コロンビア・ピクチャーズを経てハリウッド・レポーター誌国際版編集長をつとめた後、制作会社を設立。2012年に初監督作『MA PREMIERE FOIS』を制作。主な監督作は『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(14年)、『ヘヴン・ウィル・ウェイト』(未/16年)など。また、プロデューサーやテレビ局スタッフ、ジャーナリストなどから成るフランス映画の女性サークル「CERCLE FEMININ DU CINEMA FRANÇAIS」を設立。
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー
落ちこぼれ生徒と女性教師の感動の実話を映画化!
将来へのあきらめややり場のない怒りを抱く落ちこぼれたちが、全国歴史コンクールに入賞──貧困層が暮らすパリ郊外の高校を舞台に、民族的・宗教的な対立をクラスに抱え、学校からも見放された生徒たちと1人の熱意ある教師が紡ぎ出した実話を基にした『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』が、8月6日から公開される。
厳格な歴史教師アンヌ・ゲゲンのアウシュビッツに関する授業が生徒たちの心を打ったのはなぜなのか? 教育の大切さを真摯に教えてくれる本作について、マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督に話を聞いた。
監督:アハメッドは(映画の舞台となる)レオン・ブルム高校の最終学年にいて、2012年に公開された私の映画『MA PREMIERE FOIS』を映画館で見たそうです。それから、彼が書いた60ページほどの脚本の下書きを読んで欲しいとメールで連絡をしてきました。ストーリーは、とある高校にやって来て、このコンクールに参加させることで生徒たちを成長させていこうとする教師の情熱の物語でした。私は、この物語のアイディアがどこから来たのか知りたいと思いました。そして、アハメッドと彼の同級生たちの人生が、「レジスタンスと強制収容についての全国コンクール」に参加し、優勝をしたことに強く影響を受けたと知りました。このコンクールの存在は知りませんでしたが、アハメッドにこの出来事について語ってもらい、この集合的な経験が大きく彼を変化させたということを感じられました。すぐに、 この話についての映画を作りたいという欲望が湧いてきました。
監督:脚本に描かれていない話も、アハメッドが少しだけ触れたエピソードも、全てが感動的で驚きだと伝えました。世間一般が持つ敗北主義や、若者たちによく見られる無関心主義には流されないと決めた、この青年の道のりに心を動かされました。私に何ができるかを聞いたら、驚いた様子でした。次にアハメッドに会った時に、彼の担任だったアングレス先生に電話をしました。先生は、 自分と一緒に過ごした1年間が、こんなにも1人の生徒に影響を与えていたことに、とても驚いていました。
監督:アハメッドとのコラボレーションは、まずアハメッドをよく知ることから始めました。なぜなら、私と彼は文化も宗教も性別も年齢も、何もかも違うからです。でも彼の体験したことをそのままの形で映画にしたいと思ったので、何度も話を聞き、何度も質問をし、彼の家で家族とも過ごし、一緒に考え、協力しあいました。1つのシーンを思いついたらアハメッドに読んでもらい、このセリフでいいのか、こういう仕草をするのかなど色々聞いて作りあげました。彼は出演もしたがっていました。だから条件をつけたのです、高校を卒業してバカロレアに受かったら、と。私としては彼に出演してほしかったので内心ドキドキしていましたが、彼は無事にバカロレアに受かりました。
監督:よく理解するためにレオン・ブルム高校でアンヌ・アングレス先生の授業に何度も出席しました。彼女の、愛情に満ちながらも権威を保つ姿勢と、それが生徒との間に相互的な敬意を生み出している様子に感心しました。生徒たちはアングレス先生が厳しいという噂を聞いているので、始めはビクビクしていますが、1年が終わる頃には先生から離れることを悲しむのです。先生は生徒たちを、彼らが想像するはるか上のレベルまで成長させてくれるのです。他にも、様々な高校の授業に出席しました。今の高校1年生というものがどういうものか理解したかったのです。たいていの教師は軽い口調で話し、生徒はポケットの中か膝の上にある携帯電話に気を取られながら授業をチラチラ見ています。そして突然身をかがめてメールを送る。教師の声は切り離されていて、教師の話は生徒たちと結びつくことがありません。
監督:この話は、反抗的な子どもにも情熱を持たせることができると伝えています。生徒たちは能動的になって初めてコンクールに興味を持ち始めます。その重要なきっかけは、思春期に強制収容されたユダヤ人の証言者、レオン・ズィゲルとの出会いです。レオンは学生を前に自らの体験を語り、それは70年にわたる彼の使命でもあります。この、歴史が宿った目、視線との出会いは、このコンクールに参加したすべての生徒を大きく動かすきっかけになりました。私は、レオン・ブルム高校で、アハメッドがコンクールのための準備をしていた時に実際に高校にやって来たレオンの出演を強く希望しました。
監督:このタイトルは、映画が完成してから思いつきました。この言葉を、今の多様なコミュニティーの出身で、多様な宗教背景を持つ若者たちに結びつけることに大きな喜びを感じます。この映画で重要なのは「héritage(遺産、継承)」についての問いだと思います。私たちは何を受け継ぐのでしょう? それから私たちは「héritiers (後継者たち)」に何を残すのでしょう? 歴史の遺産をどう扱うのか? 文化的、社会的、歴史的遺産を無視すること、他者の遺産を理解することはできるでしょうか? 何を守るのか? とういった問いを投げかけています。
監督:日本で本作が公開されることになり、とても嬉しいです。
国も文化も言葉も歴史も違う日本でどういう風に受け止められるのか、まったく未知数で興味があります。私の来日中に、この映画を見た16歳の高校生が感動し涙を流したと聞きました。日本とフランスは言葉もバックグラウンドもまったく違います。ましてや歴史も違う、こんなに遠い国にある日本なのに感動を届けることができた、つまり映画がひとつの言語になったのです! これこそが映画が持つ力であり、これこそが奇跡と呼べるのではないでしょうか。
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