『ヤング・アダルト・ニューヨーク』ベン・スティラー インタビュー

若者に振り回される中年男を好演!

#ベン・スティラー

スナップチャットは何度説明されても分からない

インターネットやSNSが生活に不可欠なジェネレーションXの中年夫婦と、SNSとは距離を置きアナログを取り入れながら生活するジェネレーションZの若者カップル。現代社会ならではのジェネレーションギャップをユーモラスに描いたのが『ヤング・アダルト・ニューヨーク』だ。

次世代のウディ・アレンと評されるノア・バームバック監督が贈る、若いつもりの40代と成功したい20代カップルの交流物語について、主演のベン・スティラーにインタビューした。

──SNSと共に育った若者に振り回される主人公を演じていましたが、実生活ではスナップチャットとかVineを見たりしますか?

スティラー:スナップチャットね。あれは何度説明されても意味が分からないよ。だってずっと写真を指で長押ししてなきゃならないんだろ?(ストーリー機能を使ったものでも)24時間後に消えてしまう。娘にスナップチャットをやってるって言ったんだよ。そうしたら娘が「使いこなせないに決まってる!」って言うんだよ。僕にやってほしくなかったのさ。

撮影中の様子

──娘さんはスナップチャットをやられているんですか?

スティラー:あぁ、もちろんだよ。

──映画についてうかがいます。この映画で、あなたとナオミ・ワッツが演じた中年夫婦はまだまだ若い気でいて、自分たちよりずっと年下の人たちと交流しますね。新しいものを追いかける主人公を演じていかがでしたか?

スティラー:理解はしやすかったよ。僕たちはいつまでも若い気でいるけれど、突然、自分より若い人と対面する。若いかどうかっていうのは結局、相対的だよね。両親の世代と比べて自分が若いって思っているんだから。でも40代に突入したら、間違いなく大人の部類だってことを否定できない。こうやって気付くっていうことが、この映画のテーマのひとつだと思う。若い人たちと付き合うと、自分との違いと、まねをしても何かが違うってことに気付く。若い人たちは、インターネットとかソーシャル・メディアとかコンピュータ関連のものとかが当たり前にある中で育ってきたから当然なんだ。僕たちの世代が子どもの頃は、ある意味アナログもデジタルも両方あった。おもしろい世代なんだよ。まだコンピュータが当たり前じゃなかった頃、ラジオシャック社製のコンピュータTRS-80があったのを覚えている。携帯電話が最初に出たときも覚えているよ。一方でタイプライターもあった。父親がオープンリール式のテープレコーダーを持っていたのも覚えているし、僕はスーパー8を持っていた。カセットやビデオ・カメラからCDへの移行も見てきたよ。メディアの進化っていうのはあっという間に起こる。僕たちの世代は進化を覚えているけれども、若い世代は覚えていない。さらに若い世代になると、そういう進化があったことすら知らないんだ。

──今まで若いと思っていたのに、実はもう若くないと気づくのは、どういう感覚なんでしょう?

スティラー:何事も永遠に続くわけじゃないって理解することなんじゃないかな。人生の早い段階で気付く人もいるし、そうじゃない人もいる。幸運にも体は健康で人生は順風満帆、人生について考えるような年齢まで生きられるとしたら、自然と分かることなんだと思う。自分にとって人生でいったい何が大事で何を気に掛けているのか、そういうことを前向きに考えて、限られてこその人生だって受け入れるんだ。受け入れないってことはできない。みんな状況は同じ。僕は、楽しめることは楽しんで何事も当たり前のことだって思わずに感謝しながら、ポジティブに生きているよ。

気晴らしという考え方は、最も危険なことだと思う
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
(C)2014 InterActiveCorp Films, LLC.

──若い頃は流行を追い求めるものですが、あなたの場合はどういうタイミングで「流行はもういいや」と思いましたか?

スティラー:人間には年相応の服装っていうものがあるし、年相応の音楽ってものまであるって気付いたんだ。僕も、イマドキの曲は好きだしできるだけ追いかけようとしているけれども、気付くと90年代の音楽に特化したラジオ局をかけてしまっているんだ。90年代のオルタナティブとかグランジは僕の青春だからね。僕の父親はジャズとかそういうのを聴いて育った。なんでか分からないけど60年代初め頃に一度聴くのをやめたけど、今は結局またジャズに戻っている。最新曲を常にチェックしておけばいいってことじゃないんだ。聴いていて心地よいものを聴けばいい。服についても同じことが言える。僕は気付いたらずっと同じジーンズと同じ黒のパンツをはいていたんだ、別に意識してじゃないよ。本当はそんなに良くないことだろうけど、映画だったら笑えるようなことだよね。僕が演じたジョシュも同じさ。最近のファッションってレトロなものが多いだろ。今流行のノームコアはいたって普通の服だ。でもあれって結局クールな人間が着るからクールなんだよ。誰が着ているか、どんなふうに着こなしているかがファッションを定義付ける。だから、おじさんが若者向けの帽子をかぶるっていうあのシーンがおもしろくなるんだ。

『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
(C)2014 InterActiveCorp Films, LLC.

──劇中、主人公を振り回す若者ジェイミーが「情報は若い人にとってはタダで使える」というようなセリフを言います。とても興味深いセリフですね。

スティラー:今の若い世代はYouTubeやインターネットを使っていろんな意見に触れている。そうするとそのうちに、その意見を自分のものにしてしまうんだ。それって、ほぼ盗作だよね。でも現実にこういうことが起こっているんだ。現代の芸術の多くが他の作品やこれまでの作品に基づいていて、それを再利用だとか再構成だとか言っている。映画とか何かの作品のクリップを見て「あんなの初めて見た、本当にクールだ」って言うだけなら簡単だ。20年前からね。突如として、ただ単に再構成、もしくは再上映しているだけのものが、きっとクールで、何か重要な意味があるんだろうってことになっている。もの作りの過程においても同じことが言える。何かを作ることが今はとても簡単になってきている。iPhoneで映画を撮れるし、携帯電話やパソコンで編集もできる。YouTubeとかを使って世間に発表できて、かつては何週間も何ヵ月もかかっていた作業を数分間で終わらせることだってできる。もの作りの過程そのものが変わってしまったんだ。

──あなたはクリエイターでもありますね。今はどんな情報でも簡単に入手できますし、変化も著しい。こういうことはあなたの映画作りに影響はありますか?

スティラー:僕はソーシャル・メディアは気晴らしだと捉えている。いつの世にも気晴らしはあるけどね。何か面白くないことをやろうとすれば、どこかに行くとかいう気晴らしが生まれる。石器時代の人間にだって気晴らしは絶対にあったよ。壁に絵を描いているときに他の岩とか何か別の物を見ていたりね。何も考えたくないしこれもやりたくない、だから気晴らしをしよう、って感じさ。これが最も危険なことだと思う。何ができるか、何が創造できるか、自分の能力に限界を作ってしまうから。子どもを博物館に連れて行き、すばらしい芸術品や工業品など、テレビができるまでの何世紀もの間、人間が行ってきた偉業を見せると、これが今みたいな娯楽ができる前に人々がやっていたことなのかって気付く。コンピュータが得意で、コンピュータがあれば生きていけるような一部の人間を除いたら、こういった気晴らしが僕たち自身に、または僕たちの創造力にどういう影響を与えるのか、疑問に思うよ。

ベン・スティラー
ベン・スティラー
Ben Stiller

1965年11月30日生まれ、アメリカ合衆国ニューヨーク市ブルックリン出身。テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で人気を得、コメディ俳優として活躍。94年に『リアリティ・バイツ』を監督・出演し高い評価を得る。『メリーに首ったけ』(98年)、『ミート・ザ・ペアレンツ』(00年)、『ズーランダー』(01年)、『ナイト ミュージアム』(06年)などに出演。『マダガスカル』シリーズではライオンのアレックスの声優をつとめてる。監督・出演した『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08年)、『LIFE!』(13年)なども高く評価されている。