『花芯』村川絵梨インタビュー

大胆演技でイメージ一新! スキャンダラスな役で得た境地とは?

#村川絵梨

強い女性への尊敬があるので、格好いいなって思った

瀬戸内寂聴が、1957年に発表し文壇界から「ポルノ小説」「子宮作家」と大いなる批判を受けた小説『花芯』が、約60年の歳月を経て映画化された。性に奔放ながらも、一本筋の通った強い女性・園子を演じたのは女優・村川絵梨だ。

これまで「女の子」を演じることが多く、あまり「大人の女性」というイメージがなかった村川が、劇中では「からだじゅうのホックが外れている感じ」の女性を熱演した。過激な描写も多い作品への出演に「今のタイミングじゃなければ決断できなかった」と語った彼女の本音に迫った。

──園子という役は、伴侶となる夫に対して愛を感じられず、子どもがいながらも他の男に惹かれていくような、一見理解しがたいような女性でした。原作や台本を読んで村川さんはどういったキャラクターと位置づけたのでしょうか?

『花芯』
(C)2016「花芯」製作委員会

村川:女性って現実的で、何かに立ち向かった時にブレない強さを持っていると思うのですが、そういう強さが園子の中にはあるなって感じました。私は結婚もしていませんし母にもなっていないので、未知の世界なのですが、強い女性への憧れや尊敬は強いので、そういう部分は共感できたし、格好いいなって思いました。これまで出会ったことのない役だったので、この女性に向き合ってお芝居をしたらどうなるんだろうというワクワク感もありました。

──ご自身とはかけ離れた役柄に対してどのようにアプローチしていったのでしょうか?

村川:寂聴さんが描いていた園子というのは「からだじゅうのホックが外れた女性」ということでしたが、そこを考えると自分の中で迷宮入りしてしまったんです。原作では、園子は娼婦になったりしているのですが、そっちに軸を持っていくと、どんどん自分からかけ離れていってしまうので、男性に対しても世の中に対しても自分の意志をしっかり持って、色々なことに対峙していくブレない強さを表現したいと思いました。とは言っても、園子は静寂の中の強さで、あまり多くを語りません。私はもっと感情の起伏が激しいタイプなので、演じながら園子の像へ軌道修正していきました。

濡れ場の多いこの役は、2年前だったら尻込みしていた

──園子のブレない強さは、男性にとっては残酷ですよね。

村川:だいぶ残酷ですよね(笑)。ちょっとミステリアスな部分があるから掘りたくなるけれど、掘っていったらバンと突き放されて残酷な面を見せる。相手を傷つけようとしていないぶん、余計きついと思います。

──劇中には激しい濡れ場などもあります。台本を読んでそういう描写があることは分かっていたと思いますが、出演することへの戸惑いやためらいはなかったのでしょうか?

村川:女優という道を選んで、それを好きでやっていたらいつかこういう役に出会うんだろうなとは思っていました。女の人生を描くなかで、人生を掘り下げる作品に出れば、こうした描写は必要不可欠ですし。それがいつなんだろうという思いはぼんやり持っていたのですが、そんな時、この作品に出会ったんです。身体で感じることが肝になってくる作品で、ちょっとした躊躇はありました。多分2年前だったら決断できなかったと思います。でも、27〜28歳になって、大人の女性の役をいただけて嬉しかったですし、自分自身も共感できる部分も多く、これをしっかり体現できたら、この仕事をやっていくうえで、誇りになるんだろうなって思ったんです。

──公開が近づいてきて、作品内容も報道されることが多くなってきています。お気持ちに変化はありますか?

村川:公開前になって、賛否は色々出てくると思いますが、多くの人に見てもらいたいという気持ちの方が上回っています。劇中、饒舌に語るシーンもほとんどなく、ここまで女性の繊細な気持ちを感覚で表現することは大きなチャレンジでした。そんな思いに寂聴さんも「身体を張って頑張っていたわね」って言ってくれたんです。すごく嬉しかったし、今は晴れ晴れしい気持ちです。

──寂聴さんとは撮影前にもお会いになられたのですか?
『花芯』
(C)2016「花芯」製作委員会

村川:いえ、撮影が終わった後に京都でお会いしました。とてもパワフルな方で、年齢を感じさせないくらいハキハキとお話しされていました。「この作品が映画化されたことがとても嬉しい」と仰っていて、寂聴さんにとってもすごく思い入れが強かった作品みたいだったので、そんな作品に参加できてよかったなって改めて思いました。

──映画では、恋と愛の違いが感覚的に描かれています。村川さんもこれまでの人生で、そうした違いを意識した経験はありますか?

村川:ないんですよ。私もこの作品で、自分の人生を振り返って考えてみたのですが「愛している」なんて、なかなか言えないなって改めて思いましたね。「好き」ということは感覚として分かりやすいのですが、「愛してる」という言葉はすごく難しい。この作品に出会ったおかげで……というか出会ってしまってから、すごく愛と恋の違いを考えるようになりました。まだ私は愛を知らないなって。

『花芯』
(C)2016「花芯」製作委員会

──この作品に出演して、人生観や恋愛観は変わりましたか?

村川:元々恋愛に関して執着できず、現実的になっちゃうタイプだなという自覚はあったのですが、そういう意識に磨きがかかってしまった感じですね(笑)。

──劇中には、園子に翻弄される男たちが出てきますね。

村川:この作品に出てくる男性は、見事なくらい男っぽい。それは男らしいという意味ではなく、女性を美化してしまう部分が……。「君を汚してはいけない」とか「君のために純潔でいたから」みたいな。「女性はそんなに美しいものじゃないよ」というジレンマや反発心を抱いてしまいますし、男女って一生理解しあえないのではないかというメッセージを感じてしまいます。

男の人には振り回されたくない、絶対に
──女性にとって男性はどんな存在であるべき?
『花芯』
(C)2016「花芯」製作委員会

村川:すごく深いですよね。それって本当に人それぞれ。園子みたいな人は、男性を必要としなくても生きていける強さがあり、孤独と向き合える人。でも女性って本来すごく寂しがり屋だと思うんです。男性ももちろん寂しがり屋だと思いますが、女性の方が耐性が低いので、その意味では男性の存在は大きいのかなって思います。でも最近は草食系男子がもてはやされているようなので、もう少したくましくなってほしいなと思うこともあります。

──村川さん自身は?

村川:私は男の人には振り回されたくないですね、絶対に(笑)。

──本作を見ていると、人の幸せってなんだろうと考えてしまいます。ご自身にとっての幸せは?

村川:私は大きな幸せは、女優という仕事を続けられること、小さな幸せは美味しいご飯を食べたりお酒を飲むことかな。女性の幸せというより、そういった日常の幸せの方が今は強いですね。

『花芯』
(C)2016「花芯」製作委員会

──女優という仕事を続けることが大きな幸せと仰いましたが、ご自身のキャリアのなかで、本作との出会いはどんな意味がありましたか?

村川:作品中、ずっと和装で演じたことがなく、年齢的には女性というステージにいるのに、今まで“女の子”の役が多かったんです。その意味では初めてのチャレンジがたくさんありました。想像しなかった自分を発見できたし、この作品を見た方が、今までの私と違った面を切り取って、さらなる新しい役と出会える可能性があるのかなと思うとすごくワクワクしています。女優という職業の責任を感じ、重いリュックを背負いながら演じた時間は貴重でした。ここから30代に向けて新たなスタートを切れるかなと思っています。

──今まで気づかなかった自分とは?

村川:これまで波瀾万丈な人生ではなかったので、こういう役を演じられるとは正直思っていませんでした。情愛や女性のなかの揺れ動く繊細な気持ちを、言葉だけじゃなく表現することなんて10年前には想像していませんでした。

──本作では「子宮の叫び」という表現が出てきます。どういった叫びでしょうか?

村川:子宮イコール女性にしかないもの。女性の感覚の代表であり嘘がつけない心の叫びなんだと思います。

(text&photo:磯部正和)
(ヘアメイク:フジワラ ミホコ(LUCK HAIR)/衣装協力:銀座いち利)

村川絵梨
村川絵梨
むらかわ・えり

1987年10月4日生まれ。大阪府出身。02年にダンス&ボーカルユニット「BOYSTYLE」で歌手デビューを果たすと、04年に映画『ロード88 出会い路、四国へ』で主演を務め、本格的に女優活動を開始。05年には連続テレビ小説『風のハルカ』で朝ドラのヒロインに抜擢。その後も、コンスタントに映画やテレビドラマに出演し、キャリアを重ねる。