1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。2009年、映画『ガマの油』でスクリーン・デビュー。映画は『ヒミズ』(12年)、『ほとりの朔子』『私の男』(共に14年)、『オオカミ少女と黒王子』(16年)、『SCOOP!』『何者』(共に16年)、『リバーズ・エッジ』(18年)、『翔んで埼玉』『人間失格 太宰治と3人の女たち』(共に19年)などに出演。ドラマやバラエティなどテレビでも活躍し、2020年前期のNHK連続テレビ小説『エール』のヒロインを務める。
近代文学史を代表する作家のひとりとして知られている室生犀星。小説だけにとどまらず、随筆や童話、俳句といった幅広いジャンルにおいてその才能を発揮し、数多くの名作を生み出してきた。そんな室生が晩年に発表した作品のなかでも、老作家と金魚の少女の“秘めた恋”を描き、幻想的な世界観で読む者を虜にした作品といえば『蜜のあわれ』。
映像化は不可能とされていた作品だったが、石井岳龍監督と豪華キャストによって、映画化がついに実現した。金魚から人間へと変幻自在の小悪魔的少女の赤子は、現在最も注目されている若手女優の二階堂ふみが熱演。そして、室生犀星自身を投影しているといわれている老作家を演じたのは、映画やテレビにはいまや欠かせない存在であるベテラン俳優の大杉漣。見事なまでのハマり役をみせる2人に本作への想いを語ってもらった。
二階堂:「赤子を演じたい」と思っていたというよりも、「この作品を作品にしたい」という気持ちの方が強かったです。「この本を作品にできたらステキなんじゃないかな」とずっと思っていたので、「どういうものをやりたい?」と聞かれたときに、「ぜひ、『蜜のあわれ』をやりたい」と話してきました。そして、色んな偶然が重なって現場に参加させてもらうことになりましたが、自分が思っていたものがステキな作品に完成して、すごく幸せだなと感じています。
大杉:あとで苦労だったかなと思うことはあっても、そのときは精一杯やるしかないんですよね。実在していた人物ではありますが、その人に近づくというよりも、“大杉漣という俳優を通しての室生犀星さん”というイメージの方が強かったです。撮影は1ヵ月ほどでしたが、非常にいい現場で、楽しい時間を過ごすことができたなという印象でした。
二階堂:大杉さんは大先輩なので、がんばらないといけないなという気持ちとステキな作品に仕上がるといいなという気持ちでした。現場でご一緒させていただいてから得ることの方が多かったですね。映画人であり、俳優部としての大先輩である大杉さんの背中を見て、現場で学ぶところがたくさんあったので、とても感謝しています。
二階堂:特に話してはいなかったですね。
大杉:それよりも、その場で起きている“ライブ感”の方がすごくあったと思います。なので、色んなことを事前に用意して行くというより、現場で起きたり、感じたりすることを大切にしていました。脚本を読んだ印象でそのままセリフを覚えていって、お互いにやりあうので、“セッション”のようなことを楽しんでいた現場だったと思います。
二階堂:歳は関係なく、やっぱりそれは大杉さんがステキだからだと思います。親子ほど離れているとは感じませんでした(笑)。
大杉:実際は、二階堂さんは僕の娘よりも若いので、“僕の娘”といっても過言ではないんですよね(笑)。僕は40年以上俳優をやっていて、「映画でもテレビでも、仕事は1本1本だな」と感じていますが、そのなかでも今回は、二階堂さんからすごく刺激を受けたんですよ。たたずみ方や言葉だけではなく、自分の立つ場所をわかっているので、二階堂さんと一緒に仕事をしてみて、感じるものはすごくありました。「同じ土俵に立って、向き合ってくれる女優さんだな」という印象です。
大杉:翻弄されっぱなしでした(笑)。それに尽きますね。
二階堂:考えたことなかったですね(笑)。
大杉:僕は廣木隆一監督の作品で、木の役をやりましたよ(笑)。そのとき、僕は声だけなんですけど、それでも不思議なことに僕だとわかるんですよね。そのほかには、三池崇史監督の作品では袋の中に入って、「ウゥ」って言ってるだけというのもありました。人間の役じゃなきゃいけないってことはないので、役者って面白いですよね(笑)。
大杉:そうですね、「自分は木だ」と思う方法は誰も教えてくれないから、自分なりの木の方法しかないですよね(笑)。そういうオファーをしてくださるのは逆に面白いし、チャレンジだと思います。
大杉:人を好きになる感覚って大事だと思うんですけど、僕は深く好きになりたいですね。ドロドロしているということではなくて、ちゃんと向き合いたいという意味です。好きっていうのは、色んな感覚があると思います。自分のことで言うと、奥さんは40数年もよく僕なんかと一緒にいてくれるなと思うんですよ。好きとかって言えないけど、一緒に過ごしているうちに、好き自体が普通になっていくことだと思います。でも、やっぱり愉しいことではあるかなと思いますね。
大杉:普段、“交尾”って言葉は日常的には使わないですけど、「交尾はいかん!」って言うセリフが印象的で、あのシーンは大好きでした。
二階堂:赤子が「交尾して参る!」って言うんですよね(笑)。
大杉:普通にそれを言うので面白いんですよ(笑)。口語調ではない文体なので、ああいう言葉が出てくると、なにか奥ゆかしさを感じましたね。なので、“交尾”という言葉を新鮮な思いで、聞いていました。
二階堂:どこがということではないんですけど、撮影を通してどのシーンも、監督とお話をしながら作り上げました。
二階堂:衣装の澤田石さんが本当に素晴らしいデザイン画を作って、衣装を提供してくださっていたので、それに身をゆだねていました。「ポックリを履きたい」ということだけは伝えましたが、それ以外は澤田石さんが私の体に合わせてステキな衣装を作ってくださいました。衣装はもちろんですが、現場のロケーションや映画に写っていない街の人たちの存在など、一つ一つが自分の役へのアプローチに重要なポイントになっていたと思うので、そのすべてに助けられていたなと感じています。
大杉:衣装の意味合いというのは、完成したものを観て、改めて知りました。僕自身はたまに着物を着るんですけど、老作家の着物に袖を通すと、フィットする生地感がとてもよかったんですよね。今回はデザインということだけでなく、素材そのものにもこだわりがあるというのを着てはじめてわかりました。若干動きづらい長さになっていたりするんですけど、それにはもどかしさを表す意味合いがあるとも思いました。着物のなかに、澤田石さんからの「これをお前は着れるのか?」という“役者につきつけてくる挑戦状”みたいなものを感じ取りましたが、「着てやったぞ!」という感じです。
大杉:あれは本当に二階堂さんにリードして頂きました。
二階堂:いえいえ、とんでもないです(笑)。
大杉:僕は阿波踊りくらいしか踊ったことないですからね(笑)。あれは現場で生まれたシーンなんですけど、あんな風になるとは出来上がりを見るまで思ってもいませんでした。
二階堂・大杉:全部好きです(笑)!
(text:志村昌美/photo:中村好伸)
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