『レ・ミゼラブル』(12年)で注目を浴び、世界的に有名な物理学者スティーヴン・ホーキングを演じた『博士と彼女のセオリー』(14年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞。主な出演作は、ロバート・デ・ニーロ監督作『グッド・シェパード』(06年)や『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(07年)、『ブーリン家の姉妹』(08年)、『ジュピター』(15年)、『マリリン 7日間の恋』(11年)など。新作に、J・K・ローリング原作の映画化作品『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(16年)がある。舞台でも活躍し、ブロードウェイ・デビューを果たした「Red」でトニー賞助演男優賞を受賞。また、ドンマー・ウェアハウスで行われた同作品のロンドン公演では、ローレンス・オリヴィエ賞助演男優賞を受賞した。
『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』と話題作を連発するトム・フーパー監督。彼が15年以上にも渡る月日をかけて生み出した作品『リリーのすべて』が、3月18日より日本公開される。
今から80年以上も前に世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人、リリー・エルベの実話に基づき、1組の“夫婦”の愛と葛藤を描いた作品で、ごく普通の仲むつまじい夫婦が苦難を乗り越え、時に姉妹や母子のような絆を育みながら、魂を共鳴させていく姿に涙がこみ上げる。
アイナーという男性として生まれ育ち、ふとしたことから自らの女性性に目覚めていく“リリー”を演じたのはエディ・レッドメイン。『博士と彼女のセオリー』では、まるで骨がなくなったかのような驚きの身体能力を見せアカデミー賞主演男優賞に輝いた彼は、本作でも見事な演技力を披露している。そんなレッドメインに話を聞いた。
レッドメイン:僕にとっては、難しい役に挑戦するというより、光栄だという気持ちが強かった。俳優というのは興味深い人物を演じたいと願うものだからね。リリー・エルベはすごく特別な女性だし、トム・フーパー監督に素晴らしいチャンスを与えてもらえたと思っている。
レッドメイン::脚本をもらったあと、まずトランスジェンダーのコミュニティーの人々に会うところから始めた。そこから本当の意味での「教育」が始まったんだ。自分がいかに無知だったかを痛感したし、会った人全員が本当に寛大で感激したよ。個人個人の話を聞くうちに、1つにくくれるものではなく、人それぞれ違った体験をしているということに気づいた。これが役作りにおけるスタート地点だったよ。
それから、リリーの歴史を学ぶために、彼女の死後に発表された回顧録「Man into Woman」(邦題「変えられた性 男から女になったデンマーク画家の記録」ニールス・ホイエル編、蕗沢紀志夫訳、磯部書房)と、デビッド・エバーショフの原作小説(邦題「世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語」斉藤博昭訳、講談社)を読んだ。そうして、今回トランスジェンダーの人々と会って学んだことや、リリーの歴史を調べて見つけた情報などを全て役作りに取り入れて、自分自身の中に存在するリリー的な要素を見つけようとしたんだ。
役作りで一番難しかったのは、感情面での役作りの方だったよ。リリーの気持ちや考えを理解しようと努力した。特に、1960年代という時代に性別適合手術を決断した彼女の気持ちをね。彼女には他の選択肢は無かった。それが彼女の本当の姿だったからだ。でもそれは非常に危険な賭けだったし、命を落とす可能性もあったんだ。
レッドメイン:僕にとってプロの役者としての最初の役は、(シェイクスピア劇の)「十二夜」のヴァイオラ役(劇中で男装する女性で、この作品の主人公)だった。それに、男子校に通っていたから、学校の劇で女性役を演じたこともある。だから、リリーの姿になることは僕にとってそんなに驚くことでもなかったよ。むしろ興味深かったのは、衣装やメイクの担当者と協力しながら、主人公が「リリー」に変化した瞬間を見つけることだった。その作業の方がもっと複雑だったよ。
レッドメイン:この作品のテーマの1つは「愛」なんだ。そして、「愛とは何か」ということ。愛は非常に複雑で、素晴らしくて、他の何にも代えがたいものだ。この物語の核心はラブストーリーだと思う。
また、「本当の自分でいる」ということについての物語でもある。今回この作品に出演して気づいたのは、真の自分でいるということは一見すごく単純なことのように思えるけど、実はそうじゃないという点だ。
リリーの時代から100年近くたった現代でも、社会はあの頃からそんなに進歩していなくて、真の自分でいるというのは今でもすごく大変なことなんだ。
メイン写真:妻のハンナ・バグショー(左)とエディ・レッドメイン
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