1972年、アイルランドのダブリンに生まれる。『On the Edge』(01年/未)で注目を集め、『ONCE ダブリンの街角で』(07年)が世界中で大ヒット。アメリカではわずか2館の公開から口コミで140館まで拡大、異例の大ヒットとなり、インディペンデント・スピリット賞の外国映画賞を受賞した。『はじまりのうた』(13年)も全米を中心に大ヒットし、劇中歌「Lost Stars」もアカデミー賞の歌曲賞にノミネートされるなど世界中で話題に。
1985年のアイルランド・ダブリンを舞台に、学校にも家庭にも居場所を見つけられず鬱屈した日々を送っていた少年が、音楽との出会いを通じて成長していく様子を描いた『シング・ストリート 未来へのうた』。これまで手がけた『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』が日本でもヒットし熱い支持を得るジョン・カーニー監督の最新作だ。
U2のボノも絶賛した本作について、カーニー監督に語ってもらった。
監督:自分自身を反映した作品を作りたかった。ただの音楽の物語にはしたくなかったんだ。映画では基本的に、僕が主人公の年頃にやりたかったけれどできなかった全てのことを映画の中で実現した願望充足の映画なんだ。僕が12、13の頃、お金もなくて、荒れた学校に行ってた。学校には僕のことをボコボコにしたい奴らが溢れていた。彼らは僕のことが理解できなかったんだ。その頃の僕ができなかったことをこの少年を通じて少し冒険できたらいいなと思って。そこからこの映画が幕をあけるんだ。
私が子どもの時、自分のバッグを赤ちゃんのように抱きかかえている女の子がいたんだ。独特の色気があって。彼女が13歳で私が12歳の頃。毎日彼女とすれ違うんだけど彼女に近付き話しかける勇気がなかった。この映画は、そんなに若い年頃で誰かに話しかけ、好きな人に自分の存在をわかってもらうことがどんな気分なのかという話なんだ。
この女の子に近づいたときに次に何が起こるのかは予想できない。その瞬間自分が弾けてしまいそうな感じになるんだ。この映画の撮影中は毎日その感覚が蘇ってきたよ。だからこの映画を作ったおかげで僕は彼女も射止め、バンドも結成し、弱虫だった少年ができなかった全てをかなえることができたんだ。
この映画が何を言いたいかっていうと、幼い頃に何が起きたとしても、いじめっ子に狙われても、宿題をやらなくても、彼女がいなくても、ヘッドホンから音楽が流れていればそれで大丈夫だったんだってこと。
監督:政治的な側面や80年代のアイルランドの暗い生活を描きたいとは思わなかった。それよりも、これは家族がバラバラになる話だ。コナーは、自分の両親が離婚するかもしれないと知って、夫婦が別れても大ごとではなく子どもたちも平然としているアメリカのドラマを想像してそれに耐える。すべてを懸命に処理しようとする。僕はそれこそ、語るに値すると思うんだ。
そして、島国であるアイランドについての映画でもある。アイルランドでは、潜在的に閉じ込められてしまう可能性があるんだ。あまりに小さな国だし、人口も少ないからね。自分ではすごく頑張っていると感じていても、国際的な視野で見たら、たいしたことがないんだよ。コナーたちは、アイルランドで暮らすだけでなく、そこを離れてどこか違う所で経験を積まなければならないことに気づくんだ。
監督:フェルディアは聡明な若者でオーディションに来るたびに良くなっていったので選んだんだ。私のアドバイスをアレンジして次に戻ってきたから、映画に向いている性格だと思ったよ。大人になっていない若者がそれをするのは本当に大変なことだ。聡明な子だよ。ビジュアルもよくて、雰囲気もあり、声もいいしね。
監督:80年代に作られたと思える音楽を作りたかったんだ。80年代はそれまでになかった新しい音楽を作り上げた最後の真の10年間だと思う。80年代の音楽みたいな、キャッチーでサビが印象に残る、素晴らしい音楽にしたかったんだ。ただ、コピーではなくオリジナルの音楽としてね。
監督:フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは大好きなバンドの一つだった。聴くのをやめられないバンドについても前に誰かに聞かれたこともあったけど、他でもないレベル42だろう。僕はベーシストだったから、レベル42にかなりハマったよ。今でもたまに聴くことがある。そういう時、彼女は部屋を出て行くけどね。それでも大好きだ。シンス・ポップやファンク、そして誰もが聴いていたジョイ・ディビジョン、ザ・キュア、他にも色々なものを聴いたよ。アメリカの音楽もたくさん聴いた。多過ぎてきりがないね。
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