アニメ監督。18年に及ぶ3Dアニメ制作の経験を有する。主な作品は、CCTV2006年春晩のトレーラー、『スパイダーマン』のゲーム宣伝映像、イタリア・ポンペイ博物館の4Dアニメ作品など。また、大阪アジア芸術祭の審査員、北京電視局2011年アニメ春晩の総監督などをつとめる。インターネットゲーム「傭兵天下」では、CG広告映像を担当。
『西遊記之大聖帰来(西遊記 ヒーロー・イズ・バック)』田暁鵬(ティエン・シャオポン)監督インタビュー
まさにチャイニーズドリーム! 借金し、たった1館のスタートから興収192億円までの軌跡!!
現在、世界の映画マーケットでアメリカに続いて第2位となり、影響力が増している国、中国。実際、最近ではハリウッドスターたちが宣伝で中国を訪れることも多く、その重要さがうかがえる。
そんななか、わずか1館からスタートした、当時は無名の田暁鵬(ティエン・シャオポン)監督による『西遊記之大聖帰来』という中国アニメ作品が、中国のアニメ史上歴代最高の興行収入となる192億円を叩き出し、昨年の大きな話題となった。そんな田監督が、3月に東京アニメアワード フェスティバル(TAAF)に出席するため来日。TAAFでは、コンペティション部門優秀賞を受賞し、作品の出来映えも高く評価された。
『西遊記之大聖帰来』は、日本でも有名な「西遊記」をもとにした作品で、今年の夏には全米でも公開され、吹き替え声優を“あっと驚く俳優”がつとめるそうで、来夏には日本でも公開予定。模倣が多く質も低いなど、今までネガティブなイメージしかなかった中国アニメの概念を覆す本作に隠された“チャイニーズドリーム”について、製作も手掛けた田監督に語ってもらった。
監督:私が考えるところでは、心や感情に訴える部分ですね。もちろん中国の人たちが国産アニメを温かい目で見守ってくれたということもあります。わかりやすい“東洋の要素”を映画に入れているので、それが多くの人を惹きつけたんだと思います。そして、「西遊記」を通して、父と子の感情を描いたので、観客のみなさんもより入り込めたのかもしれません。また、キャラクターの動きや表現の部分、美術的な部分にハリウッドのアニメ映画とは違う演出も心がけました。
監督:初めの頃は問題も確かに多かったので、これまでに制作した作品の蓄えで、自分のアニメ会社を存続させようと努力しました。そのあと、この映画がだんだん形になっていくにつれて、他の企業や機関から支援を受けることができるようになったんです。さらに、両親だけでなく、とても大切な一人の親戚からもお金を借りました。なので、苦楽を共にした約10名の仲間たちとは、真剣にアニメ制作に臨みましたね。
監督:私の考えでは、みんなを鼓舞する言葉は、何度も言いすぎると、信用がなくなることもあります。なので、号令をかけるというよりも、まず自分が努力してちゃんとしたものを作りたいと思いました。自然とそれにみんなが付いてくるという感じでした。
監督:とても支持して、助けてくれましたし、実は制作メンバーの1人なんです。なので、奥さんも一緒に会社の中で作業してくれました。
監督:たくさん挫折もありましたが、私は楽観的な性格なので、辛いことがあっても、翌日に素晴らしいアニメを見たりすると、希望に溢れていましたね(笑)。おそらく本当の挫折というのは、「自分の作った作品が十分に良いものになっていない」ということだけで、外的な要因での挫折というのは、ありませんでした。
監督:映画製作時には、スポンサーになってくれる人もなかなか見つからず、たくさんの挫折も経験しました。そのときに実感したのは、「いくらこの作品は素晴らしいんだと口で言っても、アニメを見てもらわないと伝えることができない」ということです。なので、会社の他の業務は中止して、この作品の制作に一本化し、まずは作品を完成させることに集中しました。「その場でグズグズしていると、永遠にチャンスは手に入らないけれど、前に前に進むことで、新しいチャンスを得られる」という考えの下で行動しました。
監督:節約生活を送っていましたが、そこまでひどく困窮したという訳ではありません(笑)。もともとシンプルな生活をしていましたから。その他では、スタッフの人数を減らして、1人が複数の仕事を行うようにもしました。私たちはみんなアニメを愛しているので、たとえ生活が苦しくても、アニメを作らなかったら、人生はもっとつまらないものになってしまうでしょうね。だから、辛いことがあっても、楽しくアニメ製作をすることができるんです。
監督:親戚は信じていてくれ、支援してくれていたので、そういうことはありませんでした。
問題はお金のことよりも、子どもの面倒が見られないということで、プレッシャーでした(笑)。本当に忙しくて遊んであげる時間もなかったので、知らないうちに大きくなってしまいました。製作を始めたときはまだ小さかったので、子どもには「お前が小学校に入る頃には、自分が作った素晴らしい映画を見せてあげるからね」と言っていましたが、出来上った頃には(小学校は)そろそろ卒業という年になってしまいました(笑)。
監督:「とても好きだ」と言ってくれましたし、この映画のメインテーマは“父と子”なので、すごく共感してくれました。
監督:そうですね。話し方や性格、日常的な振る舞い方などは、すべて自分の子どもを参考にしました。
監督:どのキャラクターにも自分を投影してはいないですが、もしかしたら猪八戒かもしれませんね。いえいえ、冗談です(笑)。
監督:公開当初は上映率も少なかったのですが、熱心なファンがインターネットを使って映画の宣伝に貢献してくれたんです。そして、公開後1週間も経たないうちに、だんだんと私たちを応援してくれる声ががネット上に現れてきました。ファンのみなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
監督:製作段階から、きっとひどい作品にはならないだろうとは思っていましたが、ここまで素晴らしい興行収入を得られるとは予想もしていませんでした。一番心配していたのは、興行収入よりも、「永遠にこの作品が完成しなかったらどうしよう」ということだったので、映画が上映できることになった時点でみんなですごく喜びました。
監督:宮崎駿監督は、私にとっては神様のような存在です。実は、今回日本に来た一番の目的は、この映画を宣伝するためではなく、ジブリ美術館に行くことなんですよ(笑)。自分はこれからの道もまだまだ長いので、宮崎監督みたいに今後もっと自分の内面の世界を表現できるようになりたいと思っています。
監督:世界に宮崎監督は一人だけなので、真似することはできないですね。宮崎監督を崇拝していますが、自分が宮崎監督になりたい訳ではなく、自分は自分なので、自分なりの世界を作りたいと思っています。
監督:私たちもお二人と同じような関係ですね。今後も二人三脚で一緒にやっていきたいと思います。
監督:まだまだ十分ではないので、見せるのは恥ずかしいですね(笑)。もっと勉強して、「これが自分の作品だ」といえるような作品を今後作り上げることができたら、そのときこそ宮崎監督に見ていただきたいと思います。
監督:今後は、『西遊記之大聖帰来』シリーズの2作目とは別に、『深海』という映画を作る予定ですが、この作品では自分の表現したいことをしっかり込めたいと思っています。私がなぜ宮崎監督をそこまで尊敬しているかというと、監督は自分の内面の世界を映画に上手く表現しているからです。
監督:私の考えでは、商業的な路線とアーティスティックな路線は衝突するものではないと思っています。例えば、ハリウッド映画は確かに商業的ではありますが、アーティスティックな部分もたくさんあります。人間の感情において、芸術と商業の間に溝はないのだと思います。感情に訴える作品はいくら見ても飽きないはずです。
監督:日本のみなさんがこの映画を好きになってくれることを望んでいますし、作品のなかから、私たちが共有している“東洋の感情”を受け取ってくれればいいなと思っています。また、今回の映画はオリジナル作品ですが、世界観は原作である「西遊記」から取っていますので、この映画を見終った後、日本の皆さんがもっと原作を読みたいと情熱を持ってもらえたらうれしいです。そして、今後は私たち中国のアニメ作品をもっとたくさんの日本の皆さんに知ってもらいたいと思います。
(text:志村昌美)
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