1980年4月1日生まれ。埼玉県出身。92年ドラマ「新・木曜の怪談 Cyborg」で女優デビュー。テレビドラマを中心に活動し、98年の映画『リング』でスクリーンデビューを飾る。連続テレビ小説『あすか』(99年)でヒロインを演じると、数々の作品でヒロインや主演を務めるなど日本を代表する女優となった。現在放送中の大河ドラマ『真田丸』では茶々役として出演中。
日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の小説「クリーピー」を黒沢清監督で映画化した『クリーピー 偽りの隣人』が、6月18日より公開を迎える。6年前に起きた一家失踪事件の分析を依頼された元刑事の犯罪心理学者・高倉を演じるのは西島秀俊、その妻・康子には竹内結子が扮する。
西島秀俊&竹内結子といえば『ストロベリーナイト』シリーズでもタッグを組んでいたが、インタビュー中も軽快なトークで場を盛り上げるなど息はぴったり。そんな2人に作品の見どころや黒沢組の魅力などを聞いた。
西島:(『ストロベリーナイト』では)僕は6年間ぐらいずっと(竹内結子演じる姫川玲子に)片想いしている役でしたからね(笑)。ついに夫になることができたので、やや不穏な空気が流れる夫婦でしたが、嬉しかったですよ。
竹内:やっとこのポジションに登りつめたのに、いわゆる蜜月をすっ飛ばして、ちょっとした倦怠期の夫婦でしたからね(笑)。もっとフワフワした夫婦を味わってみたかったですね。でも現場で思ったのですが、食卓のシーンで西島さんって、あえて食べにくいものに箸を伸ばしますよね?
西島:僕は「これ行っちゃいけないだろうな」って思うものを本番で行ってしまう癖があります。でも食事のシーンは、セリフのことを考えずに真剣に食べるというのは、まじめな話、僕のテーマなんです。でも姫川さんに凝った料理を作っていただけるなんて嬉しかったです(笑)。
竹内:康子の腕は料理教室がひらけるくらいだと思いますね(笑)。
西島:黒沢組の現場は面白いですよね。地下のセットを見たとき、これは逃げられないなって思いましたし、ロケ先もすごく面白い。最初に出てくる五差路なんかもすごい雰囲気があるけれど、車も止められないし、撮影しづらい場所なんですよ。だから、撮影前は相当準備していますよね。複雑なことをワンカットで撮ったりするので、演じる側は影響を受けながらやっています。
竹内:康子はほとんど家から出ることがない役でしたが、家のつくり自体が逃げ場がない。ここで何かあっても誰にも訴えが届かないという不安がありましたね。こういう間取りの家ってあるんだろうけれど、そこにいると「なんだろうこの違和感」って感じるようなセットでしたね。
西島:風のタイミングとかも微妙に計算されています。草がザワって風で揺れたり、すごく緻密な撮影ですね。
竹内:黒沢監督からは「康子さんは夢を見ているような感じで」と言われていたので、自分の身に起きていること、それがたとえ意図していないことでも、受け入れて夢の中で動いているような感覚は、ラストカットまで一貫して持っていましたね。漂う感じみたいな。そういう雰囲気は現場でお芝居をしながら作っていきました。
西島:黒沢組は4度目なのですが、以前は、今回の香川(照之)さんが演じた役のように、秩序を乱したり日常を壊す役だったのですが、今回はそういう人物と戦う役だったので、すごく新鮮でした。黒沢監督の演出は「えっ、そうくるか」というのをみんな楽しみにしています。ワンカットの中で、役者がものすごく動いていろいろなことをやるのですが、竹内さんがおっしゃる通り、みんな催眠術にかかっているように、どんな膨大なセリフでも自然にやれる。普通なら、そういう大変なシーンって前日から心配したりするのですが、黒沢監督の現場って一切そういうのがありません。
西島:この作品の中で一番難しい役が香川さんが演じた西野という役だと思います。変な人だけど、別に怖いかというとそうじゃない。ちょっと変わった隣の人。生理的に嫌悪感を持つ人も多いと思いますが、逆にひっくり返って、興味を持って引き込まれるキャラクターでもある。そのさじ加減ってすごく難しいと思います。これまでいろいろな作品で対峙しましたが、今回は精神の戦いで、今までとは全く違うアプローチだったので、すごく面白かったです。
西島:見る人によっては西野に感情移入し始める人も多いんじゃないですかね。(第66回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に出品され)ベルリンのワールドプレミアで上映された時、後半彼がやっていることが分かってくると、拍手喝采や笑いが起きていました。みんなが見ないように蓋をしていることをやっている。もちろんやっていることは酷いので悪人であることは間違いないのですが、簡単に善悪で切り捨てられない、ある一つの真理をついているんじゃないかって思わせるキャラクターですよね。
竹内:例えば雪山とか物理的にストイックな現場だったら「ヘヘヘ」って言っている場合じゃないので、違う緊迫感があるのでしょうけど、今回、私は巻き込まれていく立場だったので、あまりそういうことは感じませんでしたね。
西島:そういう意識はないですね。撮影自体は色々なことをするので本当に大変で、スタッフさんもすごいところにレールを組んだり、クレーンを使ったりしているのですが、黒沢監督自身がそういう場面を楽しそうに見ているんですよね。スタッフも穏やかですし、監督が仁徳のある方なので、良い雰囲気なんです。
西島:全然そんなことないですよ。ウェイン・ワン監督の現場(映画『女が眠る時』)の時に、ベッドシーンがあったのですが「もう一回、もう一回」ってずっと回しっぱなしで「永遠やるのか」って思いましたよ(笑)。今でもコテンパンにやられています。どちらかというと辛い現場の方が多いです。でも、さすがに罵倒するような監督っていなくなりましたよね。撮影の時間が限られている場合も多いですしね。
竹内:物言いが強い監督でも、実は愛情があるんだ……ということに気づかないで過ごしていた10代後半は「なんて怖い監督なんだ」って思ったことはありましたが、いまは厳しい監督にお会いしても「なにか狙いがあってやっているんだな」って自然と考えるようになったので、よっぽどのことがなければ、厳しいと思わないでしょうね。以前、ある監督の現場で「お前、幼稚園からやり直せ!」って叱られて、「(私が通っていたのは)保育園です!」と言い返して、また怒られたことがあったんです。その時はすごく厳しく感じましたが、本当はすごく優しい方なんだというのが分かったので、今だといい思い出なんですよ。
(text:磯部正和/photo:中村好伸)
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