『AMY エイミー』アシフ・カパディア監督インタビュー

天才シンガーの知られざる素顔を描いた気鋭ドキュメンタリー監督

#アシフ・カパディア

これぞエイミーの究極の物語だというものを作らなければならなかった

2011年7月23日に27歳の若さで亡くなった歌姫、エイミー・ワインハウス。ミック・ジャガーがその歌声を絶賛し、レディ・ガガをはじめ多くのミュージシャンから尊敬され、才能を称えられた彼女の知られざる素顔を綴ったドキュメンタリー『AMY エイミー』が、7月16日より公開される。

複雑な家庭環境の中で育ち、激しい恋愛関係にのめり込み、スキャンダラスな印象の強い天才シンガーは、歌だけではなく、ソングライターとしての才能にも秀でていた。

そんな彼女がなぜドラッグに溺れ、悲劇的な最後を遂げることになったのか? 生前、「音楽しか才能がない」と語り、音楽を愛した彼女の半生を新たな視点で描いたのは、『アイルトン・セナ〜音速の彼方へ』で英国アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した新進気鋭の映像作家アシフ・カパディア。そのカパディア監督に話を聞いた。

──エイミーの貴重なプライベート映像が印象的です。どのように製作していったのですか?

『AMY エイミー』
(C)Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky

監督:本作は3年かけて製作しました。きちんとしたリサーチチームがあり、できるだけ多くの人に連絡をとって話を聞き出しました。なぜならエイミーのドキュメンタリー映画ってこれまでいろんな形で出てきているけれど、これぞエイミーの究極の物語だというものを作らなければならなかったからなんですね。彼女がどういうことに動機づけられて、どういった私生活を送っていたのかを含めて、とにかく徹底的に描きたかった、徹底的に探りたかったということでいろんな人と話をしました。

──特に注意したことなどは?

監督:こだわりポイントとしては、1対1でカメラを使わずに話すということです。カメラがあると身構えて本当のことを聞き出せなかったりするんですけれど、今回の場合は本当のラジオ番組のように部屋の中で1対1で座り、音を録っているミキサーも別室にし、照明を落として喋らせました。すると取材対象者はほっとするから安心していろいろ話し出すんですね。最初は「嫌だ嫌だ」と言っていた人が、1時間、2時間、そして4時間、5時間も話してくれてどんどん心を開いていったんですね。取材対象者の彼らもエイミーに先立たれてしまっていろいろ心に抱えていたので、この映画が彼らにとって一種のセラピー的な効果をもたらしたようにも思います。そのせいかどんどんどんどん私たちを信頼していってくれるようになりました。すると、「今度はこいつに話を聞いてみたらいいよ」って友だちを紹介してくれるようになりました。最初は「映像なんか持っていないとか言っていたけど本当はあるんだよね」って見せてくれたりして。つまり周りの人との1対1の対話を重ねていく中でその過程を経て映像にだどりつけた感じでした。

感情を揺さぶる作品になっていると思う
『AMY エイミー』
(C)Rex Features

──映画の見どころを教えてください。

監督:この映画は、私の前作『アイルトン・セナ〜音速の彼方へ』の製作陣が作っています。エイミーが亡くなったとき、散々マスコミやタブロイド紙に騒がれ、みなさんエイミーを知った気になっているつもりかもしれないですが、この作品に描かれているのは本当のエイミーの姿です。きっと多くのみなさんにとって予想外のストーリーだと感じるのではないでしょうか。それと共にきっと本作を見て笑うこともあるでしょうし、また泣くこともあるでしょう。いずれにしても感情を揺さぶるものになっていると思います。この映画を見てこれまでエイミーが作ってきた音楽の聞き方が変わってくるんじゃないかと思います。非常にパワフルな映画になったと思います。

──最後に、日本の観客へのメッセージをお願いします。

監督:とにかくこれは、リアルなエイミーを見せる映画です。わたしは彼女の周りの友だちだとかマネージャーのニックとか彼女を愛していた人たちから君はいったいどんな映画を作るのか? ダブロイド紙とかスキャンダラスなエイミーを撮るのか、あるいはリアルな本当の彼女の姿を撮るのか? どっちのエイミーを見せるのか?と試されていました。
 わたしはリアルなエイミーを撮るということを一つのミッションとして撮りました。この映画の中では非常に可笑しくってひょうきんで美しくって聡明な、有名人になる前の素敵なエイミーがフューチャーされています。有名人になるということは、本当に人に害を与えることになるんですよね。名声というのは身を滅ぼす元です。この映画ではアイコン的存在になるよりも前の、幸せで若いエイミーを見せます。人間として、とても素晴らしく特別な存在だったと思いますし、彼女は愛と保護を求めていたんだと思います。しかし残念ながら、望んだものをあまり得られなかった人だったということをみなさんに見ていただければと思います。

(C)Winehouse family
(C)Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky

アシフ・カパディア
アシフ・カパディア
Asif Kapadia

1972年、ロンドンに生まれる。英国王立芸術大学で映画製作を学んだ後、インドで卒業制作の短編映画『The Sheep Thief』(97年)を撮り、1998年カンヌ国際映画祭(シネフォンダシヨン部門)で2等賞を獲得。F1界の伝説的レーサー、アイルトン・セナのドキュメンタリー映画『アイルトン・セナ〜音速の彼方へ』(10年)で英国アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞および最優秀編集賞をW受賞、2011年サンダンス映画祭でドキュメンタリー部門観客賞を受賞するなど、数々の国際的な映画賞を獲得したほか、ドキュメンタリー作品としては英国史上最高の興行成績を収める。その他、シェル・ヨー主演のサスペンス『ザ・ノース-北極の宿命-』(07年)も監督。今後は、伝説のサッカー選手マラドーナのドキュメンタリー映画(18年完成予定)の監督をつとめることが発表されている。