「前に転んで顔面を打つことはあるかもしれないけれど、後ろに(バック)倒れることはないから心配しなくて良いよ」と返した。そんな答えで父は納得してくれたんだ。そして父はつねに愛に溢れていた。子どもたちとスポーツを見に行ったり、遅くまで仕事をしていてもどこかで時間を見つけてくれた。夜中に一緒にサッカーしたこともあったよ。そんな家族に囲まれて育つのはとても素敵なことだった。両親はいつも我々子どもたちが愛されていて、安全だと感じさせてくれた。若くてお金がないときでも必要なものをどうにかして用意してくれたよ。乗馬用のブーツが必要なときは、新品は無理でもブーツを用意してくれた。クリケットのバットやサッカーボールが必要なときも必ずどこかから探してきてくれたんだ。お金がなくてもね。
クロウ:父に倣って、同じような父親になろうとしているよ。でも仕事で不在にすることが多いし、妻とは離婚しているので色々難しいことはある。できるだけ子どもたちのそばに居て、話をして、そして冒険を作ってあげられるようにしている。彼らが住むこの世界で何か新しいことを見つけられるようにね。喜びをたくさん分かち合いたいんだ。私はコンピューターゲームが全然ダメなんだ。子どもたちもそれを知っているから教えてくれるんだけど、私が子どものころは外での冒険することが遊びだったからね。最近、子どもたちはホバーボードにはまっていて、最近自分も買ったんだ。一緒に乗りに行くんだけど、きっと私は格好悪く見えているだろうね。でも一緒にやるのが楽しいから。
私は子どもたちに人生をどう生きろとか、指示したくないんだ。でも何か質問があったときにはアドバイスできる存在でありたい。
クロウ:オルガは素晴らしい女優だ。彼女の名前はキャスティングを始めてすぐに上がった。彼女なら国際的にも名があるから、と薦められた。彼女の出演作を見直すと、彼女の瞳の奥に感じるものがあった。何か他の監督たちが気付かなかったものが自分には引き出せるんじゃないかと思った。そこで彼女をパリで食事に誘って実際に会ってみたんだ。彼女はとても聡明で話やすく、とても楽しい食事になった。会話の中で彼女は私が求める役を演じることができる知性があると分かった。彼女は6ヵ国語、7ヵ国語話せるんだよ。それだけでも、とてつもなく頭の良い人だと分かるよね。
クロウ:もともとは話せなかった。でもウクライナ人でフランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語が堪能とすれば、新しい言語を覚えるも彼女ならできるだろうと思ったよ。実際ウクライナ語とトルコ語は発音が似ているらしい。だから西洋人には聞きなれない音でも彼女には問題がなかった。作品で一番困難となるのは感情部分でつながりを感じることだ。でも彼女と話をしたらすぐにその点で心配はないと分かった。彼女を監督するのはとても楽しかった。常に準備をして現場に来てくれるし、彼女は“与える”ことに長けている。役者に求めることはそういった要素なんだ。無理やり引き出すのではなく、心の窓を常にオープンにしていてくれるから、彼女の方から私が求めることを与えてくれるんだ。
クロウ:表面上ではこれは戦争映画に見えるかもしれません。でもこれは戦争映画ではありません。戦争を生き延びた人たちがどうやって自然にまたつながりを求め、前進み、生きることに喜びを感じるかを描いた映画です。日本の観客のみなさんはきっと父と子の深さを感じ、子どもたちと父親が辿った旅路に心動かされると思います。そして登場人物たちの誇り高き行動、特に元は敵同士だった人たちの誇りに感銘してくれるでしょう。涙せずにこの映画を見れる人は少ないと思います。とても希望にあふれた映画をお楽しみください。
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