愛知県名古屋市出身。ニューヨーク在住の映画監督兼写真家。写真家で映像作家でもあるロバート・フランクのドキュメンタリー『A Weekend with Mr. Frank』(97年)を監督。13年、長編プロジェクト『ROAD KILL』がカンヌ映画祭アトリエ部門でアメリカ代表として招待された。14年に完成した長編映画『An Ornament of Faith』はIFP(The Independent Filmmaker Project/アメリカのインディペンデント映画をサポートする団体)によって同年デビュー作の中のベスト25に選ばれている。
圧倒的な存在感で人々を魅了した高倉健。私生活や素顔をさらすことを極端に避け、2014年11月10日に“伝説”となった彼だが、日本のみならず、海外からも絶大な人気を得ていた。そんな彼の軌跡を、マイケル・ダグラス、マーティン・スコセッシ、ジョン・ウー、山田洋次をはじめとしたそうそうたる映画人たちからの証言をもとにたどった『健さん』が好評公開中だ。
監督は、写真家としても活躍する日比遊一。ニューヨークを拠点に活躍する彼に、本作への思いについて語ってもらった。
監督:リアルタイムには見ていません。僕は俳優になりたくて地元の名古屋から東京に出てきたのですが、学校のクラスメイトに映画好きでいっぱい見ている友人がいまして、彼に負けたくなくて映画をどんどん見るようになりました。池袋や鶴見の映画館で上映されているヤクザ映画のリバイバルがあり、そこで、高倉健さんの出演作を見るようになったのが始まりです。
その後、20代でニューヨークに渡ったのですが、最初は英語もしゃべれず、友だちもいず寂しい思いをしている時、よく高倉健さんの映画を見て元気をもらっていました。著書も読んで「明日も頑張ろう」って思ったんです。僕にとってはバイブルのような存在で、俳優としとていうより、男として憧れの人でした。
監督:24年くらい前に(『パッチギ!』『フラガール』などを手がけた)プロデューサーの李鳳宇さんとお会いして意気投合したのですが、その後、24年ぶりに再会して話しをするなかで、いま、高倉健さんのドキュメンタリーをやろうとしてる」とお聞きしたんです。その時は自分が監督するなどとは考えもせず「ただ『現場で座らない』とか『律儀な男で』といった、これまでの高倉健さんのイメージに収まるような映画にはしないでください」と言ったことを覚えています。
そして李さんに「あなたならどう撮るの?」と聞かれ、ワーッと情熱的に、高倉健さんへの想いを熱く語りました。それが伝わり、監督をさせていただくことになりました。完成した映画の9割方は、実は、その時に話した内容なんです。
監督:ハリウッドのプロデューサーで僕の書いた脚本を高く評価してくれている方がいます。ウディ・アレンの作品や『スピード』に関わっていた方で、その方にインタビューの架け橋になってもらいました。そこからマイケル・ダグラスとは20通くらい、手紙のやり取りがありましたね。こちらの情熱だけでなく、高倉健さんという存在の偉大さがあって、インタビューに協力いただきました。
監督:ほとんどの皆さんが30分とか1時間とかオーバーして、高倉健さんについて熱く語ってくれました。
なかでもジョン・ウー監督は、「俳優に演出する際、高倉健をいつもイメージしている」と語っていて、すごいと思いました。思わず通訳に「本当にそんなこと言ってるの?」と聞き返してしまったほどです!
監督:世界での高倉健という存在の位置づけと共に、日本で、彼を陰で支えてきた人たちのお話をお聞きすることで、これまで見えてこなかった高倉健像が浮き彫りになる映画にしたかったんです。
監督:今の日本では「一生懸命頑張る」ってことが忘れられかけていると思います。「そんなに懸命にやってどうするの」とか「ボチボチで行こうよ」とか言われてしまう。それでも日本人は戦後ずっと一生懸命に生きてきてここまでやってきました。この映画を通して、
日本人の美しさを持ち続けた人としての高倉健の姿、メッセージを、ぜひ受け止めてもらいたいですね。
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