『あまくない砂糖の話』デイモン・ガモー監督インタビュー

“ヘルシー食品”の不健康さを人体実験で自ら実証!

#デイモン・ガモー

実験を行うなかで、思っていた以上に危険なことが分かった

砂糖の摂りすぎは身体に良くないと知っている人は多いだろう。けれど、現代人が1日に多くの砂糖を摂取していることを知っている人は意外に少ないのでは? オーストラリア人の平均は、なんとティースプーン40杯だという! ヘルシーといううたい文句につられて、ついつい手に取ってしまうヘルシー食品にも、実は多くの砂糖が使われている。

本作は、自ら実験体となり、60日間、“ヘルシー食品”だけを食べ続けたデイモン・ガモー監督の“変化”を捉えた問題作で、本国オーストラリアのドキュメンタリー映画史上、最もヒットした作品でもある。ファーストフードの危険に警鐘を鳴らした『スーパーサイズ・ミー』の上を行く衝撃をもたらす『あまくない砂糖の話』について、ガモー監督に聞いた。

──本作を作った理由は? また、参考にした作品などはありますか?

デイモン・ガモー監督

監督:参考にした作品を1つ挙げるなら、モーガン・スパーロック監督の『スーパーサイズ・ミー』です。ただこちらは、マクドナルドを「1日3食」食べるという内容で、実験する前からある程度の結果はなんとなくわかっていたと思うのですが、本作では、いわゆる“ヘルシー”な食べ物と宣伝されている食品を60日間食べてどのような影響があるか、そして”ヘルシー食品”に含まれている砂糖は問題ではないのか?という実験を行いました。

──あなたはもともとオーストラリアで俳優をしていたわけですが、この“実験”について話したときのご家族の反応は?

監督:正直、やる前ははっきりと結果が出るかわからず、映画として成り立つ結果が出るかどうかの方が周囲や家族にとっては不安要素でした。ただ、実験を行うなかで思っていた以上に危険なことが分かり、妊娠中の妻も心配していたのですが、結果としてこの映画を作れたことはすごく喜んでくれました。

低脂肪ヨーグルト、トマトスープなどにも非常にたくさんの砂糖が含まれている
『あまくない砂糖の話』
(C)2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──オーストラリアのトップスター、ヒュー・ジャックマンも出演していますね。

監督:彼が出演してくれたことはラッキーでした。彼自身も元々、健康に気を遣っていたので、話をもちかけるとすぐに賛同してくれました。若い世代に伝えたいという我々のメッセージにも共感し、参加してくれることになりました。彼自身も映画を見てすごく気に入ってくれて、周囲の友人に薦めたり、子どもたちにも見せたと言ってくれました。

──あるデータでは、オーストラリアの1人あたりの砂糖摂取量は日本の3倍です。なぜオーストラリア人はこんなに砂糖を摂るのでしょうか?

監督:オーストラリアの人々は、どこに砂糖が含まれているのかを知らないのだと思います。チョコレートなどのお菓子類については知っているかもしれませんが、(ヘルシーな)シリアルや低脂肪ヨーグルト、トマトスープなどにも非常にたくさんの砂糖が含まれていることを知らなのです。

──オーストラリアで大ヒットしましたが、この映画がきっかけでオーストラリアの社会で変わったりしましたか? また、砂糖摂取量を減らす取り組みなどはあるのでしょうか?

監督:ヒットして多くの方に見てもらえたので、消費者の意識が高くなり、消費者側から食品業界へラベル表示をより明確にという呼びかけがなされるなど、様々なことが起きています。また、業界でも低糖質のものがたくさん発売されていて、政府より先に、まず消費者から声を上げてもらえたことが良かったです。また、ニュージーランドでも議会できちんと取り上げてもらい、病院では糖質の高い飲料を禁止する条例もでき、非常にインパクトのある作品になったかなと思います。学校でも教材として使用され、子どもたちに食文化を伝えるプログラムを取り入れられて良かったです。

『あまくない砂糖の話』
(C)2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

 オーストラリアではここ30年ほど、低脂肪が健康的という感覚を強く持っている人がほとんどです。そして、脂肪に気をつけているにも関わらず病気がどんどん増えてきているなかで、低脂肪である分、糖質が高くなっている食品も多いということがわかり、観客はショックだったようです。ラベルを見て栄養素をきちんと確認するということを学べたというのが一番大きな反応だったと思います。

 先ほども言いましたが、砂糖の摂取量については、今、ラベルの表示が問題になっています。グラムではどうしてもわかりづらいので、ティースプーンの杯数で表示するなど、わかりやすいラベル表示にする運動が起きています。健康的なイメージで売っていても、ラベルを見るとそうでない食品はたくさんあります。そういう意味でラベルの表示をもっとしっかりしようという方向性ではありますが、食品業界の問題もあるので現在は色々な討論が起きています。

日本でも、自動販売機で砂糖の多い飲料が増えていると感じる
──この映画はオーストラリアの小中学校で教材として取り入れられているそうですね。子どもたちはどのように受け止めているのでしょうか?
『あまくない砂糖の話』
(C)2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

監督:子どもたちの反応を見ることが、本作で一番やりがいを感じる瞬間です。製作の際も、子どもたちに向けての表現は特に意識した部分でした。アニメやカラーを取り入れたりMV風にしてみたり。子どもたちの感想としては、食についてもっと学びたいという意欲のある質問が多かったので、若い世代がより健康に生活できるチャンスをつくることができたと思っています。

──日本は3回目だそうですね。

監督:最初は観光で、2回目は仕事できました。日本は大好きなので、いつか娘とも来てみたいです。

 食に関しては伝統的な食文化が根付いており、アメリカやオーストラリアと比べて健康的な食生活を送れていると思いますが、日本に来るたび、自動販売機で砂糖の多い飲料が増えていると感じますし、これから加工食品もより増えていくと思うので、そこには非常に気をつけてほしいです。

──今は砂糖の少ない生活をしているのですか?

監督:砂糖を一切摂らないということではないですね。WHOでは1日ティースプーン6杯分を推奨していますが、オーストラリアでは1日30~40杯、日本でも1日20〜30杯分の砂糖を摂取していると言われています。時々、チョコレートなどの砂糖が含まれているものも食べますが、極力は野菜やフルーツ、魚など自然の食べ物を摂るようにしています。現代では、そのバランスが逆になっていると思うので、それが問題だと思います。

デイモン・ガモー
デイモン・ガモー
Damon Gameau

1976年1月27日オーストラリア生まれ。オーストラリアの映画、ドラマなどで活躍し、『Balibo』(09年)ではAFIアワードの助演男優賞にノミネートされた。本作で長編映画の初監督に挑戦した。