1993年2月21日生まれ、大阪府出身。2009年に『仮面ライダーW』(EX)でデビュー。13年に『共喰い』に主演し、日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。『そこのみにて光輝く』(14)で高崎映画祭最優秀助演男優賞、日本映画批評家大賞助演男優賞などを受賞。連続テレビ小説『ごちそうさん』(13/NHK)などドラマでも活躍。精力的に映画出演をこなし、今年はこの後、『セトウツミ』、『何者』、『デスノート2016』、『溺れるナイフ』が公開を控えている。
大学院の哲学科で論文のテーマとして、見ず知らずの他人を尾行し、その生活や行動の記録を担当教授から勧められた珠。同棲中の恋人・卓也にも事情を明かせないまま、自宅アパート近くに妻子と暮らす編集者の男性を対象に選ぶ。尾行する者とされる者、それを傍観する者、それぞれの葛藤を描いた『二重生活』。
戸惑いながらも対象者を追い続ける珠を演じた門脇麦と、秘密を抱えた恋人の行動に翻弄される卓也を演じた菅田将暉に、2人の関係について、ドキュメンタリー撮影にも似た岸善幸監督との仕事について語ってもらった。
門脇:面白いし、すごくひきつけられるんですけど。何が面白くて、何にひきつけられているのかが分からず、何だろうなというか。どういうふうに、この面白さを言葉にするのか、難しい面白さを映画に落とし込めていくのかな、というのが最初の印象でした。
菅田:ちょっと非日常的な行動によって、すごく生々しくというか。身近なものが分かることがあるんだなっていうのはちょっと思いました。だって“カノジョが尾行しています”なんて、若干ファンタジー入っている。でも、読んでいて違和感は別にないし。僕はやっぱり自分の役があるので、その目線で読んでいましたけど、2人のすれ違いは妙にリアルだな、というのが最初の印象です。
門脇:今思い出したんだけど。
菅田:うん、何でしょう?
門脇:(笑)2人はわりと冷めている関係じゃないですか。そういう付き合いをしたことがないから、だから、「その感覚が分からないね」って、お互い言った気がする。
菅田:僕、全然覚えてないけど。
門脇:何か、冷めているっていうか。それで「分からないね」みたいな感じの。
菅田:それはしたね。僕が良かったなと思ったのは、一緒に住んでいるっていうことは、生活リズムというか、呼吸や行動のスピードがそんなに遠くない人なのかなっていうのは思っていて。個人的にはずっと急いでいる人とか、声が大きい人とかって苦手なので、そうじゃなかったから。
門脇:ああ。
菅田:それは何か生活感としては一緒に居やすいなという気がしました。
門脇:本当にそれは、最初からあまり違和感はなかったです。「どうしよう?」とかっていう、感じはあまりなかったなと。
菅田:そう、それはなかった、今思うと。
菅田:でも、友だちっていっても。
門脇:友だちじゃない(笑)。
菅田:そうなんだよね。共通して何人か知り合いがいるっていうだけで。
門脇:でもやっぱり、似た人と仲がいいということは、何となく波長も似ているんじゃないですか。
菅田:まあそうだよね、そういうことはある、確かに。
菅田:なるほど、ちょっと行動が女性的かもしれないです。
門脇:うん。
門脇:そうです、珠のほうが自分のために生きています。
菅田:そうですね。
門脇:おとなしいし、自分の主張をはっきり言うわけではないけれど、自分のことしか考えていないので、それはあるかもしれないです。確かに、いつも気を使ってもらっている感じでした、どのシーンでも。
菅田:確かに、ずっと見ていたかもしれないです、僕は。
門脇:そうです、そうかも。私、見ていなかった、そういえば。
菅田:そうだね、めっちゃさみしかったもの。
門脇:あんまり、卓也の印象がないというか(笑)。
菅田:全然見てない、みたいな。
菅田:僕は何か“見つけた”感がありました。この人だ! みたいなのがあって。すごく好きでした、楽しかったです。ああいうドキュメンタリーの撮り方。全部の映画をああやって撮っているわけではないでしょうけど、僕は面白かったです。
門脇:私もです。ご一緒したいと思っていたので、楽しかったです。
菅田:そうです。カメラマンさん自体が能動的に動いていく。逆に、僕らは受動的なのかな、それに対して。あまり、僕らは意識せずの感じでした。
菅田:任される感じって言われると、はっきり答えにくいのですけど。でも、任されてはいたんだよね。
門脇:そう。だんだんカメラマンの夏海さんの呼吸も分かってくるんです。だから最後の方はいつも夏海さんと芝居しているみたいでした。夏海さんがテンションを上げてくるのと共に、自分も上げていくじゃないですけど。ずっと一緒に、呼吸している感じがしました。
菅田:それは、すごい。僕は全然、そこまで行き着いてなかったです。
菅田:僕、2日とちょいくらいです。初日と、2日目でほぼ。
門脇:でも、わりと順撮りだったような。
菅田:ほぼほぼ、順撮りだったかもしれない。この脚本上のシーンの流れで撮ったとしても、わりと人生の中のこんなところなので。
門脇:でも、あまり感じなかったです。
菅田:うん。不思議な現場だったので。
門脇:このシーンはこれくらいだからこの距離感でとか、特に考えなかった気がします、何か。
菅田:編集なのかな、あれは。
門脇:(笑)でも、それはあると思う。
菅田:編集はでも、かなりあると思うのですけど。
門脇:それは絶対ある。
菅田:「自信ある」って、言っていたし、岸さん。
門脇:「編集の鬼」って、自信を持って言っているから。自分の頭の中に画があって、それを撮りたいという人と真逆なところにいる方なので。そこで生まれたものをすくい取ろうという撮り方だから。画でつなげるというよりは、空気でつなげている。「好きにやってください、つなげますんで」と言ってくれるのは、やっぱり流れている空気でつないでいっていると思います。だから、カットなかなかかからないのも、余白の空気で次とつなげていく感覚はあったんじゃないかなと思います。
菅田:撮られている感覚もあまりないからか。1回、本番中、寝ていたこともありました。
門脇:寝ていた、寝ていた。
菅田:そう。寝ていて、しばらく寝ぼけていて(笑)。1回寝ちゃって。卓也が寝ているシーンではあるのですけど。でも、珠が出て行ったら実は起きていた、みたいな。
門脇:(笑)そう。でも目が開かない(笑)。
菅田:仕事だからあり得ないことなんですけど。そんなことがあった現場でした。そのくらい、体のテンションが普段とそんなに変わらなかったかもしれないです。
菅田:そうですね、「撮られていない感覚」とは言いましたけど。でも確かに、その角度とか見せなきゃいけない瞬間っていっぱいあったので。何て表現したらいいのでしょう、僕出ているよね、この映画?
門脇:うん(笑)。
菅田:(笑)でも、間違いなく言えるのは、映画を見た時に、今までで初めて、自分が出ているのに出ていないような見方ができました。
門脇:ああ、でも私もそうだ、それ。
菅田:一観客として楽しめました。
菅田:そう、おかしな話なんです。現場であまり演じている感覚がないっていうことは、自分に近いわけじゃないですか。なのに、自分が映っているのに客観視できるという。
門脇:うん、確かに。そうです。私、自分が出ている作品だと自分のあら捜しばかりになってしまうので。現場のことを思い出したり。でも、それが一切なかったんです、本当に。自分が想像していないところに着地していたので、不思議な感覚でした。
門脇:意外と自分のことって一番分かっていないけど、演技しようとすると、自分の考えで陰りができるじゃないですか。ここからここまでの、陰りを埋めようっていう。でも、自分が知らない自分まであるからこそ、客観的にもしかしたら見えるのかもしれないですよね。芝居をしようとすると、やっぱり自分がやろうと思っていることを出すという。今回はそこじゃないところなので、逆に客観的なのかもしれないです。
菅田:うん、そうだ、それはすごく二重生活という感じがする。
門脇:切り口としては哲学で尾行で、と説明しづらいと思いますし、ジャンルですら、サスペンスなのかヒューマンなのか、どう区切ったらいいか分からない映画です。でも、思考から始まる映画だと思いきや、最後は一番ピュアな感情にストンと落ちてくるので。フラットにというか、素直に気持ちだけで見てほしいと思います。
菅田:そうですね、面白いと思います。いわゆる映画でどういう共感みたいなものも、ハプニングもいっぱいあるし。最初からはたぶん想像できない物語もあります。シンプルに楽しめるエンターテインメント性もあるし。見ていていつの間にか、引き込まれるようになっていくのではないでしょうか。
(text:冨永由紀/photo:中村好伸)
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