1985年11月30日生まれ、東京都出身。初主演『害虫』(02)で第23回ナント三大陸映画祭コンペティション部門主演女優賞受賞。主な作品に、映画『ツレがうつになりまして。』(11)、『舟を編む』(13)や、TVドラマ「篤姫」(08/NHK)、「あさが来た」(15/NHK)等。16年には『世界から猫が消えたなら』、『怒り』が公開。17年秋には『ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜』が公開予定。
20代30代の人気女優たちの中でも圧倒的な存在感を見せる橋本愛と宮崎あおいが、映画『バースデーカード』で母娘役として初の共演を果たした。本作は、吉田康弘監督が長年温めていたオリジナル脚本で、すでに文庫や児童書、コミックス、絵本にもなっている話題作。人とのコミュニケーションもデジタルが当たり前となっている現代で、手書きによる手紙の温かさや忘れがちな家族の絆を思い出させてくれる珠玉作だ。
そのなかで宮崎が演じたのは、病によって若くして命を落としてしまう優しい母親。そして、1年に1度だけ誕生日に届く天国の母からの手紙を心の糧に成長していく年頃の娘を橋本が演じている。そこで今回は、本作を通じて感じた思いや理想の母親像などについて語ってもらった。
橋本:紀子というひとりの女性の人生も描いているので、年齢に合わせた変化はあるなと感じていました。まず、演じたのは17歳というあどけなさやもろさを持つ年齢でしたが、そういうところから大人になっていくにつれて、細かった芯がどんどん太くなっていく変容というのをとても意識して演じました。
あと、私自身は女が多い家族で育ったので、父親と弟という男ばかりの家族に女性が入るときにどういう反応が生まれるのかなというのは事前には想像できなかったことでしたね。でも、ユースケ・サンタマリアさんが演じたお父さんがすごくステキでしたし、須賀健太さん演じる弟との絶妙な距離感も現場に入ってやっと体感としてわかったところがあったので、そこは現場や家族役のおふたりに助けられた部分が大きかったです。
宮崎:台本を読んだときに、「とても優しくて、子どもたちに弱みをみせないお母さんだな」と思っていましたが、その印象は自分が実際に現場で演じ終わったあとも、あまり大きく変わりはなかったです。ただ、でき上がった作品を見たときに、自分が(子役たちに)こんなに優しく話しかけてたんだなとは思いました。そんなに意識してなかった部分ですけど、子供たちを前にするとそういう声になるんだなと感じましたね。
橋本:お母さんとの思い出を本物の記憶として植えつけるために、宮崎さん演じる母の顔を見に行くだけでしたけど、幼少期のシーンを個人的に見学させていただいたりもしました。
宮崎:そうはいっても10歳違うので、自分の中では年齢は離れている感覚はありましたね。だから、自分がお母さんであるということに違和感はなかったです。ただ、橋本さんと一緒にお芝居できるシーンがほとんどなかったので、それは少し残念だなと思いました。
橋本:お母さんの手紙を読むというのが劇中にありますが、手紙というのはその人の字が書いてあって、そこには色々と宿ってますよね。それを見たときに、お母さんの息吹を感じたし、亡くなっていても4人家族というのは変わらず、その存在や気配は家族の中にずっとあるなと思いました。手紙があったからこそ、家族全員が持ち続けられた感覚だなって。お母さんとの1年に1回の対話なので、手紙を読んでる時がお母さんの存在を一番色濃く感じた瞬間だったと思います。
宮崎:今回、私の共演者としては、基本的に紀子の幼いときを演じた子どもたちでしたが、本読みの時に橋本さんまで、4代の紀子が揃ったんです。そのとき、みんな橋本さんに雰囲気が似ていたので、「みんな成長したらきっと橋本さんになるんだろうな」とものすごくしっくりきて。なので、私は目の前にいる小さな紀子を見ながら、奥にいる橋本さんを見てたのかなと思います。
橋本:宮崎さんと一度だけ対面するシーンがありますが、脚本を読んでいたときから好きなシーンでした。なので、いいシーンにしたくて集中もしたし、ほどよい緊張もありましたね。実際、そのときの宮崎さんの顔は忘れられませんし、宝物のような時間になったのは、思い出深いです。
あと、霧ヶ峰でキャンプをしたシーンでは、20歳の誕生日にカレーを作ったんですけど、ユースケさんが「アドリブで『カレーの隠し味に胃薬入れた』って言ってもいいですか?」って監督に質問したのが一番面白かったです。でも、「それは、次の作品でお願いします」って言われてましたけど(笑)。
宮崎:でき上がったのを見たところでいうと、紀子と正男の兄弟のやりとりが好きですね。橋本さんと須賀さんになったときはもちろん、その前の中学生時代のときもですが、お母さんがいなくなったあと、とても仲良しというわけではないけど、彼らなりに2人で寄り添って成長していっているなというのが感じられるので、そのやりとりが全編通していいなと思いました。
橋本:私が思っている役割は、映画を見ている人全員を感動させることなので、それを果たすためには色々しましたけど、現場での役割となると、あんまり考えないようにしていますね。ただ、今回は結構めまぐるしい現場だったので、そこに巻き込まれないように、「台風の目のなかにいる」という気持ちを維持するようにしていました。それがこの作品で私が判断した役割だと思ったので、あのときあの時点で判断した自分の役割は務めたつもりではいます。
宮崎:それはこれからの大きな課題だと思っています。というのも、今までは上の人に甘えてきたけれど、30代を迎えると下の年代の人たちとお仕事することが多くなったんです。ただ、年下の人と話すときにもず敬語になってしまうんですけど、年上の人が敬語で話すと、相手もずっと敬語のままなので、距離が縮まらないんですよね。
でも、例えば橋本さんに敬語を使わないで話そうとすると、「なんか偉そうに見えないかな?」とか余計なことを考えてしまうので、それがなかなか難しくて(笑)。だから、「もっとうまくコミュニケーションを取れるようになりたい」というのが、私のいまの一番の課題です。
橋本:私が母親になるとしたら一番の理想は、無欲であること。つまり、「その子のためなら、何を捨ててもいい」と思うことです。理想はまだはっきりとはわからないですけど、今はそれが一番強いですね。
宮崎:私は自分の母親です。だんだん親の気持ちがわかるようになってきた今、特に思うようになりましたね。私の母はとても明るくて誰とでも仲良くなれるので、「私の友だちだったのに、私よりも母と仲良くなっている」というタイプなんです(笑)。いつも心を開いている人ですが、そういう風に人を包み込むような優しさが強い人になりたいなと思います。
(text:志村昌美/photo:中村好伸)
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